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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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魔道具師のお姉さん

 道具屋のお姉さんはフィオナ・ロックウェルさんと言った。

正確には道具屋の店主ではなく魔道具師なのだそうだ。


「呼び方なんてどっちでもいいんだけどね」


 モグモグと口を動かしながら、お姉さんは心底どうでもよさそうな顔をしていた。

僕もフィオナさんに買ってもらったねじり揚げパンを一緒に食べる。

黒糖がたっぷりかかった屋台の味で、舌に絡みつく油がジャンクなうまさで後を引く。


「それにしてもレニーは羽振りがいいんだね。あんな高いサングラスをぽ~んと買っちまうんだから。いや、驚いたよ」

「ちょっと特別な船を持っているんです。魔導エンジンっていう推進装置がついていまして――」

「……なんだと?」


 フィオナさんは立ち上がって僕の背中へ回りこんだ。

そして、ゆっくりと腕を僕の首に回してきて……いきなり絞め技!?


「何するんですか!?」

「捕まえた! もう逃がさないんだからね!」


 フィオナさんの腕が顎の下にがっちり入って息ができない。

その上、首の後ろに大きな胸が当たってますます僕を混乱させる。


「レニー、いい子だから私にその船を見せなっ! さもないと……」

「さもないと?」

「……」

「考えていないんですか?」

「うるさい! いいからさっさと案内するんだよ。私がこれだけ頼んでいるんだぞ」


 パル村ではこれを頼むとは言わない。

脅迫とか強制って言うと思う。


「わかった、わかりましたから手を離してくださいよ。普通に言ってくれれば見せますって」

「そうなの?」

「連絡船もやっているから、お客さんを乗せることだってあるんです」

「なんだ、てっきり秘密の船かと思ったぜ……」


 秘密にしていたら商売が成り立たないもん。


「でも、急にどうしたんですか?」

「そりゃあ魔導エンジンってやつに興味があるからに決まってるだろ。ねえ……」


 フィオナさんは怪しい目つきで僕を見つめる。


「な、なんですか?」

「分解してもいい?」


 手に持ったドライバーをクルクル回しながら、獲物を前にした猛獣の顔をしていた。


「ダメに決まっているじゃないですか! 元に戻らなかったらどうするつもりですか!?」

「あははっ、冗談、冗談」


 目が本気だったよ……。

なんとなく船を見せるのが怖くなってきた。


「見せてあげますけど、変なことはしないでくださいよ」

「わかった、わかった。踊り子さんの肌には触れないのがルールだな。よし、すぐ行こう」

「すぐ行くって、お店はどうするんですか?」

「これ? ああ、閉めちまうよ」


 フィオナさんが台の下に手をやると引手がスライドしてきた。

さらに台の下から前後左右のフレームが持ち上がり、台を囲うようにロックされていく。

最後にレバーを両手で押し下げると、台の下から車輪が出てくるではないか。

さっきまで露店の商品台だったのが、今ではもう荷車に変わっている。


「すごい!」

「いかすだろ? 私が作ったんだぜ」

「さすがは魔道具師ですね。変形機構がカッコいいです!」

「おっ! レニーはわかってるじゃないか。お前は本当にかわいいなっ!」


 フィオナさんの家によって商品を置いてから、僕らはセミッタ川へ向かった。



 川へ着くと、僕はさっそく一番小さな船外機付きのローボートを出してあげた。

本当は水上バイクやクルーザーを見せてあげてもよかったんだけど、フィオナさんの「分解してもいい?」という言葉が怖くて、召喚をためらったんだ。


「マジで船を召喚するとはな……」


 召喚魔法を使える人は多いけれど、大抵は精霊やゴーレムなどを召喚するのが一般的なのだそうだ。

