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イカルガへご招待 前


 ランジャ王国の風習では、遊びにきた友を一日で帰らせるというのは失礼なことらしい。

最低でも三日は逗留してもらいもてなすというのが常識のようだ。

ましてや五日後にはリュウメイさんとキオンさんの結婚式も控えている。


 というわけで、僕らはしばらくの間ランジャ王国に滞在することになった。

アルシオ陛下とリュウメイさんはすっかり仲良くなり、姉妹のように今日も遊んでいる。

シエラさんは陛下の護衛についたので、僕は一人で都を見物することにした。



 市場で香辛料の買い付けができないか調べてみようと考えていたら、城門のところでキオンさんに出くわした。


「おはようございます、カガミ伯爵。どちらに行かれるのですか?」

「せっかくですから街を見物しようと思いまして」

「それはけっこうなことですな。ですが……」

「どうしました?」

「お一人で行かれるのですか? 従者や護衛の方は……」


 ランジャ王国では貴族が一人で出かけることは滅多にないようだ。

この辺りはお国柄なのかな? 

僕の故郷のハイネーンなんかだと、若い貴族なんかはけっこう一人で遊びに行ったりするらしい。

僕は元々が平民だし、その辺りはまったく気にしない。


「必要ありません。ちょっと市場を見て回るくらいですから」


 ミーナさんのために見知らぬ香辛料が欲しいだけで、危険なドラッグを買いたいわけじゃない。

今回は少量のお土産を買って帰って、どの香辛料がユーロピア大陸で受け入れられそうかを相談するのだ。


「お恥ずかしい話ですが、街には無頼の徒もおります。どうかうちの兵士を連れて行ってください」

「心配はいりませんよ。こう見えて腕に多少の覚えはありますので」


 ガイドロス島では幾千もの魔物を倒したのだ。

だけどキオンさんはなおも心配そうな顔をしている。


「私はこれから公務で皇太子殿下のところへ行かなくてはならないのです。そうでなければご一緒するのですが」

「皇太子殿下がいらっしゃるのですか? 昨晩の宴ではお見かけしませんでしたが」

「殿下はご病気がちでして、宴席などは欠席されることが多いのですよ」


 聞いてみると皇太子殿下は僕より少し上の15歳だそうだ。

お会いできたら友だちになれるかな? 

具合が悪いようなら特殊医務室で治して差し上げられるかもしれないけど、いきなりそんなことを言っても信じてもらえないか……。

アルシオ陛下からリュウメイさんに話してもらえばいいかもしれないな。


 いいと断ったんだけど、キオンさんは僕の護衛に兵士を五人もつけてくれた。

もっとも街の地理はまったくわからないから案内人だと思えばありがたい。

僕はキオンさんにお礼を述べてから城下町へと繰り出した。



 案内された市場はこじんまりとしていた。

ランジャ国の港はコンスタンティプルやファンローには遠く及ばないし、市場の規模はロックナよりも小さい。

国力を考えれば賑わっている方だと思う。

初めて見る香料やスパイスがたくさんあったので、楽しみながら買い物をすることができた。


 城に戻ってくると、待ち構えていたようにアルシオ陛下からお呼びがかかった。

何やら僕に相談事があるみたいだ。

さっそくお部屋へ伺うと、陛下とシエラさんに出迎えられた。


「レニー、贈り物が必要だ」


 藪から棒に陛下が切り出す。


「どなたへのプレゼントですか」

「リュウメイ殿とキオン殿への結婚祝いだよ」


 そうか、結婚式に手ぶらで行くわけにはいかないな。

だけどここは異国の地である。

いきなりお祝いを仕入れるなんてことはできない。

しかも相手は王族だ。

簡単に手に入るものを、ポンと渡しては失礼になってしまうかもしれないもんね。


「う~ん……、そうだ!」

「なにかいい案があるか?」

「イカルガを召喚しましょう。あそこの売店には異国の高級ブランドが出す商品も多数あります」


 世界で一つの一点物もあるから、きっと喜んでもらえるだろう。


「なるほど、それはいい考えだ。それではさっそく頼む」


 午後になったら海に出てイカルガを召喚することにした。


「陛下、レニー君、ちょっとよろしいですか?」

「どうしました、シエラさん?」

「港でイカルガを呼び出すとなると、きっと人々が大騒ぎをするだろう。先にランジャ王国側と話をつけておいた方がいいだろう」


 海から入港するならいざ知らず、いきなり召喚したら驚かれるよね。


「わかりました。キオンさんに相談してみます。それから――」


 僕は陛下に向き直り気になっていたことを相談した。


「陛下はランジャ王国の皇太子殿下のことはお聞きになりましたか?」

「うむ、リュウメイ殿に聞いた。お加減が悪いようだな」

「できましたらお力になってあげたいのですが」


 そう言うとアルシオ陛下も笑顔になる。


「そうか。私もレニーに相談してみようと思っていたのだ。リュウメイ殿には、私から特殊医務室のことを説明してみよう」

「よろしくお願いします。あっ、いっそ、リュウメイさんをイカルガにご招待してはいかがですか?」

「ふむ、それはいいな。さっそく聞いてみるよ」


 ご馳走にばかりなっているので、お昼ご飯をイカルガで食べてもらうのもいいかもしれない。

ミーナさんはいないけど、セーラー2が作る総料理長ミーナ・ウルト監修料理だってほっぺたが落ちそうなほど美味しいのだ。

リュウメイさんもきっと喜んでくれるだろう。

港の使用許可を取るためにキオンさんのところへ急いだ。




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