表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/153

エピローグ


 焚き火の小枝がはぜる音がして目が覚めた。

煙のにおいに混じってなんだかいい香りもしている。

ああ、お姉さんたちがそばにいるんだ……。


「ここは……どこですか……?」

「おお、レニー君が目を覚ましたぞ」


 シエラさんが声を上げると、みんなが僕の周りに集まってきてくれた。


「ここは魔王の城の中だ」


 魔王の城……はっ!


「敵は!? 魔物たちはどうなりましたか?」


 ミーナさんが僕を安心させるように手を握ってくれる。


「全部魔力の海の中で溺れ死にしたんだよ。わずかに残った魔物もシエラさんが撃破したから安心して。あれはレニー君が作り出したものだよね」

「はい、もう使えませんけど……」


 スキルの継承で、僕は「波濤万里」を選ばなかった。

ひょっとしたらもう二度と使えないかもしれないけど、それはそれで構わないと思っている。

魔軍の主だった将は討ち取っているのだ。


 そういえば辺りはひっそりとしていて人の気配がない。


「ここに囚われていた人たちはどうなりましたか?」

「心配しなくても大丈夫よ。ローエン宰相が派遣してくれた護衛部隊と一緒にギンセンへ向かったわ。今頃はもう到着しているんじゃないかしら」


 飛空艇が消滅する前に、ファンローに停泊させておいた高速輸送船に連絡が取れたそうだ。

僕は十日も寝ていたらしい。

おかげで体はすっきりとしている。

魔王にろっ骨を粉砕されたはずだけど、ちっとも痛くないぞ。

おそらくレベルが上がったときに修復されたのだろう。


「さて、レニーが目覚めたのなら我々も帰らなくてはならないな」


 アルシオ陛下がニコニコと笑っている。


「うへー、せっかくの休暇もこれでお終いか。もう少しのんびりしようぜ」


 フィオナさんはまだ帰りたくないようだ。


「何言っているの。フィオナには大型魔導船の開発に取り組んでもらわないと」


 ルネルナさんは厳しく言い放つ。


「それじゃあ、出発しましょうか。護衛部隊が馬を置いて行ってくれたからそれに乗って帰りましょう。私はまだ馬には慣れないですけどね」


 ミーナさんは少し心配そうだ。


「ミーナさんは乗馬が苦手でしたよね」

「うん、レニー君のおかげで操船は上手くなったけど、馬はまだちょっとね」


 お姉さんたちは出発のために身の回りの荷物をまとめ始めた。


 僕のステータスはどうなっているのだろう? 

気を失う前に新しいジョブが覚醒したはずだけど……。

どれ、出発前に確認しておくか。


「ステータスオープン!」


職業 車長(Lv.1)

MP 10000127

所有スキル「気象予測」「地理情報」「言語理解」「船の構造」「水魔法」


所有鉄道車両

■手漕ぎトロッコ:ハンドルの上下運動で車輪を回転させる乗り物


 まず驚いたのはMPだ。

保有魔力は失われることなく持続されている。

そして新しいジョブなんだけど、レールという特殊な道の上を動く『鉄道』に乗る仕事だと分かった。

へぇ……、一度敷いたレールは僕が命じない限り消えないんだな。

レールを作るには1mにつき100MPを消費するのか。

ということは今の僕なら100キロのレールを敷設できるわけだ。


「ミーナさん、馬には乗らなくても大丈夫そうですよ」

「えっ、どういうこと?」

「今の僕は車長ですから!」


 魔力を込めて念じるとギンセンの方角へ長いレールが現れていく。

整地なんかも自動でやってくれるんだな。

これは便利そうだ。

ベッパーに帰ったら島中に鉄道網を張り巡らせるとしよう。


「召喚、手漕ぎトロッコ!」


 レールの上に現れたのは黄色い車体の小さなトロッコだった。


「とりあえず、僕とミーナさんはこれに乗っていきます。みなさんは馬でついてきてくださいね」


 僕らはトロッコに飛び乗り手押し式のハンドルに手をかけた。


「行きますよ!」


 ハンドルを押すとトロッコは音もなく前へと滑り出す。


「う、動いた! 私も手伝うね」


 ミーナさんと二人で漕ぐとトロッコはグングンと進んだ。


「なにこれ、おもしろい!」

「ミーナさん、疲れませんか?」

「ぜんぜん。お姉さんを年寄り扱いしないでよ」

「おい、ミーナ。頼むから私と代わってくれ。君ばかりずるいぞ」

「もう少し楽しんだらシエラさんにも漕がせてあげますよ」


 ワイワイやっていると僕のレベルはすぐに上がった。


「みなさん、今度は小型魔導機関車というものを召喚できるようになりましたよ。オプションで貨車がつけられます。みんなで乗りましょう!」



 南へ向かう列車に乗ろう。

魔導列車から吐き出される蒸気が風に流されていく。

お姉さんたちの笑い声は絶えない。

何もない荒野には一筋のレールがどんどんと繋がっていく。

あの地平線の向こうにはどんな景色が広がっているのだろう?

今、出発の汽笛が鳴り響いた。


最後までお読みいただきありがとうございました


このお話がおもしろかったら、感想やブックマーク、★での応援をよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] テンポ良し。面白かったです〜 後日談がないので寂しいかな 全制覇で異世界編もいつか見られたらいいね
[良い点] 完結おめでとうございます。 [気になる点] 続きの発表がいつ頃に成りそうかな? [一言] 某氏の船召喚作品は、休みながらも更新があるようです。 こちらも、期待しています。
[良い点] 第一部完結という万感の思いに包まれる爽快感。 [一言]  こんにちは、書籍3巻から続きが読みたくなって読み切りました。  先にも書きましたが、これを第一部として、陸上編、航空編、宇宙編、と…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