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イカルガへご招待 中


 午後になると、僕らやリュウメイさんたちは数台の馬車に分乗して港へと向かった。

馬車を護衛する騎馬が100騎もいて、沿道にもうもうと砂煙を上げている。


「それにしても船を召喚する能力とは珍しいですね。あのような魔法は初めて見ましたが、この目で見たのでなければ今でも信じられませんよ」


 馬車に同乗していたキオンさんは不思議そうに小首をひねっている。

召喚と言えば天使や悪魔を呼び出すのが一般的だもんね。

船長の固有ジョブを持つ僕が特殊なのだろう。


 キオンさんにはクルーザーを送還するところは見せている。

いたずらされるのも嫌なので、お城に行くときに戻しておいたのだ。


「先ほどもお話ししましたが、今日は大きな船を召喚します。もしかしたら騒ぎになるかもしれませんので、先に謝っておきますね。ごめんなさい」


 僕はペコリと頭を下げておいた。


「いやいや、ご心配なく。それにしても大きな船ですか。まさか、帆船を呼び出そうとでもいうんじゃないですよね?」

「帆船よりも大きいです」

「は? というとガレオン船のような?」


 ガレオン船は大きな戦艦のことだ。


「いえいえ、軍艦ではないのです。大型のクルーズ客船でして、その……全長は362mほどあります」

「さっ……!?」


 キオンさんは言葉が続けられなくなってしまう。

僕らが乗ってきたクルーザーだと全長が19.28mだもんな。

それと比べたらとんでもない大きさだ。


「邪魔にならないようになるべく端っこの方に泊めますので許してください」


 リュウメイさんにはアルシオ陛下から特殊医務室の話をしてもらった。

皇太子殿下の病気を治せるかもしれないとあって、みんな興味を持っているそうだ。

ただ、やっぱり信じられてはいないみたいだね。

これまでだって一流の治癒師に魔法をかけてもらったのに、皇太子殿下の病気は治らなかったみたいである。

突然やってきた外国人がいきなり治療をすると言ったって、ふつうは不審に思うはずだ。

無理強いはできないけど、信じてもらえるようなら治療はする予定である。



 港へ到着すると、安全を確認してからイカルガを呼び出した。

この船を呼び出すときの人々の驚嘆ぶりだけは万国共通だ。

みんなが驚きと興奮をあらわにしている。


「こ、これが、船……?」


 震えるリュウメイさんをアルシオ陛下が優しく支えた。


「大丈夫ですよ、リュウメイさん。さあ、中に入りましょう」


 陛下とリュウメイさんを先頭に護衛の騎士や、興味本位でついてきた貴族たちがタラップを渡っていく。


 僕はリュウメイさんの乳母をしていたトットーさんの手を取った。

白髪の優しそうな女性で、年齢は74歳になるそうだ。


「さあ、いきましょう。足元に気を付けてくださいね」

「カガミ伯爵、私などにそのような……」


 トットーさんは遠慮していたけど、僕は構わず手を引いてあげる。

だってトットーさんは腰が悪いのだ。

今も痛々し気に杖を突きながら腰を曲げている。

今日は特殊医務室で治療をしてあげる予定だ。


 これはリュウメイさんから頼まれたことなのだけど、ちょっとだけ微妙な気持ちにもなっている。

だってさ、どう考えても人体実験だよね。

トットーさんの様子を見て、僕に皇太子殿下を治療させるかどうかを決めようという思惑があると思うんだよ。


 まあ相手は皇太子殿下だから慎重になる気持ちはわからなくもない。

それにトットーさんは優しそうな人だから、治療をするのはやぶさかではないのだ。


「申し訳ございません、カガミ伯爵」

「お気になさらずに。お帰りの時は元気に階段を下りられるはずですから楽しみにしていてくださいね」


 僕らは手をつなぎながら長いタラップを登った。



 セーラー2にも手伝ってもらって、船内を一通り案内した。

お客さんたちはどの施設にも興味津々で、すぐにでも自由見学をしたいようだ。

だけど、本日のハイライトは特殊医務室である。



 医務室に着くと、僕は車いすに座ってもらっていたトットーさんに手を貸した。


「さあ、立ち上がってこちらへどうぞ」

「は、はい……」


 見慣れない機械やカプセルに恐れをなしたのか、トットーさんは不安そうな顔をしている。


「大丈夫ですよ。治療はまったく痛くありませんから。それどころか、とても気持ちがいいんです」

「ばあや、カガミ伯爵もこう言ってくださることだし、治療を受けてみて」


 リュウメイさんに促されて、トットーさんも覚悟を決めたようだ。


「……わかりました」


 そう言いながら、よろよろと治癒魔法加速カプセル底部の魔法陣の上に立った。


「それでは始めましょう」


 僕は装置を起動してまずはスキャンから始める。


「うーん、思ったより時間がかかるかもしれませんね」

「ばあやの具合はそれほどひどいのですか?」


 リュウメイさんがモニターを覗き込んでくる。

ただの腰痛だったらよかったのだけど、トットーさんは解離性大動脈瘤という病気を患っているようだ。

また、表面には現れてはいないけど、骨粗しょう症や初期の癌などもみられる。


「あ、安心してください。予定より時間はかかってしまいますが全部治せますよ」


 治癒魔法加速カプセルを起動させて治療を開始した。

ずっと見守るのも何なので、他の人には船を自由に見学してもらうとしよう。

念のために戦闘タイプのセーラー3を四体召喚して特殊医務室の警備をさせておく。

これで、いたずらをする人もいないだろう。


 時間が来るまで、僕らはラウンジで食事をしたり、施設を開放して遊んでもらったりした。



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[一言] ばあや結構瀕死だったな・・・ラッキー!
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