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歓迎の宴


 その晩、王宮の広間では僕たちを歓迎する宴が催された。

細いテーブルが長く真っ直ぐに伸び、様々な料理を盛った金属のお皿がぎっしりと並べられている。

肉料理や魚料理を見たところ、ファンローの料理ともコンスタンティプルの料理とも違う。

全体的に香辛料を多用したスパイシーな味付けのようだ。


 嗅いだこともない香辛料の匂いもするぞ。

これらのスパイスを仕入れられたらルネルナさんが喜ぶかな? 

明日になったら市場にでも行ってスパイスを扱う商人を探してみよう。


(ミーナさんがいたら喜んだだろうなあ……)


 並べられた料理を見ているうちに、ミーナさんの顔を思い出した。

出発してまだ数日なのに、優しいミーナさんがもう懐かしくなっている。


「アルシオ陛下、カガミ伯爵、どうぞこちらへ!」


 ランジャ国王に呼ばれて上座へ着いた。


 給仕の人たちが出席者の盃にお酒を注ぎ終わると、ランジャ国王は杯を掲げておもむろに立ち上がった。

臣下や僕たちもそれにつられて立ち上がる。


「本日、我が国は新たなる友を得た。遥か西方のロックナ王国である。貴国と知り合えたことを嬉しく思いますぞ」


 ランジャ王があいさつし、アルシオ陛下も返礼をして、一同はお酒を飲み干した。

今日は僕もちょっぴりお相伴だ。


「あ、これはお米のお酒だ」


 一口飲んですぐに分かった。

じいちゃんが莫大な費用をかけて作らせた異世界の日本酒に似た味がしたからだ。


「よくお分かりになりましたね。カガミ伯爵はお酒がお好きですの?」


 アルシオ陛下の隣に座ったリュウメイさんが話しかけてくる。


「たくさんは飲めませんよ。ただ、これに似たお酒を飲んだことがあるだけです」


 目を細めてお酒を飲むじいちゃんの姿が瞼の裏に思い浮かんだ。


 しばらくすると、年が近いせいかアルシオ陛下とリュウメイさんはすっかり打ち解けていた。

身分的にも近しいものがあるから、お互いの苦労を共感できるのだろう。


「なんと、リュウメイ殿はキオン・ルー殿との婚約が決まっているのですか」

「ええ、式は五日後なのですの。アルシオ陛下とカガミ伯爵もぜひ出席してくださいね」


 リュウメイさんは恥ずかしそうに頬を染める。

キオンさんと言えば港で出会ったイケメンの警備隊長だ。

美人のリュウメイさんと並べばさぞや絵になることだろう。

でも、義理の父親になるルー大臣は意地悪そうな人だよな……。


「私たちは幼馴染なのですが、縁あって結ばれることになりました」

「その様子では、ずっとキオン殿のことが好きだったようですな」


 アルシオ陛下の言葉にリュウメイさんは首まで真っ赤になり、袖で顔を隠してしまった。


 アルシオ陛下は僕の方を横目で見ながらぼそりとつぶやく。


「好いた男と添い遂げるか……。うらやましいのぉ、カガミ伯爵」


 な、なんなんですか。

僕はまだ十三歳の少年ですよ。


「アルシオ陛下はご結婚をされていますの?」


 その話題はあまりしたくないんだけど、リュウメイさんが訊いてくる。


「まだです。心に決めた殿方はいるのですが、なかなか難しくて」

「まあ、陛下のように素敵な方をお待たせしているのですか?」

「なんというか、待っているのは私なのです。あと三年もすれば熟成もすすんで……」


 人をお酒みたいに言わないでほしい。


「三年とはずいぶんと気の長い話ですね」


 リュウメイさんは心配そうな顔をしたけど、アルシオ陛下はニコニコと笑った。


「いやいや、それはそれで楽しみでもあるのです」


 アルシオ陛下はいつも人に気を遣うのに、恋愛に関しては天真爛漫なところがあって僕をびっくりさせる。

もちろん僕だってアルシオ陛下のことは好きだ。

好きだけど、やっぱり今は結婚なんて考えられないんだよね。


 宴会は夜遅くまで続き、僕らはランジャの王宮の一室に宿泊した。



 僕とシエラさんで陛下をお城の寝室まで送り届けた。


「大丈夫ですか、陛下? お水を貰ってきましょうか?」

「大事ない。おっと……」


 廊下を歩いていたときはしゃんとしていた陛下だったけど、部屋に入ったとたんにしがみついてきた。

お酒を飲んで足元がふらつくようだ。

外では人の目があるから姿勢を正していたけど、自分の部屋に戻ってきて気が緩んでしまったのだろう。


「少し飲み過ぎてしまったようだ」


 陛下はとろんとした目つきで僕を見つめる。


「リュウメイさんとお話が盛り上がっていましたもんね」

「うむ、彼女とは気が合うのだ。話していて楽しかった」


 陛下がこんな風に酔ってしまうのを見るのは初めてのことだ。

きっと楽しかったんだろうな……。


 ベッパーでは政務の連続で常に緊張を強いられる。

旅に出て心が軽くなった証拠だろう。

それだけでも別行動でお連れした甲斐があるというものだ。

アルシオ陛下のお心を開放できてよかった。


「レニー、ドレスを脱ぐから背中のボタンを外しておくれ」


 それはいろんな意味で開放し過ぎ!


「シエラさん、あとはお任せします。陛下のお着換えを手伝ってあげてください」

「心得た! ここは私に任せて、君は先に行け!」


 なんで戦地にいるみたいな表現を?

でも、今の僕にとっては心強い言葉だ。

なおもしなだれかかってくるアルシオ陛下をシエラさんにあずけ、僕は逃げるように退出した。


 ドアを閉める手前で二人の会話が耳に入ってくる。


「ずるいですよ、陛下。私も護衛じゃなかったら酔ってレニー君に……」

「よくいうわ。もう少しのところだったのに邪魔をしおって」


 やれやれ。

僕はため息をつきながら用意された自分の部屋へ戻った。



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