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召喚


 移動中の不意打ちを警戒したけど魔王たちは攻撃をしてこなかった。

すっかり今の状況を楽しんでいるようだ。

城門を出ると僕は平地に向かって山を駆け下りた。


「逃げる気か?」

「そうじゃない。広いところまで行くんだ」


 答えながらも足は止めない。


「皆のもの奴を追え。ただしすぐには殺すなよ」


 後ろから武器や魔法攻撃が飛んでくるが、ジグザグに回避しながら走り続けた。

身体強化魔法はすっかり身についていたし、魔力だってたっぷりある。


「ひゃははははっ、なかなかすばっしこい獲物だ。たまにはこういう狩りもいいな!」

「ああ、狩猟はこうでなくてはならん。心が躍るわい!」


 将軍たちが会話をしながら僕の左右を走っている。

何が狩りだ。

お前らは逆に僕が仕掛ける罠に嵌まるんだ。


 一気に斜面を駆け下りて、広い荒野までやってくると足を止めて振り返る。

意外そうな顔をしたところをみると魔王たちは僕が本当に逃げると思っていたらしい。


「ふん、感心だな。健気けなげにも戦おうとしておるぞ」


 魔王がおどけた口調で言うと、周りの将軍たちは声を揃えて笑った。

将軍たちでだけではない。

数千の魔物が僕らを取り囲むように出てきている。


「ふふふ、殺戮の宴を楽しもうと城の中の魔物がすべてやってきてしまったぞ。これはますますただでは殺せなくなってしまった。ドラマチックなショーを演出してやらんと」


 魔物がすべて出てきたか。

それは僕にとっては好都合だぞ。


「まずは質問に答えろ。どうしてデザインアニマルという言葉を知っている?」

「ガイドロス島だよ。あそこを破壊したのは僕だ」


 ローエンも一緒だったけど、万が一のために名前を出すのはやめておこう。


「貴様だったのか……。貴様があの島を!」


 魔王のこめかみがピクピクと震えているぞ。

他の将軍も一緒だな。

冷静さを欠いている今がチャンスだ。


「魔王よ、今度は貴様を討ち取って、数千年に渡った戦いに終止符を打ってやる!」

「ほざけええええええ!」


 魔王と将軍たちが一斉に飛びかかってきたけど、僕は考えていた通り全身に魔力を巡らせて垂直にジャンプした。

これまでやったこともない大跳躍で、体は一気に50mは浮き上がる。


「馬鹿め! 落ちてくるところを串刺しにしてやる!」


 目を爛々と輝かせた魔族が武器を構えて真下で待ち受けていた。

でもこれでいいんだ。


「くらえ! 召喚…………戦艦!」


 七重の魔法陣が回転して地上5mのところに巨大戦艦が出現する。

どうせ水のない場所では戦艦を運用することはできない。

だったら敵の頭の上にこいつを落としてやるだけだ。

圧倒的質量に押しつぶされてしまえ!


「なんだとおおおおおお!」


 砂煙が立ち上がり、魔族たちの断末魔は戦艦と大地の衝突音にかき消えた。

戦艦はめきめきと音を立ててひしゃげていく。

これなら下敷きになった魔王たちだって……。


 辺りは静まり返り、生き残った魔物たちはうめき声一つ上げない。

これで終わったのか?


 ギッ……ギギーッ、ガゴッ!


 金属音を軋ませながら、瓦礫の中から何かが出てきた。


「化け物め……」


 絶望感に囚われて思わずつぶやいてしまった。

頭部から血を流しながらも魔王は生きていたのだ。

おそらくマジックシールドのようなものを展開して防御したにちがいない。


「化け物は貴様の方だろう。まさかこんな奥の手を隠していたとはな」


 だが奴は負傷しており足取りもおぼつかないようだ。

今なら何とかなるかもしれない。

僕は形見のナイフを握り直して、一気に距離を詰めた。

低い体勢から刷り上げる得意の一撃に渾身の力を籠める。


「甘いわっ!」


 魔王の蹴りがナイフを持つ手に命中し、二の腕まで痺れるような痛みが走った。

さらに奴の拳が僕を襲う。


「グッ……」


 嫌な音を立てて骨が砕けた。

どうやらあばらを二本砕かれたようだ。

僕はそのまま後方に飛ばされ大地と激突してしまう。

肺の中の空気が抜けて気を失いそうになっている……。


「これで終わりだと思うな。両手両足をもいで自由を奪ってから、ゆっくりといたぶってやる」


 魔王は慎重に僕の方へ歩いてくる。

その動きに油断はない。

もはやここまでか?


 そのとき、瓦礫の下から声が聞こえた。


「魔王様、どうぞ私目に回復魔法を……」


 鶏の頭をした将軍が瓦礫の下から上半身を出している。

奴の下半身はズタズタで引き裂かれた戦艦の外壁に刺さっていた。


 魔王は鶏頭に一瞥をくれると、無慈悲な口調で言った。


「あの小僧に止めを刺すのが先だ。そこで待っておれ」

「そんな……、私はもう……うぐっ」


 奴も死んだか……。

そのとき頭の中であの声が響いた。


(レベルが上がりました)


 ひょっとするとこれが最後のチャンスかもしれない。




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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよ終わりなんですね。
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