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1500発


 波が静まったところで僕は甲板に引き出された。


「さっそく巨大船を召喚してもらおうか」


 ルー大臣が命令してくる。


「それはいいけど、先にアルシオ陛下とシエラさんの無事を確認させて」

「……よかろう」


 ルーは部下に命じ、すぐにロープで縛られた二人も甲板に姿を現した。


「ご無事ですか、陛下、シエラさん?」

「ああ、わらわは無事だ。傷一つない」


 人質だから丁重に扱ったのだろう。

そうじゃなかったら絶対に許さないけどね。

だけど、問題が去ったわけじゃない。

二人は依然拘束されたままだし、首筋には剣が付きつけられている。


「これで文句はなかろう。さっさと巨大船を召喚するのだ」

「じゃあ、ロープを解いてください」

「なんだと?」

「縛られたままじゃ召喚はできませんよ」


 もちろん嘘だけど、こう言えば手が自由になるかもしれない。


「よかろう。だがおかしな真似はするなよ。さもないと……」


 ルーは陛下とシエラさんの方を睨んだ。


「わかっていますよ」


 ルー大臣は少し考えた末に部下へ命じた。


「カガミ伯爵の縄を解いてやれ。小僧が自由になったくらいではなにもできまい」


 手首に食い込んでいたロープが外されて、久しぶりの解放感に包まれた。


「これで文句はあるまい。さっさと船を呼び出すのだ!」


 ルー大臣は剣を抜いて僕に突き付けてきた。

うん、たいした力量はなさそうだ。

この程度の実力で剣を向けるのは不用意というものである。

僕が得意とするダガピアには無刀取りという、無手の技だってあるんだから。


 素早く踏み込んで、切っ先をかわしつつ体を回転させる。

その勢いのまま肘でルー大臣のあばらを打ち、腕を絡めて剣を奪った。

手加減はしたけど骨にひびは入っただろう

。大臣は情けない声を上げて顔を歪めた。


「貴様……」

「僕を幼い少年だと侮ったね」

「クッ、人質がどうなってもいいのか?」

「それは貴方も同じだ、ルー大臣」


 握った剣に少し力を籠めると大臣の首筋にうっすらと血が滲んだ。


「わ、わかった。同時に人質を解放しよう。それなら文句はあるまい」


 船には大臣の部下が何十人も乗っている。

たとえ僕らを自由にしても、数の力で再び捕らえるつもりでいるのだろう。

戦えば勝てるとは思うけど、アルシオ陛下が心配だ。

こうなったら……。


「いいよ、お望み通り船を呼び出してあげるさ」

「なんだと」

「召喚、強襲揚陸艦!」


 色とりどりに輝く六重の魔法陣が回転して、その中心に現れたのはイカルガではなく三連魔導砲を二門も備えた水陸両用の戦艦だ。


「な、なんだこの船は……」


 大臣が驚くのも無理はない。

巨大な鉄の戦艦は、擦っただけでこちらの船を木っ端みじんにしてしまいそうなほど重厚だ。

しかも船の要所要所に500体のセーラー3が配備され、マジックライフルの銃口を定めている。


「威嚇射撃用意……撃て!」


 500丁のマジックライフルが3発ずつ、合計1500発の魔弾丸が帆船の甲板を破壊する。


「ひいいいいっ!」


 敵が怯んだ隙をみて甲板を蹴った。

目指すは陛下たちを捕まえている二人の兵士だ。

当て身と蹴りを同時に繰り出すと、二人の兵士は後方へと吹き飛んだ。

手加減はしておいたけど骨にひびくらいは入ったかもしれない。


「全員動くな! 動けば先ほどのマジックライフルが貴方たちの体を蜂の巣のようにしますよ」


 誰もかれもが身じろぎ一つしなかった。



 ルー大臣たちを拘束した僕らは、そのまま強襲揚陸艦でランジャ国へと戻った。

アルシオ陛下やロックナ王国がこれ以上舐められるわけにはいかないからね。

この船に乗っていれば僕らに手を出そうなどとは考えないだろう。



 操舵室で僕と陛下、シエラさんは今後の予定を話し合った。


「陛下、この度は申し訳ありませんでした」

「何を謝る?」

「陛下が捕らえられるなんて、あってはならないことです」


 僕とシエラさんは頭を下げた。


「もう気にしないでくれ。こちらは三人しかいなかったのだ。仕方がないではないか」

「いえ、最初から護衛としてセーラー3を連れて行けば良かったのです。今回のことで、ある程度の威容を示さないといけないわけがようやくわかりました」

「うむ。ルーのような奴はどこの国にもいるものだ。威張り散らすのは感心しないが、つけ入れられないようにしなければならないな」


 ランジャ国に着いたら、僕が正式に抗議に行くことにした。



 大臣をランジャ国に引き渡し、国王には厳重に抗議しておいた。

ルー大臣の目的が王太子の治療を阻止することにあったことを知り、国王も激しく怒っているようだ。

関係者が次々と捕縛されているらしい。



 その晩、王宮の大広間では僕らのためにお詫びの宴が開かれていた。


「アルシオ殿、カガミ伯爵、この度は誠に申し訳なかった」


 国王が頭を下げたので僕らは今回の一件を水に流すことにした。

そもそも、国王が画策した犯罪じゃないからね。


「承知しました。もう過去のことに囚われるのはやめにしましょう。今後ともランジャとロックナは友好国です」


 アルシオ陛下もことを荒立てる気はないようだ。


「そう言ってくださるとありがたい」


 僕も大事なことを言っておかなきゃ。


「改めて明日にでも王太子殿下の治療をしなければなりませんね」

「おお! このようなことがあった後でも王太子のことを気にかけてくれるか。かたじけない、カガミ伯爵」


 ランジャ国王は大喜びで僕の手を取った。

王太子の治療が継続されるということで皆笑顔だったけど、ただ一人リュウメイさんが浮かない顔をしていた。

きっと、婚約者であるキオンさんのことを考えているのだろう。 

ルー大臣の息子であるキオンさんも投獄され、取り調べを受けているそうだ。


 僕はリュウメイさんにお酌をするために立ち上がった。


「どうぞ、このお酒は美味しいですね」

「恐れ入ります、カガミ伯爵」

「キオンさんは計画に反対だったこと。事件の間は屋敷に監禁されていたことは取り調べの役人に伝えておきましたよ」


 そう言うと、リュウメイさんはハッとした顔になった。


「伯爵のご厚情、いたみいります。ですが、何らかの罰は免れないでしょう」


 ことは反逆罪にあたり、一族も罪をかぶるらしい。

リュウメイさんとキオンさんの婚約も破談となるようだ。


「伯爵のお口添えのおかげで死罪は免れましょうが、たぶんキオンは流刑となるでしょうね……」


 深い悲しみを讃えたリュウメイさんを見るのが辛かった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 僕はキオンさんにお酌をするために立ち上がった。 リュウメイさんの間違いですよね
[一言] だと思ったけどって奴だな(ーдー) まだ魔導モービル出して無いだけ穏便だな(ーー;)
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