船を召喚する人は僕くらいのものか。

それはそうだよ、僕は召喚士じゃなくて船長なんだからね。


「うおっ! 何だこれはっ‼」


 魔導エンジンをみたフィオナさんはすっかり興奮状態だ。

カバーを外してより詳しく構造を説明してあげると、一生懸命メモを取りながら観察していた。


「動かしてみます?」

「ああ、頼むよ」


 フィオナさんを乗せて軽くセミッタ川の遊覧へと出かけた。

久しぶりのローボートはやけにゆっくりと感じたけど、これはこれで味わいがある。

15分くらい回ってから元の桟橋へと帰った。


「世の中にはまだまだ私の知らない魔道具があるんだな。今日はいい物を見せてもらったよ」

「お役に立てたのなら良かったです」

「ところで君は連絡船もやっていると言っていたね?」

「はい。料金は行き先と人数で応相談ですけど」

「ルギアまで私を連れていってほしいんだけど、料金はいくらかかる?」


 ルギアと言えば出発は間近だ。


「明後日でよければ午前8時に出航予定ですよ。料金は500ジェニーです」


 価格は一般的な乗合船と同じにしてある。


「500か。だったらお願いしようかな」

「ありがとうございます。ルギアにはお買い物ですか?」

「ああ……翡電石ひでんせきを探しにね」

「翡電石ってなんです?」


 聞いたこともない石だ。


「翡電石は魔道具の材料でね、300文字までの命令を記憶できる石なんだ。たとえば〝入ってきた魔力を一定量だけ放出しろ“みたいな命令を実行させて、魔法術式の制御なんてことをさせるための材料さ」


 これがあると魔道具に細かい作業をさせることができるそうだ。


「これまでは外国産の翡電石が輸入されていたんだけど、最近立て続けに翡電石を積んだ船が沈没しちまってね。おかげで、価格がおっそろしく高騰して手が出ない始末なのさ」

「だったらルギアまで行っても値段は変わらないんじゃないですか?」


 卸値で買えれば多少は安くなるかもしれないけど、外国産なら大した値段の差はないと思う。


「まあね。だから私は自分で翡電石を採取しに行くことに決めたのさ」

「自分で?」

「こいつは内緒の話だけど、ルギアの沖合にある、とある島の海岸にゴロゴロしているんだよ。とりあえずルギアまで行って、そこまで乗せてくれる船を探すつもりさ」


 なんだかおもしろそうな話だな。


「その話、詳しく教えてもらえませんか?」

「へぇ……興味があるんだね。レニー、男の子の目をしてるよ」

「船乗りとしては気になる話ですよ」


 いつかは海に出たいと思っていたから、そんな冒険がデビューというのも悪くないと思った。


「いいよ。魔導エンジンを見せてくれたお礼に教えてあげよう。ルギアから南東へ80キロほど行ったところにある、地図にも載っていない無人島さ」


 80キロか。

天候次第だけど、クルーザーなら2時間で到着できるだろう。


「フィオナさんはその島の位置を知っているんですか?」

「まあね。ロックウェル家は代々魔道具師の家系なんだけど、私のひい爺さんは冒険家でもあったんだ。翡電石の情報も、ひい爺さんが残してくれた記録の中で見つけたのさ」


 記録には地図上の座標も示されているとのことだ。


「フィオナさん。僕が船を出すと言ったらその座標を教えてくれますか?」

「レニーが? そりゃあ君の船は速いけど、あれで海に出るのは自殺行為だろう? 悪いけど私は――」

「召喚、クルーザー!」


 僕の呼び出しに従って、優美なクルーザーが桟橋に現れた。


「これなら大丈夫ですよ。ルギアからなら2時間くらいでその島につけるはずです」

「まさか……そんな……えっ? え~~~っ⁉」


 フィオナさんがクルーザーを見て言葉を失っている。


「よかったら僕と手を組みませんか?」

「ねえ、レニー……一つだけ教えて……」

「なんですか?」

「分解してもいい?」


 魔道具師はやっぱり魔道具師だった。


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