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砂漠を越えて来るもの


 用意された部屋に入ると、すぐにローエンがやってきた。


「はははっ! レニー、正直に言えよ。陛下には驚かされただろう?」


 ローエンは椅子に腰かけながら笑っている。


「うん、少しね。でも、とてもいい人そうだよ」

「それは間違いない。あれで頭も切れる。計算にかけては勝てる気がしないよ。ただ、感情が行動に直結する傾向があるのだ。場合によってはそれが奇異と取られることもある。そこらへんをコー兄上に付け込まれたのだな」


 たしかに変わってはいるもんなあ。

僕みたいな子どもに抱え上げられてキャッキャッと喜ぶ人は少ないと思う。


「ところでレニー、例のあれはどうなった?」


 ローエンは真面目な顔になった。


「コンピューターの解析だね」


 コンピューターというのはガイドロス島から持ち帰った機械だ。

魔物デザインアニマルを産みだす装置に接続されていた箱のことである。


「あれから、何かわかったことはあるか?」

「魔物の生産拠点はすべて判明したよ。セーラーウィングを増やすことができたから、地理の方もわかっている。魔王の拠点も絞り込めたよ」


「そうか! これでいよいよ攻勢にでられるな」


 この度のリーアン皇帝陛下の即位式には世界各国の代表が集まる。

そこで僕らは全世界規模の同盟を結ぶべく、密かに行動していたのだ。

もちろん皇帝陛下もこのことは知っている。


「いよいよ人間側から打って出ることができるな」

「うん。僕が用意した資料を活用して、同時に北方へ進行できれば、魔物に大打撃を与えられるはずだよ」


 もちろん国力の差や、それぞれ国の事情はあると思う。

だけど、うまいこと連携が取れて、一つでも生産拠点が潰せれば、それだけ魔物による被害は減るはずなのだ。


「やはり、俺達の目標はここだな」


 ローエンはファンロー帝国の北方に位置する拠点の一つを指さした。


「そこがいちばん大きなプラントだからね。もちろん僕も協力するよ。そのためにも、まずはロックナ本国を取り戻して後顧の憂いを断たないと」

「ああ、レニーならできるさ」


 詳しい作戦立案は皇帝陛下も交えて行うことにして、その晩は早めに休むことにした。



 リーアン皇帝陛下の即位式は十日に渡って祝われて、国中がお祭り騒ぎになった。

世界各国の代表が見守る中、新皇帝は魔物に対抗する世界同盟の提案を演説して、人々はこれに共感した。

近く、正式に同盟が締結されそうな勢いだ。

アルシオ陛下も同盟に賛同する決議書にサインしている。


「予定通り明日の朝にハーロン港を出航しますね」


 僕は通信機に向かい、フィオナさんと夜の定期交信をしている最中だ。


(了解。やっと帰ってくるんだな。姉ちゃんは嬉しいぞ)


「ちゃんと寝ていますか? 仕事が忙しくて体調不良になっていたりしませんか?」


(ノームたちが来てくれてから、だいぶ楽になったよ。それに大仕事が終わったからな)


「大仕事って、大型魔導船のことですか」


(ああ、最高の仕上がりだぜ。あとは試験航海を残すばかりさ)


 大型魔導船はルネルナさんのお父さんであるニーグリッドさんから依頼された、魔導エンジン付きの帆船のことである。

ついにその初号機ができあがったのだ。


「うわあ、はやく現物をこの目で見たいです」


(帰ってきたらすぐに試験航海だぞ。約束だからな)


「はい。初号機に乗ってコンスタンティプルまで行ってみましょう」


 魔導エンジンの付いた貿易船ができあがれば、風や魔物に悩まされることは大幅に減るだろう。

僕にはシャングリラ号があるけれど、これからはいろんな人がカガミゼネラルカンパニーの発売する魔導船を使えるようになるのだ。

いよいよ新しい時代の到来って感じだよね。



 ファンロー滞在中はリーアンの宮の一隅に部屋を貰って、そこに滞在していた。

アルシオ陛下やシエラさんも同じ宮の中にいる。

ここだといろんな人が気を遣ってくれるのでとても快適だ。


 明日はロックナに帰ることだし、今夜はローエンの部屋でいろいろと話し込んでいた。

そんなおり、セーラーウィングの一体から緊急連絡が入った。

かなり大切な用事らしく、頭の中で警報が鳴り響いている。

僕はすぐにステータスボードを開いて確認した。


「どうした、レニー?」


 ステータスボードは他人には見ることができない。

ローエンには僕が空中に指を走らせている姿が不思議だったようだ。


「大変だよ、ローエン。北方に飛ばしているセーラーウィングからの情報だ。魔物が集結しながらファンロー方面に向かっている」

「なんだと! 規模と進行ルートはわかるか?」


 ローエンは部屋の隅から大きな地図を持ってきてテーブルの上に広げた。


「数は5万くらい。ただ、四方八方からどんどん集まってきているから、最終的には20万は軽く超えそうだよ。移動ルートはこうだね」


 画面を見ながら地図の上をなぞった。


「奴らの目的はギンセンの街か。ひょっとしたらそのまま南下を続けて、このハーロンまで攻めるつもりかもしれないな」


 ファンロー帝国の北側には巨大なゴビン砂漠が広がっているが、魔軍はそのさらに北にいる。

この砂漠を越えてギンセンに到着するまでには五日はかかりそうだ。


「ギンセンの守備兵はどれくらい?」

「2万が駐屯している」

「その兵力じゃとても持ちこたえられないよ」


 ギンセンは城塞都市らしいけど、魔軍の規模はこれまでに類を見ない数だ。


「至急、兄上と相談して増援を送る。レニー、悪いのだが――」

「わかっている。僕も行くよ。強襲揚陸艦でも無理に詰め込めば3000人くらいは運べるしね」


 まあ、あれで進んだら新しい道路ができちゃうけど……。


「すまん。そちらには私も乗せてくれ」

「ローエンも出撃するの?」

「現場の指揮は私が執る。とりあえずは白狼隊を連れていく予定だ」


 白狼隊はローエンの直属部隊だから迅速な行動ができるのだろう。

ローエンが宰相になってからは規模も大きくなっている。


「了解。ただ、強襲揚陸艦を動かすとなると、莫大な魔石が必用になるんだ」

「わかっている。世話になるのだからこちらで用意するさ。さて、遅い時間だが兄上を起こさなければならないな」

「僕もアルシオ陛下と相談してくるよ」


 僕らは重い気持ちのまま部屋を出た。








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