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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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133/153

新しいお兄ちゃん


 別行動をとっていた高速輸送客船と合流して、僕らはついにファンロー帝国の都、ハーロン港に入港した。


「レニー! アルシオ殿! ようこそおいでくださった!」


 船着き場で誰かが大声で叫んでいると思ったら、迎えに来たローエンじゃないか!


「ローエン! ファンロー帝国の宰相様がこんなところでフラフラしていていいの?」

「何を言っているレニー。私は公務で大切な賓客を迎えに来たのだぞ。皇帝陛下も首を長くしてお待ちだ。早く宮中へ参ろう!」

「すぐに準備するから待っててねー!」


 従者たちは式典用の制服に着替え、威容を示すために隊列を整える。

本来アルシオ陛下は馬車か輿に乗っていくのだけど、今日は兵員装甲輸送船をオープンカーのように飾り立てて使うことにした。


 これなら安全だし、ファンローの人々に与えるロックナのインパクトも相当だろう。

僕らは威風堂々ファンローの宮廷へと入城した。



 宮廷では各国の高官や貴族、王族などが皇帝への謁見を待っていたけど、僕らはそのまま謁見の間に案内された。


「いいのかな? 順番を抜かしているよ」

「まあまあ、皇帝陛下がすぐにでもお会いしたいそうだ」


 ローエンに導かれて、僕らは皇帝の御前へ出た。

ロックナの女王である陛下は立ったままだけど、僕は膝をついて頭を垂れる。


「ロックナ王国女王、アルシオがご挨拶いたします」


 アルシオ陛下があいさつをしている間、僕はじっと黙って床を見ていた。

ここの床は色とりどりの木材を使った寄せ木細工で出来ていて、眺めているだけでも楽しいのだ。

これはエイジリアン大陸独特の技術で、ユーロピアにはない文化である。


「ところで……、そちらに控えているのがレニー・カガミ伯爵か?」


 不意に名前を呼ばれてびっくりした。

こういうときって、許されるまで直答を避けるのが宮中の礼儀なんだって。

僕もしっかり学んでいるぞ。


「カガミ伯爵、顔を見せてくれ」


 そう言われてもすぐに顔を上げるのは失礼なんだって。

頼まれたらその通りにする方がマナーにかなっているような気がするんだけど、文化の違いはいろいろだ。

僕はそう思って床を見つめていたんだけど、ローエンがとりなした。


「レニー、作法はいいから顔を上げろ。陛下はずっとお前に会いたがっていたんだ」


 ローエンが言うんだから大丈夫だよね? 

半信半疑ながら僕はゆっくりと顔を上げる。

すると、まん丸の目玉を大きく開けながら、僕のことをじっと見つめる皇帝陛下と目が合った。


 こんなことを言っては失礼だけど、顔だけ見ると、街で見かける愛想のいいおっちゃんって感じだ。

そう言えばロックナの魚屋さんによく似た人がいた。

魚のフライを買いに行くと、いつもおまけをしてくれる優しい人だ。


「おお、そなたがレニーか。ずっと会いたいと思っていたのだ。囚われていた朕を助け出してくれたのはそなたなのだろう?」


 コー前帝に捕まっていたのをビャッコを使って助け出したんだよね。

あの時は身バレを恐れて、ご挨拶もなしに済ませている。


「その節は大変失礼をいたしました」

「よいよい、レニーは朕の恩人だ。それよりもこちらにおいで!」


 皇帝陛下は金ぴかの椅子からピョンと立ち上がり、僕に来いと手ぶりで示す。

えーと、近づいてもいいのかな。

困り果ててローエンを見ると、苦笑しながら大丈夫だと頷いている。

皇帝陛下はこういう性格らしい。


 僕が近づくと、皇帝陛下はくるくると僕の周囲を回って、しばらく観察していた。


「ホッ、なんともかわいらしい顔立ちをしておるな。このような少年が朕を救ってくれたとは驚きだ」


 皇帝陛下は手を伸ばして僕の頭をなで始めた。


「いい子であるな。うむうむ。疲れてはおらぬか? そうだ、お菓子を食べるがよい!」

「え? え?」

「茶菓をもって参れ! レニーに食べさせるのだからな」


 すぐに綺麗に盛られた色とりどりのお菓子が運ばれてきた。

とても一人で食べきれる量じゃない。

30人前くらいはありそうだぞ。

ファンロー帝国のお菓子ってパステル調に色付けされているんだよね。

西の世界ではあまり見ない色遣いだ。

ミーナさんがいたら喜んだだろうなあ。


「レニー、このゴマ団子は美味いぞ。朕の大好物じゃ。ほれ、食べてみろ」


 皇帝陛下が手ずから僕に団子を手渡してくれた。

もちもちの皮にゴマをまぶして揚げてあるようだ。

噛みしめると中の餡子が飛び出してきて、ゴマの風味と絶妙なハーモニーを奏でた。


「どうだ、美味しかろう?」

「はい、とっても」

「こちらのはハスの実も入っているぞ。食べてみろ」

「僕ばかり食べていては申し訳ないです。皇帝陛下も召し上がってください」

「朕もか? そうだな! レニーと一緒に食べよう。ん~、どれにするかな……」


 ちょっと変わった人だけど、コーみたいに悪い人じゃなさそうだ。


「陛下は私の義弟が気に入られたようですな」


 ローエンが笑いながら近づいてきた。


「なに、ローエンの義弟だと? ……ならば朕にとっても弟ではないか!」

「え?」

「知らないのか? 朕とローエンは実の兄弟であるぞ」


 いえ、それは知っています。


「朕の弟の弟というのなら、朕にとっても弟であろうが! これはめでたい。このような弟がいたとはちっとも知らなかったぞ!」


 陛下は嬉しそうに僕をハグしてから、高い高いをしようとして重すぎて持ち上げられず、困った末に僕に飛びついてきた。

えーと、僕が高い高いをしてあげればいいのかな? 

よーし……えいっ!


「おお、広間が遠くまで見渡せるぞ! レニー、このまま椅子の上に乗ってくれ」


 皇帝陛下って40歳くらいだったよね。

なんだか知らないけれど、いきなり年の離れたお兄ちゃんができてしまったようだ。

ずいぶんと無邪気なお兄さんではあるが……。


 困惑する周囲など気にせず、皇帝陛下は至極ご満悦であった。




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― 新着の感想 ―
[一言] これは憎めない系の皇帝w
[良い点] 皇帝陛下が気安過ぎて最早、久々に会った親戚のおっちゃんと甥っ子みたいになってしまってる。 [気になる点] 特に無し [一言] いつもながら面白い作品を執筆してくださりありがとうございます。…
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