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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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芝居上手


 夜明け少し前にイワクス2は海を越えてロックナ本土へと入った。

日の出る直前は闇が濃くなる。

僕はライトもつけずに「地理情報」だけを頼りにしてイワクスを操縦した。

本当は敵に見つかった方がいいのだけど、あからさまというのはかえって怪しまれるだろう。

敵にはギリギリのラインで見つけてほしいのだ。


「どうだろう、魔物はこちらに気がついたかな?」


 助手席に座ったシエラさんが訊いてきた。

今回はシエラさんと僕の二人だけでデマスト山へ向かう。

他の人たちは手薄になったダハルを奪還する予定なのだ。


「地理情報によると、イワクスの音が聞こえるギリギリのところに魔物たちの巣がありました。きっとこちらに気がついたと思いますよ」


 飛行速度を落として周囲の様子を窺ってみる。


「釣れた! こちらに向かって魔物が三体飛行してきます」

「でかしたぞ、レニー君」


 この魔物は様子を見に来たのだろう。

だったら真っ直ぐ目的地へ向かうまでだ。

進路を固定して、航行速度を維持したままデマスト山へ直行した。



 デマスト山のすそ野にちょうど良いポイントがあったので、そこへイワクスを着陸させた。

標高5600m、ロックナ王国の中でも屈指の名峰は山頂に雪を頂いている。

僕らが目指す洞窟はその中腹付近にあるらしい。


 魔物は離れることなく僕たちの方へ向かって飛んできていた。

荷造りのふりをして待っていると、林の向こうに降り立ち、そっとこちらの様子を窺っている。

僕たちに存在が気づかれているとは夢にも思っていないだろう。


 さて小芝居を始めるとしますか。

僕は目でシエラさんに合図する。

シエラさんもわずかに頷いた。


「あ~、レニー君。本当にこの山にフレイン・アモスの秘宝が隠されているのかね?」


 シエラさん棒読み過ぎ! 

なんでも器用にこなすシエラさんだけど演技力には問題があるんだよな。

でも、ここまで来たら後には退けないぞ。

このまま押し通すしかない。


「そうなんですよ。この古文書によると海神のほこはデマスト山中にある洞窟に隠されているようです」


(レニー君、演技が下手過ぎるぞ! ほとんど棒読みではないか。なんでもそつなくこなす少年だけど、お芝居だけは苦手なのだな。ここは年上の私が優しくリードしてやらねば……)


「そ、そうなのだな。ではさっそく探しに行こう」

「でも大丈夫でしょうか? 洞窟の場所ははっきりと書かれていないから探すのには何日もかかるでしょう。それにここは敵地です」


 僕は心配そうな表情を作ってみせた。

途端にシエラさんの顔が真剣になる。

演技とは思えない表情だ。


「二人きりだけど心配はいらない。私がついているからな(誰がレニー君を傷つけさせるものかっ!)」

「シエラさんがいれば百人力です」

「ははは、褒めてもご褒美はでないぞ」

「そんなつもりじゃありませんよ。僕は本当にそう思っただけで。お師匠様と一緒なら百万の大群の中にだって突っ込めます」


 これは本当の気持ち。


「レニー君……。私だって同じ気持ちだ。君と一緒ならどこへだっていけるさ!(たとえお芝居でも嬉しい……あ、涙が出そう)」


 あれ、急にシエラさんの演技力が爆上がりだぞ!? 

さすがはお師匠様だ。

実戦の中で成長するタイプなんだな。


「それでは行きましょう」


 僕らは地図を頼りに、険しい崖を登り始めた。



 朝日が昇り始めて、遠くに見える山の輪郭を金色に染めている。

海ばかりを旅してきたけど、こうしてみると山も素晴らしい。

任務の最中だというのにほんの一瞬だけ景色に見とれてしまった。


 後をつけてきた三体の魔物の内、一体はどこかへ飛んで行ってしまった。

おそらく報告に行ったのだろう。

残りの二体は100m以上離れながらこちらの様子を窺っている。

魔物がなるべく大勢で攻めてくるように時間的猶予を与えてやりたいので、探索はゆっくりすることにしている。

ここらへんで時間を潰すとするか。


「シエラさん、そろそろお腹が減りませんか?」

「そうだな、朝食にしようか」


 僕らがいるのは小高い稜線の上だ。

見晴らしもよく開けているので火も焚きやすい。

隠密行動中ならこんなところで朝食は取らないけど、あえて目立つように行動しているのだから関係ない。

携帯食ではなく本格的に朝食を作って食べるつもりである。


 ちょっと歩き回ると、落ちている枝が山のように集まった。

これだけあれば煮炊きは問題ない。


「シエラさんは火をお願いします。僕はスープを作りますから」

「任せておけ!」


 シエラさんはニコニコと笑いながら石で簡単なカマドを作っている。


「こんなことを言っては不謹慎だが、なんだか楽しいな」

「僕もです。キャンプっていいですよね。こんどは任務じゃないときに行きましょう」

「う、うん……」


 パチパチと音を立てながら小枝が燃えていく。

煙の臭いが漂ってなんだかホッとした気持ちになってしまった。


 朝食には大きなソーセージを入れたキャベツのスープを作った。

水を入れる前にニンニクと一緒に甘みを出すように油で炒めるのがコツだ。

キャベツが柔らかくなったら水を入れてクタクタになるまで煮込む。

最後にコショウを少し轢いてできあがりだ。

リンゴも皮をむいて、たっぷりとお皿に盛った。


「美味しい。幸せだな……」


 スープを一口食べたシエラさんがしみじみとつぶやいている。


「シエラさんの淹れてくれたカフェオレも美味しいですよ。あとでお替りをもらってもいいですか?」

「うん。たくさん飲んでくれ」


 魔物の気配を感じて僕は声を落とした。


「また一体飛び立ちました。きっと報告に行ったのでしょう」

「よしよし、この調子で探索を続けよう。私たち二人でなるべくたくさんの敵をひきつけるんだ」


 僕らはにっこりと笑い合い、ゆっくりと朝食を楽しんだ。




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