お手伝い
宴の後はアルシオ陛下の部屋に集まってお茶を飲んだ。
今回は忘れずに、扉の前にセーラー3を配置しておいた。
「ふむ……」
アルシオ陛下は大きなため息をついて考え込んでいる。
「どうしたのですか?」
「うん……リュウメイのことを考えていた」
付き合った期間こそ短いけど、リュウメイさんと陛下は仲がいい。
婚約が破棄されてしまったリュウメイさんを思って、心を痛めているようだ。
「キオン殿は離れ小島に流刑になるらしいな。そうなればリュウメイはもう一生彼に会うことはできないだろう。彼女は本気でキオンが好きだった」
キオンさんに罪はないと思うけど、ランジャ王国の法律に外国人が口を出すのはまずいだろう。
それこそ内政干渉にあたってしまう。
「レニー、なんとかならないだろうか?」
「なんとかと言われても……」
「例えばビャッコで牢に忍び込む」
「キオンさんを脱獄させるってことですか!?」
「うむ! ビャッコを使えば誰にも見咎められずにキオンを救えるだろう。成功したらシャングリラ号で駆け落ちさせてやればいい」
この案にシエラさんが待ったをかける。
「しかし、それではキオン殿は国外逃亡のお尋ね者になってしまいますよ」
「良いではないか。愛し合う二人なら流浪の旅も乗り越えられるであろう」
アルシオ陛下はうっとりとした表情になった。
「そ、それもそうですね。私なら深山に篭り、二人で武芸の修行に精を出しますが……。四季を愛で、武技を競い、ひっそりと二人だけで生きていくのです」
「おお、それもいいな! だがわらわはやっぱり漂泊の旅がいい。二人で同じ馬に乗り、背中から抱きしめてもらうのだ。のお、レニー」
のお、レニーじゃない。
「そんなのはダメです。キオンさんを脱獄させたら僕は脱獄の主犯じゃないですか」
「バレなければ問題はなかろう?」
「じいちゃんが言っていました。天網恢恢疎にして漏らさず。悪いことは必ず露見するそうです。下手をしたら国際問題になりますよ」
お二人は顔を見合わせてうろたえている。
「わかった、脱獄させるのは諦めよう。だが何か手はないか? このままではあまりにリュウメイが憐れだ」
「そうですねえ……」
僕たちは額を付き合わせていい知恵を出し合った。
対面した王太子殿下は折れてしまいそうなほど痩せていて、青白い肌はかさついていた。
宮廷のお抱え治癒師が毎朝治癒魔法を施していてもこの状態らしい。
「太子の病は治るであろうか、カガミ伯爵?」
ランジャ国王が心配そうに訊いてくる。
「特殊医務室で検査をしてみなければ確かなことは言えませんが、きっと大丈夫でしょう」
「おお、それならよろしく頼む」
僕はここぞとばかりにお願いをすることにした。
「王太子殿下のことはお任せください。その代わり二つのお願いをきいていただきたいのです」
「お願いとは?」
「一つ目は魔石です。殿下のご病気を治すには大量の魔石が必用です。ご用意いただけますか?」
「もちろんだとも。すぐに持って来させよう」
これでルネルナさんに叱られなくて済むな。
「それから、逆賊として捕まっているキオン・ルーをお引渡しいただけませんか?」
「キオン・ルーを?」
「主犯の大臣は死刑になるそうですね?」
「その通りだ。王太子の治療を阻止しようとしたばかりか、アルシオ殿のお命を狙った不逞の輩。断じて許すことはできない」
「それは構わないのですが、大臣の息子であるキオン・ルーには、流刑ではなくロックナ王国で罪を償ってもらいたいのです」
「ロックナで?」
「流刑地で漫然と過ごすのではなく、ロックナ王国のために働いてもらいます。それにより、アルシオ陛下殺害未遂の罪を償ってもらうのです」
意訳すれば、国外追放でキオンさんの罪を許してくれと言っているようなものだ。
ランジャ国王にも僕たちの意図はすぐに伝わったようだ。
「それでよろしいのか? 余もリュウメイの許婚を流刑にするのは忍びなかったのだ。カガミ伯爵、礼を言わせてくれ」
そうと決まれば話は早い。
僕は王太子の治療に取り掛かった。
王太子殿下の病気は白血病と診断された。
これは血液の癌である。
治療には膨大な量の魔石と18時間もの時間が必要だったけど、殿下の病気は治すことができた。
「すっかり生まれ変わったような気分です。このように体が楽なのは物心がついてから初めてのことですよ」
ともに食事をしながら王太子殿下はずっと笑顔だった。
「まだまだ、体調は完璧ではないですよね。よろしかったらもう少し治癒魔法加速カプセルに入りませんか? 失われた体力を戻すことも可能ですよ」
カプセルで筋肉の増量などもできるのだ。
「それはありがたいお言葉です。カガミ伯爵、この身に力が戻ったらイカルガで遊ばせてはもらえませんか?」
「イカルガで?」
「みながプールやスケートリンクの話をしていてうらやましかったのです。私は昔からそういったことは一切できなかったので……」
「遊園地だって、ラウンジだって開放しますよ。一緒に遊びましょう」
「ありがとうございます、伯爵」
殿下はずっと苦しんできたのだから、それくらいはお安い御用だ。
ランジャ国王もこれまで見たこともないくらい喜んでいて、すっかり酔っぱらっている。
「これで余の憂いは一切なくなった。いつ死んでも悔いはない。カガミ伯爵はランジャ王国にとっては救いの神。なんと言ってお礼を言ってよいやら」
「おやめください陛下。そのように持ち上げられては困ってしまいます」
本当に困るのだ。
これからやらなければならないことを考えると、陛下には少し申し訳ない気持ちになった。
翌日、僕らはランジャ王国から旅立った。
彼の地ではだいぶ時間を使ってしまったので、そろそろファンロー帝国に入らなくてはならない。
けれども、僕にはやり残した仕事が一つある。
それを遂行するために港の沖合30キロのところで船をとめ夜を待った。
王宮の城門は夜になると固く閉ざされる。
警備は厳重で、蟻一匹這い出る隙間もない。
でも、ステルス機能をもつビャッコとなると話は別であった。
僕はアルシオ陛下に頼まれてリュウメイさんを連れ出しに向かっている。
陛下とリュウメイさんの間には秘密の約束ができていて、キオンさんとの駆け落ちを手伝うことになっているそうだ。
「そんなことをして大丈夫ですか?」
と訊いたのだけど、
「これは家出の手伝いであって、脱獄などではない。内政干渉には当たらない!」
と撥ねつけられてしまった。
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