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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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135/153

遥かなる砂漠を臨んで


 夜も更けていたけど、僕はアルシオ陛下の寝所を訪ねた。

夜中に女性の寝室を訪問するなんてマナーに反するけど、事態は急を要する。


「おお、私はこの日をどんなに待ち望んだことか!」


 どういうわけか陛下ははにかんだ笑顔で僕を迎えてくれた。


「待っていた?」

「ようやくわらわと床を共にする気になってくれたのだな! さっ、シエラは他の部屋へ移るがよい」


 護衛のシエラさんをアルシオ陛下が追い出そうとしている。


「バ、バカな! レニー君、嘘だと言ってくれ!」

「嘘です」

「はっ?」

「違いますよ。緊急事態です。魔物の軍勢がファンローの北に現れました」

「なんだと!」


 お二人はすぐにいつもの顔つきに戻った。


 僕は詳しい情報を説明した。


「今、ローエンと皇帝陛下も策を講じている最中です」

「なるほど。で、レニーとしては義兄の助太刀をするのであろう?」

「そのつもりでいます。つきましてはシエラさんと出撃する許可をください」

「許可はいいが、シエラだけを特別扱いか?」

「シエラさんがいれば心強いというのもありますが、いちばんは戦術的理由からです。僕とシエラさんがいればスザクとゲンブの両方が使えます」


 僕以外で魔導モービルを使えるのは伝導の儀式を経験したお姉さんたちだけだ。

その中でも騎士であるシエラさんは別格である。

陸戦型のゲンブを使わせれば右に出る者はいない。


「わらわはどうする?」

「安全のためにも護衛団と共にロックナへお帰りください」


 アルシオ陛下はロックナのことをしなければならないのだ。

陛下もそれは重々承知をしているようで、苦笑しながらため息をつく。


「まったく、女王などつくづく損な役回りだな。リュウメイが羨ましいよ」


 いつか平和な世界がきたら、アルシオ陛下も少しは自由を手に入れられるのだろうか? 

もしそんな未来があるなら、僕だってもっと頑張ろうと思った。



 ハーロン港の郊外に現れた強襲揚陸艦に白狼隊の面々が乗り込んでいく。

3000人くらいじゃ焼け石に水だろうけど、それでも援軍は味方の士気を高めてくれるだろう。

なんといっても天才ローエンが指揮を執るのだ。

ギンセンの人々も勇気づけられるに違いない。


「何を言っているんだ。私なんかよりカガミゼネラルカンパニーの総帥が来たと聞けば、味方の士気は格段に上がるさ」


 ローエンが肩を抱いてくる。


「僕のことなんか知らないでしょ?」

「冗談じゃない。情報が伝播する速度というのは驚くほど速いんだぞ。北方のギンセンでだってレニーは有名なんだぜ。それにこの艦が戦うところをみれば頼もしすぎる味方を絶賛するはずさ」


 それはあるかもね。

陸を走る大型船なんて聞いたこともないだろう。


「操作はセーラー3にさせるから、ローエンは艦長代理として船をよろしくね」

「レニーはどうする?」

「僕とシエラさんは魔導モービルで出撃するよ。その方が効率的だと思う」

「師弟が空と陸から挟撃か。さぞや息の合った攻撃なんだろうな」

「うん。言葉を交わさなくてもシエラさんの考えていることはわかるんだ。シエラさんもそうだと思う。ねっ、シエラさん」


 少し離れたところに立っていたシエラさんに声をかけた。


「う、うむ。以心伝心というやつだな(はあ、今日もレニー君は凛々しいな。出陣前にハグしてくれないかしら。なんならキスだって……。伝わってほしいこの想い!)」

「さて、そろそろ搬入作業も終わりですね。僕らも艦に乗り込みましょう」

(戦闘外では以心伝心ならずか、うぅ……)


 北方のギンセンへ向けて出発開始だ。

普通なら馬を飛ばしても五日以上の道のりらしいけど、僕らはなるべく最短距離を進む予定だ。

二十四時間動かし続ければ一日で到着することができるだろう。



 強襲揚陸艦が通った後ろに長い一本道ができている。

帝都ハーロンと北方のギンセンを結ぶこの道は、後にカガミ街道と呼ばれるようになるのだが、今は荒れ果てた傷跡に過ぎない。

強引に転圧しながらここまで来たけど、我ながら無茶なことをしたものだ。

消費魔石も目が飛び出るほどすごかった。


 ギンセンの街は魔軍の接近を知らず、全くの無警戒だった。

北に設けられた物見砦からはまだ何の連絡も入っていなかったようだ。

ローエンはすぐさま軍権を自分の手に移し、各将軍たちに策を授けている。


 僕は高い城壁に上って目の前に広がる荒涼とした砂漠の様子を眺めていた。

今はなにもないだだっ広い土地だけど、やがてここはギンセンを襲う魔物で埋め尽くされるのだ。


 ローエンが階段を上がってきた。


「どう、一段落した?」

「まだまだだけどな。非戦闘員の避難指示と、指揮系統の確認。それから防御の割り当てに、食料備蓄の確認と、罠の設置、忙しくて目が回りそうだよ」


 それだけのことを短時間でやるのだからローエンはすごい。


「魔軍の距離はどうなった?」

「思ったより早いよ。たぶん三日後にはギンセンに到着すると思う」

「そうか、援軍は間に合いそうもないな」


 帝都ハーロンでは急遽部隊が編成されているけど、本隊が到着するのはどんなに早くても四日後になるようだ。


「騎馬隊はもうハーロンを出発しているだろうけど、本隊がいなければ白兵戦は無理だな。それまでは籠城戦になるだろう」


 ローエンは憂鬱そうだ。


「厳しい戦いになりそう?」

「勝機がないわけじゃないんだ。ただ、犠牲は大きくなる……」


 普段は飄々としているからわからないかもしれないけど、実はローエンは優しい性格だ。

部下の将兵が死ぬのが辛いに違いない。

ましてや死地に行けと命令するのは他ならぬローエンなのだ。


「僕が足止めと数減らしをしてくるよ」

「どういうことだ?」

「僕一人で行って、強襲揚陸艦の魔導砲をぶっぱなしてくる」

「だが、囲まれたら一巻の終わりだぞ。いくらシャングリラ号が無敵の艦でも万を超える魔物に攻められたら抗しきれないはずだ」

「囲まれる前にスザクで逃げるもん」


 アフターフラッシュを使用した際のスザクのトップスピードは2450.09㎞/hだ。

追いつける魔物はいないだろう。


「なるほど……それならいけるかもしれない」

「でしょ。敵がギンセンにくる前になるべく数を減らしてくるよ」

「すまないが頼む」


 帝都を出発する前に皇帝陛下から魔石はたっぷりともらってある。

強襲揚陸艦の運用には困らないはずだ。

僕は腹ごしらえをしっかり済ませて、スザクをまとって出発した。



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