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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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抱きしめて


 目を開けると視界がクリアになっているような気がした。

治癒魔法加速カプセルのおかげで体が軽い。

さっきよりも落ち着いて考えを巡らせられそうだ。

レベルのリセットは頭痛の種だけど、それはまだ先のことだ。

今は目の前の敵を何とかする方が先である。


 だいぶ数を減らしたとはいえ、こいつらがギンセンの街へ進軍すれば、援軍の到着していない城塞都市は簡単に陥落するだろう。

どうせリセットされるときはリセットされるのだ。

すぐそこに迫った危機から対処していくしかない。


 僕は戦闘のできないゴーレムたちを呼び出した。


「セーラー1とセーラー2は魔物のいなくなった地区で魔石を集めて」


 戦いはまだまだ続くので、少しでも補給をしたかったのだ。

戦場には撃破された魔物がおとした魔石がごろごろしている。

大物も討ち取っているので、かなり大きなものもあるだろう。

それらを集めれば強襲揚陸艦の運用も余裕のはずだ。


「時間がないから手早くお願いね。それではかかれ!」


 こうして僕は魔石を集めつつ、魔物の軍勢を徹底的に攻撃し続けた。



 三日後

 無人の砂漠にヒューヒューと強い風が吹いている。

風は砂塵を巻き上げて視界を遮る。

もし戦闘時にこんな状況だったら、ここまでうまく敵を倒すことはできなかっただろう。

いまやゴビン砂漠に生きた魔物の姿はない。


「魔石の回収を急いで。撤収は三時間後の14時ちょうどだからね」


 すべてのゴーレムを動員して魔石を集めさせた。

今なら魔石を拾い放題だ。

それでもたぶん拾いきれないだろうな。

この砂漠には20万以上の魔石が落ちているのだから……。


 風がおさまったらまた拾いに来よう。

きっとルネルナさんも褒めてくれるだろう。


 ローエンとシエラさんはどうしているかな? 

こちらの状況はセーラーウィングに手紙を持たせて知らせに行かせた。

さもないと心配性のシエラさんが単独でやってきてしまうかもと思ったのだ。

お師匠様は弟子に過保護だ。

もう少し認めてくれてもいいのにと、ちょっとだけ反発の心を抱いてしまう。

僕だって少しは大人になったと思うんだけどな……。


 今日も携帯食のカロリーブロックを缶入りのカフェオレで流し込む。

ああ、ミーナさんのアップルパイが食べたいよ。

それからお姉さんたちの笑顔もみたい。

乾いた大地は心までも干上がらせる。

と、ここで苦笑してしまった。

やっぱり僕はまだまだ子どもなのかもしれない。

もうこんなに寂しがっているのだから。



 音速で飛んでいくとすぐにギンセンの城壁が見えてきた。

撃ち漏らした魔物がギンセンまで来ている心配もしたけど、そういうことはないようだ。

街はひっそりとしている。

きっと警戒しているんだろうな。


 みんなを驚かせないように城門の外に着陸して声をかけた。


「ただいま戻りました。レニー・カガミです。城門を開けてもらうか、ローエン宰相を呼んできていただけますか?」

「は、はいいいぃっ!」


 城壁の上からこちらを見下ろしていた兵士の一隊が、泡を食って奥へと駆けこんでいった。


 大きな軋みを立てて門が開くとローエンやシエラさんが出迎えてくれた。


「レニー君!」


 シエラさんが僕を見て涙ぐんでいる。

やっぱりお師匠様は心配性だ。


「ただいま戻りました、シエラさん」

「バカ者! どうして私を連れて行ってくれなかったのだ。私は……私は……」

「シエラさん……。ごめんなさい、敵は20万もいたから、囲まれたら全滅すると思って」

「だったらなおさらだ! 私は……私はレニー君にとって足手まといか?」

「そんなことありません!」


 見るに見かねてローエンが間に入ってくれた。


「まあまあ、こうしてレニーは無事に帰ってきたのです。次こそはお二人並んで戦えば良いではないですか。レニー、シエラ殿は手紙を持ってきたセーラーウィングの背中に乗ってまでお前のもとへ行こうとしたのだぞ」


 そんな無茶を?


「シエラさん……」


 シエラさんは俯いて小さく震えている。

僕はどうしていいのかわからなくて困ってしまった。


(レニー)


 ローエンが小声で話しかけてくる。


(なんだよ?)

(シエラ殿は本当にお前を心配していたのだ。そして自分が必要とされていないと思って悩んでいたのだ)

(そんなことあるわけないよ)

(だったらシエラ殿を抱きしめろ)

(はっ? 何を言ってるの? そんな恥ずかしいことできるわけないよ)


 ローエンはやれやれと肩をすくめる。


(何を言っているとはレニーの方だろう。大切な人に思いを伝えるのだ。それくらいしなければわかってもらえんぞ)


 本当だろうか?


(いいからシエラ殿を抱きしめろ。あんなに心配させて、困った奴だ)

(わ、わかった……)


 手を伸ばして腕に軽く触れると、シエラさんはびくりと体を震わせた。

思わず上げた顔に涙が光っている。

ああ、僕はお師匠様をこんなに悲しませていたんだ! 

そう思うともう恥ずかしい気持ちなんてなくなっていた。


「レ、レニー君!?」


 胸に飛び込んできた僕を、シエラさんは優しく受け止めてくれた。


「ごめんなさい! もうシエラさんを心配させたりしません。次からはいつも一緒です」

「レニー君!!」

「おいおい、私は抱きしめろと言ったのだぞ。抱きしめられてどうする? って、シエラ殿にはこの方が効果的か……」


 ローエンがボソボソと何か言っていたけど気にしなかった。


「君と二人なら万の敵がいたって怖くないさ。レニー君、二人でこのギンセンの街を守ろう」


 シエラさんは僕を抱きしめながらそう言った。


 あ、伝えるのをすっかり忘れていたな。

僕はもぞもぞと動いてシエラさんの腕を離してもらう。


「それなんですけど、もう大丈夫です」

「大丈夫とはどういうことだ? レニーが数を減らしてくれていたのは手紙で知っているが、敵は20万の大部隊だろう? 援軍はまだ到着していないし、気を抜くのは早いと思うぞ」


 ローエンはやや呆れている。


「そうなんだけどさ……全滅させちゃった……」

「はっ?」

「だから、敵の部隊をゲリラ攻撃で全滅させたの」

「ええっー!?」


 さすがの名宰相もこれには驚いてしまったようだった。




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― 新着の感想 ―
[一言] 「乾いた大地は」ときたら、下の句は「心やせさせる」だよねぇ
[良い点] 良い師弟だ。 [気になる点] ぜ、ぜんめつめつめつ・・・ この大敗北で魔王が引っ込みがつかなくなって自分で出てきちゃったらレベル的に危ないかな [一言] レニー君逞しいけどやっぱりまだ子供…
[一言] せっかくシエラの悲しみが吹っ飛んだのにレニーの独り占めにプンプン怒るかもな(ʘᗩʘ’)
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