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フレイン・アモスの秘宝


〈ファンロー帝国宰相 ローエンの手紙より抜粋〉


 ファンロー帝国には決して侵してはならない掟ができたぞ。曰く、ロックナ王国とは決してことを構えるな、だ。並み居る群臣もこれだけは絶対の禁忌として従う姿勢をみせているよ。それはそうだよな、かの国には20万の魔物をたった一人で撃退できる勇者がいるのだから。

 まあ、レニーが世界を征服しようとするのなら、これを阻める者はいないだろう。つくづく我が弟殿が善良で助かったと思う。

 近いうちにまた話そう。兄上からの進物を同封しておく。かなり貴重なものだから、喜んでくれるとありがたい。


                                ローエン



 僕はローエンからの手紙をしまった。


「他の国がロックナに攻めてこないのはありがたいですけど、そう悠長なことも言っていられないんですよね」


 ベッパー総督府の執務室には、久しぶりに五人のお姉さんが勢ぞろいしている。

お姉さんたちには隠し立てせず、レベルリセットの話はしてあった。


「とにかく、レベルがリセットされる前にロックナを取り戻し、魔王を滅ぼそうと考えています」

「それがいいわね。まずは確実なことからやりましょう」


 ルネルナさんも賛成してくれた。


「だがどうする? 正面切って戦いを仕掛けるのはいいと思うが……」


 アルシオ陛下が心配しているのはロックナで囚われている領民たちだ。


「犠牲者が出ないように最善を尽くしたいと思いますが……」


 そうは言ったもののいい考えがあるわけじゃない。

僕はぼんやりとリーアン皇帝陛下がくれた進物とやらに目を落とした。

中身は世にも珍しい稀覯本きこうぼんばかりである。

僕が本好きなのを知って、陛下が特別に用意してくれたそうだ。


 水魔法の応用書や古代文明について書かれた本、中には閨房術けいぼうじゅつの指南書なんてものまである。

閨房術ってなんだろう? 

って、うわっ! 

チラッと本を開けてみたら男女が絡み合う図解が目に飛び込んできた。

これってエッチのやり方を解説した本なんだ……。


 こんなのがお姉さんたちに見つかったら、気まずくなるなんてもんじゃない。

最悪の黒歴史になっちゃうよ。

下の方へと隠してしまおう。


「どうした、レニー? 顔が赤いぞ」


 フィオナさんが目ざとく見つけて本の束に手を伸ばす。

まずいっ! 

絶体絶命のピンチだ。


「な、何でもないんです。ただ、この本が気になって」


 言い訳しながら適当に一冊の本を手に取った。


「なんて書いてあるんだ、それ?」


 表紙の文字は古代ファンロー語で書かれているので、フィオナさんには読めないのだ。


「えっ、それはその『フレイン・アモスの秘宝』ですね……」

「おお、フレイン・アモスか! 懐かしいな」

「アルシオ陛下はご存知ですか?」

「大昔の有名な海賊であろう? もちろん知っている」


 フレイン・アモスはロックナ近辺では有名な海賊だったようで、子どものおとぎ話なんかにもしばしば登場する。


「巨大鮫の魔物を倒す英雄譚には子どもながらドキドキしたものだ」


 ワクワクした顔でアルシオ陛下がそう言うのはなんだかおかしかった。

フレイン・アモスは海賊ではあったが義侠心に富み、数々の魔物を退治した英雄でもあった。

そのため庶民からは今でも絶大な人気を誇っているのだ。


「海神のほこでしょう。それなら私も聞いたことがあるわ」


 ルネルナさんも昔話を思い出したようだ。


「海神の鉾ってなあに?」


 ミーナさんが質問してくる。

フレイン・アモスは海賊なので、内陸部ではあまり有名ではないの。

ミラルダ出身のミーナさんやフィオナさんは知らないようである。


「海神の鉾っていうのはフレイン・アモスが持っていた武器で、海流を操ることができたと言われているの。アモスはこれを使って海の魔物を討伐していくのよ」

「ふーん、じゃあその本には海神の鉾のありかとかも書いてあるの?」


 僕はぱらぱらとページをめくってみた。


「あ、ありました!」


 お話では、フレイン・アモスは魔族との戦いの上で死んだことになっているんだけど、実際はファンロー帝国へ亡命したらしい。

海賊だから当局の取り締まりが厳しかったんだろうね。

海神の鉾は自分がフレイン・アモスであることの証明になってしまうから、逃げる際に隠したようだ。

この本にはそういったお宝の隠し場所が書いてあったのだ。


「ほえーっ、おもしろそうだな! さっそく探しに行くか?」


 フィオナさんがいたずらっ子の目で提案してくる。

ずっと魔導エンジンを作っていたので、そろそろ休暇が欲しいのだろう。


「でも地図からみると隠し場所はダハル近郊のデマスト山中ですね。危険があるんじゃないですか?」


 ダハルはロックナの首都であり、魔物の支配が強い地域である。


「レニーなら余裕だろう? たった一人で20万もの魔軍を退けたんだ。フレイン・アモスより、よっぽどすごいぜ」


 褒めてもらえるのは嬉しいけど油断は大敵だ。

それに、宝探しをしている時間はない。

今は一刻も早くロックナを開放しなくてはならないのだ。


 いや、待てよ……。

頭の中にいいアイデアがひらめいた。


「使えるかもしれません」

「使えるとはどういうことだ?」


 戦艦までをも召喚できる今となっては、僕に海神の鉾は必要ない。

でも、それが魔軍をおびき出すための道具だとしたらどうだろう?


「情報を魔族にリークします」


 僕が秘宝を探していることを知れば、魔族たちは僕を倒しにデマスト山までやってくるかもしれない。

山の中なら人はいないので、どんなに暴れたって誰にも迷惑は掛からないはずだ。


「ゴビン砂漠での戦闘はこの地域の魔物にはまだ知られていないと思います。僕を囮に使えばロックナの魔物は必ずやってくるはずです」


 アルシオ陛下が重々しく頷いた。


「確かに。ロックナを支配しているブリエルはレニーに完膚なきまでに敗れている。レニーが少数で動いていると知れば、今度は全軍でデマスト山を囲むかもしれない」

「そちらは僕が引き受けますので、陛下たちは手薄になったダハルを奪い返すのです」


 その場にいるお姉さんから反対意見は出ない。

ついにロックナ解放が大詰めを迎えて動き出した。




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― 新着の感想 ―
[一言] うまくいけば色んな事に決着がつくけど 下手すれば最悪の事態になるわけか。
[一言] レベルリセットも残念な話だけど折角、召喚出来るようになった戦艦や深海調査船の出番も無く終わるのか?(ʘᗩʘ’) 上手く立ち回ったレベル49くらいで止めとかんと(↼_↼)
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