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人に似て、人非ざる者


 左右同時に襲い掛かってくる鉤爪かぎづめを避けて、形見のナイフをり上げた。

硬質な金属音が響き、四本ある鉤爪の一つが切断される。

よし、スピードなら互角以上に渡り合えるぞ。

だけど、ステルスが使えないというのは厄介だな。

送還しても修理には時間がかかりそうだ。


「こそこそと隠れるだけかと思ったが、なかなかやるではないか。少しは楽しませてくれそうだ。我が名は飛凶将軍テンソ。貴様は何者だ?」

「僕の名前はレニー・カガミだ。相手が蝙蝠とは知らずにうっかりしていたよ。声帯から特殊な音を出して、その反響で対象の位置がわかるんだろう? 本で読んだことがある」

「ほう、良く知っていたな。その通りだ。儂相手では、消える甲冑は役に立たんぞ」

「ビャッコを舐めるなよ」


 パワーは他の三体に劣るけど、踏み込みスピードと関節可動域は優れているんだ。

それに銃身の短い魔導ピストルは僕が使うダガピアとも相性がいい。

つまり、ビャッコは超近接戦闘に向いているということだ。


 いくらこいつのマジックシールドが優れていても至近距離で命中させれば――。

テンソの攻撃をいなしながら、足の甲へ3点バーストで魔弾を叩き込んだ。


「ぐあああっ!」


 致命傷ではないけど効いている。

強烈な打撃を食らったくらいのダメージはあったようだ。

飛び退(すさ)ろうとするテンソに追いすがり、距離を開けさせないようにした。


「もう一つ!」


 鉤爪を一本切り落とされているので、テンソの意識はどうしてもオリハルコンのナイフへ行ってしまう。

だけどこちらは囮でしかない。

わざと避けさせながら、今度は左ももに魔弾を撃ち込んでやった。


「く、くそ。人間のくせにっ!」


 足に被弾したテンソは目に見えて動きが悪くなっている。

ここが勝負どころだ。


「はああああっ!」


 必殺の気合を込めたナイフを連続で振るっていく。

テンソも鉤爪で攻撃を受けるけど、僕の一太刀ごとに爪は切断されていく。


「くうっ!」


 挽回のしようがない劣勢を悟ったのだろう、テンソは背中の翼を広げて逃げようとした。

だが、この状況下で敵に背を見せるというのは死を意味するのだ。


「逃がさない!」


 破損の影響で動きの鈍くなりはじめたビャッコを送還して、この身一つで大地を蹴った。

「スピードだけなら魔導モービルがなくったって!」


 形見のナイフを振り、テンソの翼を切り落とす。

返す刃でわきの下から背骨に向かって深々と刀身を差し込んだ。

絶叫がこだまする通路を魔物の体液が緑色に染めていく。

足で蹴ってナイフを引き抜くと、テンソはどさりと床に倒れた。


 レベルは……上がっていない。

自分が成長しないことに安心するだなんて不思議な感覚だ。


「十二将軍の一人が人間の子どもにやられるとは信じられんな。おめえ本当に人間か?」

「テンソの奴め、我らの面汚しもいいとこだ」

「おい小僧、なにを食ったらそんなに強くなれるんだ? 肝臓か? 膵臓か?」


 僕に向かって次々と声をかける魔人たちがいた。

数は全部で七体。

話しぶりからしてヤクルスやテンソのような将軍格の魔人だろう。


 まずい、複数を相手にまともに戦えばひとたまりもないぞ。

ステルスがあれば逃げ出せたかもしれないけど、ビャッコの修理は当分終わらない。


「ふふふ、我らを相手に怯えているようだな。せいぜい恐怖するがいい。みなでなぶり殺しにしてやるからな」


 魔人には一対一で正々堂々と戦うなんていう思考はない。

奴らがサシで戦う場合は純粋に戦闘を楽しみたいときだけだ。

通路の地の利を活かして、なんとか単体だけを相手にするように戦わないと……。

そんなことを考えていたら、将軍たちの後ろから禍々しい声が聞こえてきた。

聞く者の魂を凍らせるような冷たい声だ。


「楽しそうなことをしているではないか。余も混ぜてくれ」


 現れたのはほっそりとした体つきをした魔族だった。

姿かたちは人間とほとんど大差ない。

ただ長身で、全身の皮膚が真っ白である。

そして眼だけが血の塊のように赤い。

これだけ似ているのに猿より遠い存在に思えるのはなぜだろう。

人に似て、人非ざる者で間違いない。


「おまえは……」

「我が名はアヴァラス。魔物の長にして全知全能の神なり」

「つまり、魔王? デザインアニマルの突然変異体?」

「我らをその名で呼ぶなあああっ!」


 デザインアニマルという言葉が魔王の逆鱗に触れたようだ。

奴は全身から魔力をほとばしらせながら叫んだ。

赤い目が燃えるように光り、白い肌には血管が無数に浮かんでいる。


 しばらくは僕を睨みつけていたけど、やがて落ち着くと元通りの声に戻って質問してきた。


「貴様、なぜその名前を知っている?」

「教えてもいいけど、条件がある」

「ふん、条件を付けられる身分か? 身の程を知れ。すぐに殺してやってもいいんだぞ」

「別にいいさ。それなら喋らないだけだもん」


 少しでもこちらに有利な状態で戦わないと……。


「まあいい、条件とやらを言ってみろ。願いをかなえてやるとは限らんがな」


 何かを約束したって、こいつらは守ったりはしない。

そういう生き物なのだ。

だったら僕の出す条件は……。


「外で戦いたい」

「なん……だと?」

「どうせ戦うんなら広いところで戦いたいんだよ。お前たちだってその方がいいだろう?」


 魔王は猜疑心に満ちた目で僕を眺めている。


「外へ出れば逃げられると思っているのか?」

「それは無理じゃないかな? 将軍が七人に魔王までいるからね」


 魔王はしばらく考えていたけど、ニヤリと笑って頷いた。


「よかろう、お望み通り太陽の下でなぶり殺しにしてやる。生きたまま皮を剥いでやるから覚悟しろ」

「一太刀なりとも浴びせてやるさ」

「くくく、私は回復魔法が使えるのだ。殺してくださいと許しを請うまでいたぶり続けてやろう。ああ、謝っても無駄だがな。決して許しはしない。私が飽きるまで拷問してやる」


 これで外に出られそうだ。

外に出られればまだ勝機はあるんだ。





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