どこまでも一緒に
出かける前に、お姉さんたちに宛てて手紙を書いた。
自分が何をしようとしているか、どうしてそう考えるに至ったか、上手くいけば魔物と人間との戦争が終結すること、ひょっとしたら自分は帰って来られないかもしれないことも……。
それからお姉さんたちへの感謝の気持ちも書き添えておいた。
この気持ちを文字にするのは難しかったけど、それでも一生懸命書いた。
自分の感情の半分も言葉にはできなかったけど、それでもどうにか書き上げる。
思ったより時間がかかってしまったようだ。
ペンを置くと夜明けはもうすぐそこだった。
明るくなる前に飛び立とう、そう決めて部屋を出た。
屋上の広場からスザクで離陸すれば目立つこともないだろう。
お姉さんたちの寝室の前を通るときは緊張した。
息を止めてすぐ先にある階段を目指す。
こんな時間に起きているはずはないのだけど、それでも見つかりそうな気がしたんだ。
「何をしているの、レニー君?」
起きてた……。
寝ているんじゃなかったの?
振り向くとエプロン姿のミーナさんがいた。
僕の方を見てニコニコとほほ笑んでいる。
「お、おはようございます」
「ずいぶん早いのね。もしかして早朝の稽古?」
「いえ、その、それは……」
僕は嘘が苦手だ。
言い訳は思いつくけど、お姉さんたちを騙すのが生理的に辛いのだ。
「レニー君?」
「ちょっと用事があるので失礼します」
身を翻していこうとしたのだけど、いつもより厳しいミーナさんの声に呼び止められた。
「待ちなさい。どこに行くか教えてちょうだい」
ミーナさんの顔に、先ほどの笑顔はなくなっている。
「北の方へ……」
「何をしに?」
「魔王との決着をつけに行こうかと……」
僕の答えを聞いて、ミーナさんは大きく息を吸い込んだ。
叱られるのか?
ところがミーナさんは予想外の行動に出た。
「みなさーん!!!!! 起きてくださあーーーーい!!!!」
突然の大声に鼓膜が破れそうになった。
「何事だ!」
真っ先に部屋から飛び出してきたのは、抜き身の剣を下げたシエラさんだった。
続いてアルシオ陛下とルネルナさんもやってきた。
「な、なんなんだよ……?」
大きなレンチを構えたフィオナさんも、恐る恐るといった感じで部屋から出てくる。
「ミーナ、敵はどこだ?」
シエラさんが僕らをかばいながら左右に目を配っている。
「敵ではありませんが緊急事態です。レニー君を捕捉してください」
「はっ?」
「抱きついてもいいので逃がさないように!」
「ま、任せておけ!」
シエラさんに後ろから抱き着かれて捕まってしまった。
別室に移動して、僕はなにをしようとしていたかを洗いざらい白状させられてしまった。
「レニー、また無茶をしようとして……」
フィオナさんはグシャグシャと頭を掻きむしっていた。
シエラさんは困ったような表情だし、ミーナさんは真剣に怒っている。
アルシオ陛下が口を開いた。
「勝算はあるのか、レニー?」
「わかりません。使えるのは飛空艇と強襲揚陸艦だけです。ビャッコを使って内部に潜入してから攻略法を考えようと思っていました」
「そうか……。現実問題として、レニーのレベルがリセットされれば戦いは長引くだろう。その分、犠牲者も多くなる」
「ですが!」
反論しようとするミーナさんをアルシオ陛下は手で制した。
「わかっている。レニー一人に世界の運命を背負わせるわけにはいかない。当然ながら私も一緒に行くぞ」
「それこそダメですよ。アルシオ陛下はロックナの女王ですよ」
僕は陛下を諫めようとしたけど、それは即座に却下された。
「知るかっ! どうせ一度は滅んだ国だ。ここまでの道筋はついた。あとはノキアが王にでもなればいいさ。それに、自分の選択が間違っているとも思えない。レニーを助けられるのは伝導の儀式を受けたわらわたちだけなのだからな」
お姉さんたちは「伝導の儀式Ⅱ」を経て、さらなる境地に至っている。
どのお姉さんも船や魔導モービルを扱わせれば一流のパイロットなのだだ。
「アタシは陛下に賛成だな。レニーが行くんならどこまでもついていくよ」
フィオナさん。
「私は君の護衛だぞ。君と並んで戦えるのなら死だって怖くないさ」
シエラさん。
「戦いは専門じゃないんだけどね、お姉ちゃんに任せておきなさい」
ルネルナさん。
「さて、お弁当を用意しないといけないわね」
ミーナさん。
けっきょくのところ、僕らは運命を共にする仲間なのだろう。
本音を言えば、お姉さんたちが一緒に着てくれるのがうれしかった。
たぶん、みんなが一緒なら僕はいつも以上の力が出せる気がする。
「強襲揚陸艦と飛空艇に限界まで魔石を積みこみましょう。みなさんはそれぞれの準備をお願いします」
夜明け前の通路にお姉さんたちの元気な返事が響いた。
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