戦闘スタイル
まずリミックの郊外へ向かった。
ここに街を脱出しようとしている避難民がいたからだ。
避難民のすぐ後ろには魔物の群れが迫っていて、予断を許さない状況にある。
出力を落とした魔導ビームと大剣で敵を薙ぎ払いながら、避難民のすぐ後ろに追いつくことができた。
「僕はロックナ王国のレニー・カガミと申します。リミックの港は必ず守りますのでご安心を。皆さんの護衛としてゴーレムを召喚しますので、落ち着いて行動してくださいね」
マジックライフルを装備したセーラー3を500体召喚した。
「住民の皆さんを護衛してね」
「ビッ!」
セーラー3は一斉に敬礼してくる。
これだけいれば魔物の追撃があっても撃退できるだろう。
「僕は港の魔物を排除してきます。この近くに魔物はもういませんが、皆さんは念のためにもう少し港から離れて下さい」
それだけ言い置いて、僕はゲンブを旋回させた。
最高速度でゲンブを走らせていると、港の方から戦闘音が響いてきた。
「地理情報」で確認したら、魔物の数はだいぶ減っている。
シエラさんとアルシオ陛下が頑張ってくれたのだろう。
ミサイルランチャーやマジックイコライザーは撃ち尽くしたようで、シエラさんはファイヤージャベリンで近接戦闘に移行しているようだ。
空戦型のスザクは陸戦型のゲンブほど接近戦には向いていない。
攻撃の出力が違うのだ。
でも、シエラさんは武勇の誉れ高い騎士だし、スザクの性能もそう悪くはないのだ。
ゲンブと比べたら地上戦が苦手というくらいのものである。
だから僕は大した心配はしていなかった。
ところが、戦場に到着した僕は我が目を疑う光景に出くわす。
なんと、あのシエラさんが敵との一騎打ちで押されていたのだ。
「ふはははははっ! お前、人間にしてはやるではないか。さぞや美味い肉なんだろうな」
「黙れっ!」
「おうおう、活きがいいな。四肢をもいで新鮮なうちに食うとするか」
「くっ!」
蛇のような魔族の槍がスザクの装甲をかすめていく。
穂先が見えなくなるほどの高速の連撃で、シエラさんでもよけきれないようだ。
信じられない、あのシエラさんがいいように弄ばれるだなんて。
もうこれ以上は黙って見ていられないぞ。
「シエラさん、下がってください!」
僕はシエラさんと魔族の間に割って入った。
「レニー君! 騎士が一騎打ちで引き下がるわけにはいかない。そこをどいてくれ」
「敵はまだ2000以上いるのです。今は揚陸艦へ補給に戻ってください」
ずっと戦闘を続けてきたスザクは魔力の消耗が激しい。
「だが!」
「僕らが同時に行動不能に陥る事態は避けなければなりません。たとえ騎士の名誉に反することであっても、言うことを聞いて下さい!」
僕は毅然とした態度で退かなかった。
だって、シエラさんを失うなんてことだけは避けたかったから。
「一人で大丈夫なのか?」
「問題ありません」
敵の戦闘力はなんとなく理解できた。
ガイドロス島の戦闘を経て、僕のレベルは格段に上がっているのだ。
今では師匠たるシエラさんよりも動きは速い。
そのことはシエラさんも知っている。
今の僕なら倒せなくはないはずだ。
「わかった、レニー君に任せよう……(最近のレニー君はかわいいだけじゃなくて凛々しい。尊くて死にそう……)」
シエラさんは予想に反してあっさりと戦闘から離脱した。
スザクを飛行形態に戻して揚陸艦の方へ去ってしまう。
怒っているのかな?
たとえそうであっても僕の判断は間違っていないはずだ。
僕は改めて蛇の魔族に向き合った。
「ふーん、今度は小僧が俺の相手をするというのか?」
魔族はバカにしたように僕を見ている。
油断しているとどういう目に合うか思い知らせてやる。
僕はゲンブの大剣を一気に振り下ろした。
「おおっ⁉」
剣を槍で受け止めた魔族が金色の目を見開いて驚く。
「ほお、先程の騎士以上の腕前か。面白い、お前の肉の方が美味そうだ!」
「食べられてたまるか」
僕は横薙ぎに剣を払い、連撃を続ける。
「くくくっ、お前も活きが良くて結構だ!」
魔族は余裕を見せながら僕の攻撃を捌いていく。
これほどの強敵は初めてだ。
ガイドロス島でだって、ここまで手ごわい奴とは出会わなかった。
「お前は何者だ? ロックナ方面司令官のブリエルという魔族と闘ったことがあるけど、ここまでの腕じゃなかったぞ」
「ブリエルだと? あんな小物と一緒にするな。俺は魔王近衛軍の将軍、蛇鬼王ヤクルスだ。だが、小僧、小物とはいえブリエルは魔族の将。それと闘って生き延びているとは運がいい。いや、運がいいのはブリエルの方か。この腕ならブリエルなどひとたまりもないだろうからな」
近衛軍にはこんなに強い魔族がいるのか……。
しかしこのままでは埒が明かないぞ。
これまでは一撃必殺を優先してきたけど、今からは僕本来の戦い方に戻した方がよさそうだ。
そう考えて大剣を鞘に戻した。
「どうした、もう俺に恐れをなしたか? まあ、勝てないという判断は間違っていない。賢明であるともいえるぞ」
ヤクルスはバカにしてきたけど、僕は戦闘をあきらめたわけじゃない。
「違うよ。自分の得意な戦闘スタイルに切り替えるだけさ」
メインウェポンを形見のナイフに持ち替えた。
そこから戦闘スタイルをダガピアに切り替えて、ナイフ、蹴り、当て身、投げ、すべての技を駆使して攻撃した。
「なっ?」
連撃のスピードが上がりヤクルスはほんろうされているようだ。
ナイフの攻撃は受け止めるけど、蹴りや当て身が徐々に決まり始める。
魔導アシスト外骨格でパワーを補強された攻撃に、ヤクルスの体が軋んだ。
「クソッ! 者ども、こいつを取り囲んで殺せ!」
いよいよ余裕がなくなってきたな。
それまでの態度が嘘のようにヤクルスは焦りを見せている。
一方で、僕の方は戦闘が進むごとに精神が深く落ち着いていくようだ。
最小の動きで敵の攻撃を躱し、敵の懐に潜ってオリハルコンのナイフを振るう。
無駄な動きを極限まで省き、敵の死角から攻撃を出す。
その繰り返しで1秒ごとに敵が減っていく。
そこへ魔石を補充したシエラさんがスザクで戻ってきた。
「おのれ小僧ぉ!」
怨嗟の声をはきながら撤退しようとしたヤクルスの後を追った。
このような強敵は討てるべき時に討つべきなのだ。
「逃がさないよ」
「舐めるなぁっ!」
繰り出された蛇矛がゲンブの機体をこすり、キィーっと嫌な音を立てた。
だけど槍が引き戻される前に僕の体はヤクルスの懐の中に飛び込んでいる。
踏み込みの勢いを殺すことなく、素直にナイフを振り上げると、ヤクルスの首がポトリと落ちた。
(レベルが上がりました)
これでレベルも32か。
今すぐステータスを確認したかったけど、戦闘はまだ続いている。
一息付けるのはもう少し先になりそうだった。
11月10日に『勇者の孫の旅先チート』3巻がカドカワブックスより発売されます。
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