エピローグ
焚き火の小枝がはぜる音がして目が覚めた。
煙のにおいに混じってなんだかいい香りもしている。
ああ、お姉さんたちがそばにいるんだ……。
「ここは……どこですか……?」
「おお、レニー君が目を覚ましたぞ」
シエラさんが声を上げると、みんなが僕の周りに集まってきてくれた。
「ここは魔王の城の中だ」
魔王の城……はっ!
「敵は!? 魔物たちはどうなりましたか?」
ミーナさんが僕を安心させるように手を握ってくれる。
「全部魔力の海の中で溺れ死にしたんだよ。わずかに残った魔物もシエラさんが撃破したから安心して。あれはレニー君が作り出したものだよね」
「はい、もう使えませんけど……」
スキルの継承で、僕は「波濤万里」を選ばなかった。
ひょっとしたらもう二度と使えないかもしれないけど、それはそれで構わないと思っている。
魔軍の主だった将は討ち取っているのだ。
そういえば辺りはひっそりとしていて人の気配がない。
「ここに囚われていた人たちはどうなりましたか?」
「心配しなくても大丈夫よ。ローエン宰相が派遣してくれた護衛部隊と一緒にギンセンへ向かったわ。今頃はもう到着しているんじゃないかしら」
飛空艇が消滅する前に、ファンローに停泊させておいた高速輸送船に連絡が取れたそうだ。
僕は十日も寝ていたらしい。
おかげで体はすっきりとしている。
魔王にろっ骨を粉砕されたはずだけど、ちっとも痛くないぞ。
おそらくレベルが上がったときに修復されたのだろう。
「さて、レニーが目覚めたのなら我々も帰らなくてはならないな」
アルシオ陛下がニコニコと笑っている。
「うへー、せっかくの休暇もこれでお終いか。もう少しのんびりしようぜ」
フィオナさんはまだ帰りたくないようだ。
「何言っているの。フィオナには大型魔導船の開発に取り組んでもらわないと」
ルネルナさんは厳しく言い放つ。
「それじゃあ、出発しましょうか。護衛部隊が馬を置いて行ってくれたからそれに乗って帰りましょう。私はまだ馬には慣れないですけどね」
ミーナさんは少し心配そうだ。
「ミーナさんは乗馬が苦手でしたよね」
「うん、レニー君のおかげで操船は上手くなったけど、馬はまだちょっとね」
お姉さんたちは出発のために身の回りの荷物をまとめ始めた。
僕のステータスはどうなっているのだろう?
気を失う前に新しいジョブが覚醒したはずだけど……。
どれ、出発前に確認しておくか。
「ステータスオープン!」
職業 車長(Lv.1)
MP 10000127
所有スキル「気象予測」「地理情報」「言語理解」「船の構造」「水魔法」
所有鉄道車両
■手漕ぎトロッコ:ハンドルの上下運動で車輪を回転させる乗り物
まず驚いたのはMPだ。
保有魔力は失われることなく持続されている。
そして新しいジョブなんだけど、レールという特殊な道の上を動く『鉄道』に乗る仕事だと分かった。
へぇ……、一度敷いたレールは僕が命じない限り消えないんだな。
レールを作るには1mにつき100MPを消費するのか。
ということは今の僕なら100キロのレールを敷設できるわけだ。
「ミーナさん、馬には乗らなくても大丈夫そうですよ」
「えっ、どういうこと?」
「今の僕は車長ですから!」
魔力を込めて念じるとギンセンの方角へ長いレールが現れていく。
整地なんかも自動でやってくれるんだな。
これは便利そうだ。
ベッパーに帰ったら島中に鉄道網を張り巡らせるとしよう。
「召喚、手漕ぎトロッコ!」
レールの上に現れたのは黄色い車体の小さなトロッコだった。
「とりあえず、僕とミーナさんはこれに乗っていきます。みなさんは馬でついてきてくださいね」
僕らはトロッコに飛び乗り手押し式のハンドルに手をかけた。
「行きますよ!」
ハンドルを押すとトロッコは音もなく前へと滑り出す。
「う、動いた! 私も手伝うね」
ミーナさんと二人で漕ぐとトロッコはグングンと進んだ。
「なにこれ、おもしろい!」
「ミーナさん、疲れませんか?」
「ぜんぜん。お姉さんを年寄り扱いしないでよ」
「おい、ミーナ。頼むから私と代わってくれ。君ばかりずるいぞ」
「もう少し楽しんだらシエラさんにも漕がせてあげますよ」
ワイワイやっていると僕のレベルはすぐに上がった。
「みなさん、今度は小型魔導機関車というものを召喚できるようになりましたよ。オプションで貨車がつけられます。みんなで乗りましょう!」
南へ向かう列車に乗ろう。
魔導列車から吐き出される蒸気が風に流されていく。
お姉さんたちの笑い声は絶えない。
何もない荒野には一筋のレールがどんどんと繋がっていく。
あの地平線の向こうにはどんな景色が広がっているのだろう?
今、出発の汽笛が鳴り響いた。
最後までお読みいただきありがとうございました
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