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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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クルージング

 出航予定の11時半が近づくと、クルージングに参加する騎士たちが続々と桟橋に集まりだした。

僕も船長としてご挨拶をする。

船長は船の上では絶対の存在でなければならないので、威厳を崩さないように、かつ礼儀正しい態度を心がけた。


「こんにちは、シャングリラ号へようこそ。船長のレニー・カガミです」

「きゃあっ! かわいい船長さんね。君は何歳なの?」

「あ、あの、13歳になったばかりで……」


 威厳を崩さないように……。


「本当に? ねぇ、お姉さんたちを案内してくれないかなぁ?」

「いえ、他のお客様もいますし、出発の準備も……」


 強引に腕を絡めてくる騎士さんに困惑してしまう。


「お前たち、さっさと乗船して決められた場所に着席せんかぁっ!」

「げっ、ライラックさん!?」


 シエラさんが助けてくれた。

だけど、お客様にその態度はどうなんでしょう? 

この船は軍船ではありませんよ。


「はっはっはっ、護衛の任を必要以上に果たしているようだな、シエラよ」


 笑いながら大柄な中年女性が桟橋にやってきた。

丈の長いマントを翻し、腰には大剣を帯びている。


「これは団長、よくいらしてくださいました」


 この人がルマンド騎士団の団長リンダ・シェーンコップさんか。

まるで大きなライオンみたいな人だ。


「はじめまして。船長のレニー・カガミです」

「おお! 君が噂のレニー君か。話はシエラからくどいほどに聞いているよ。会えることを楽しみにしていたんだ」


 シェーンコップ隊長は身をかがめて僕の顔を覗き込む。

猛獣に睨まれているみたいに緊張したけど、団長さんはニッコリとほほ笑んだ。


「ご案内いたしますので、どうぞご乗船してください」

「世話になる」

 団長さんは軽快にはしけを渡りシャングリラ号へと入っていった。


 団長さんの席は一番眺めの良いフライングブリッジにしておいた。

腰までの壁しかないんだけど、今日は晴天だから気持ちがいいと思う。

それに、ここにはアレが設置してあるしね……。


「のぉおおおおお! これがシエラの言っていた機銃か! 重厚なフォルム、鋼の手触り、どれをとっても最高だな!」


 病人がここにも一人……。


「これでワイバーンを仕留めたときの爽快感といったら……思い出しただけでもう……」


 シエラさんがプルプルと身を震わせている。

恍惚とした表情がちょっとだけエッチだ。


「おのれぇ……自慢しおって! 私もワイバーンを見つけるまで今日は帰らんぞ!」


 クルーズコースはすでに決められております。


「シャングリラ号は間もなく出発となります。乗客のみなさまはお気を付けください」


 夢中になっているお二人は放置して、他のお客さんの間をまわった。



 本日はミーナさんのレストラン仲間だったリットンさんとチョーサーさんがお手伝いに来てくれた。

二人ともベテランのウェイトレスなのでテーブルのことは安心してお任せしてある。

彼女らもまだ新しい仕事が見つかっていないそうなので、いいアルバイトになると喜んでくれた。

騎士の方々はそれぞれの席に座り談笑を始めている。

トラブルもなさそうなので僕も船のことに専念することにした。


「レニー君、全員揃ったぞ」


 乗船名簿を手にしたシエラさんがフライングブリッジの操舵シートまでやってきた。


「それでは出航します」


 本日はセミッタ川を上流へ向けて遡り、アーモンドの花が咲き乱れる川沿いまで行く予定だ。

時間は往復で3時間を予定している。

「隅田川の花見を思い出すなぁ」とはじいちゃんの言葉だけど、じいちゃんの言っている花は桜のことだ。

アーモンドの花はちょっと見ただけだと桜との違いが見いだせないほどよく似ている。

この辺では春の風物詩として親しまれている花だった。



 客席ではすでに食前酒が配られ、前菜のキャヴィータ料理も出されたようだった。

あちらこちらから感嘆の声が上がっている。


「これは美味い。初物のキャヴィータか」

「私は初めてだわ」

「白ワインをもう一杯くれ」


 評判は上々のようである。

僕は隣に座っているシエラさんに話しかけた。


「いい感じですね。天気もいいし、花も綺麗だし、みなさん喜んでいらっしゃるみたいでよかったです」

「うむ、この時間が永遠に続いて欲しい……」

「はい?」

「あっ? いや、なんでもない」


 シエラさんはさっきから黙って僕の隣に座っているけど、お仲間のところへいかなくてもいいのかな?


「シエラさん、皆さんのところへ行かなくてもいいんですか? 団長さんと一緒にお食事をしてきたらいいのに」

「特等席を離れる気はない!」

「はい?」

「い、いや! 私はここが好きなのだ」

「あっ、わかりました。シエラさんもしかして……」

「なっ……」


 そんな焦った顔をしなくてもいいのに。

ちゃんと言ってくれれば僕はいつでもリクエストに応えてあげたのにな。


「船の操縦をしてみたいんでしょう!?」

「へっ? あっ、いや、そ、そうなのだ。レニー君がやっているのを見ていたら興味が出てしまってだな……」

「早く言ってくださいよ。シエラさんのためならいつだって教えてあげたんですよ」

「うむ……」


 シエラさんたら赤くなっちゃって、恥ずかしがることじゃないのに。


「今日はお客さんを乗せているので操舵は任せられないですけど、いろいろと説明してあげますね。もう少しこっちに寄ってください」

「えっ?」

「そこだとパネルがよく見えないでしょう。こっちに来てください」


 そう言うと、シエラさんはピッタリと密着するほど体を寄せてきた。


「え、えーと……」

「さ、さっそく説明をたのむ」


 シエラさんに計器の見方やレバーなどのことを教えてあげながら操船をした。



 時速20キロほどで1時間半ほど走ると、船はハイネルケ郊外の平野部までやってきた。

ここは都市に食料を供給する農村地帯となっている。

川沿いにのんびりと草を食んでいる牛の群れが見えて牧歌的な雰囲気を醸し出していた。

コース料理はすでにメインディッシュが終わり、後はデザートを残すのみとなっているようだ。

ミーナさんもほっと一息ついているころだろうか。

下準備は地上でだいぶ終わらせてきたけど、船の上の調理は大変だっただろう。


「お疲れ様です船長」


 リットンさんが僕とシエラさんのコーヒーを持ってきてくれた。


「お食事の方はもう終わったの?」

「はい。お客様は食後酒かコーヒーのお代わりでくつろいでらっしゃいます」


 どうやら忙しさのピークは過ぎたようだ。

このコーヒーはお客様に出したのと同じものだけど、ルギア港で買った舶来物だ。

アビック産でとてもいい香りがする。

僕の分はミルクをたっぷり入れてカフェオレにしてあった。


 少しだけ落ち着いてカフェオレを楽しんでいると、後ろの席で団長さんが立ち上がった。


「さて、食事も堪能したし、そろそろメインディッシュを楽しもうじゃないか!」


 メインディッシュは牛ほほ肉の赤ワイン煮込みだったじゃないですか!? 

機銃? 

やっぱりそれですか……。


「船長、船を人気のない場所に移動させてはもらえないだろうか?」

「は~い」


 農村ではぶっ放さないという良識があるだけマシだと思おう。

のんびりと草を食べる牛に別れを告げて、船のスピードを上げた。


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