リミック港
僕らは一日に500キロメートルくらいずつ進み、五日かけてカルカテ王国の沿岸までやってきた。
「風も穏やかですから、昼前にはリミック港に入港できそうですね」
僕は操船をしながら、アルシオ陛下とシエラさんに声をかける。
なるべくそちらを見ないようにして……。
「それは良かった。ならば少し休憩にしないか? レニーもこちらへ来て休め」
「そうだぞ、レニー君。根を詰めると体に毒だ」
「け、結構です。お昼ご飯はリミックの名物を食べたいので、もう少し頑張ります!」
お姉さんたちは僕にこちらへ来いというけれど、行けるわけがない。
だって、お二人とも水着を着て日光浴をしているんだもん……。
クルーザーの最上階には日の光がさんさんと降り注いでいる。
アルシオ陛下もシエラさんもサンオイルを塗って気持ちよさそうにデッキチェアでくつろいでいるのだ。
特に陛下の黒いビキニは大胆過ぎて、目のやり場に困ってしまう。
シエラさんの白いワンピースだって眩しすぎるのだ。
根を詰めると体に毒?
それを言うなら、お二人の水着姿が目に毒という方がこの場合は正しいと思う。
旅も五日目に入り、陛下もだいぶリラックスされたのはいいことだ。
だけど、他の人の目がないからと言って、ちょっと大胆になりすぎてはいないか?
さっきだって背中にサンオイルを塗るように頼まれたんだよ。
女の人にあんなにたくさん触れたのは初めてかもしれない。
僕だって男の子だ。
お二人のようなステキな女性にサンオイルを塗れば、ドキドキしてしまうのは仕方がないよ……。
なんとなくだけど、アルシオ陛下はそんな僕の反応を楽しんでいる節もある。
シエラさんがいなかったらもっと大変なことになっていたかもしれない。
「あと一時間くらいでリミックに到着しますよ。そろそろシャワーを浴びてきてくださいね」
「もうそんな時間か。旅に出てからは瞬く間に時間が過ぎていくな」
「楽しい時間ってあっという間なんですよね」
僕らの旅券にはロックナ国の伯爵と女王といった具合に身分が明記されている。
お忍びだからと、水着で入港するわけにはいかないのだ。
お二人がさっぱりとした服に着替えてくると、水平線の向こうに港町が見えてきた。
おそらくあれがリミックだ。
ロックナではセーラーウィングを使って大陸の詳細な地図を作っている。
僕の「地理情報」や地図と照らし合わせてみても、間違いはなさそうだ。
だけどなんだろう……、目の前に見える港に暗い影が差している気がする。
「レニー君……」
シエラさんも異常を感じ取ったようで、低い声で注意を促してきた。
冷静に観察すると、港のあちらこちらから白い煙が幾筋も空に立ち上っている。
あれは生活の煙ではなく戦闘の煙だ。
「リミック港が魔物の襲撃を受けています。……かなり大規模な攻勢です」
「うむ、急いで救援に向かおう」
シエラさんはすでに戦闘モードだ。
「救援に向かうのは当然として、どのようにする?」
アルシオ陛下の問いに、僕は即答した。
「戦力の逐次投入はしません。持てる最大戦力でことにあたります。そうですよね、シエラさん?」
「うむ(愛すべき弟子と書いて愛弟子と読む! ああ、かわいい……)」
シエラさんは瞳を潤ませていた。
僕が即断できたから、喜んでくれているのかな?
◇
リミック港を襲撃した魔王軍の数は3000を超えていた。
率いるのは魔王直属の将軍が一人、蛇鬼王ヤクルスである。
魔王は突如連絡の途絶えたガイドロス基地の様子を探らせるため、腕利きである蛇鬼王を派遣していたのだ。
「ふん、このような小さな町など半日で平定しろ。脆弱な人間どもの弱い頭に、改めて我々の強さを刻み込んでやるのだっ!」
ヤクルスは先ほど自分が殺した騎士のモモ肉を飲み込みながら部下に命令を下す。
身の丈は2メートルを優に超え、首から上は蛇であり、長い舌がチロチロと伸びている。
蛇矛という刃先が蛇のように曲がった槍を携えていた。
ヤクルスはこの武器で、もう十人のリミック騎士を惨殺している。
硬いフルプレートアーマーを切り裂く蛇矛を止められる人間はどこにもいない。
近距離で戦っても勝てないと判断したリミック騎士たちは遠距離魔法で敵の将軍を討ち取ろうと考えた。
「あそこだ! あの蛇顔の魔族に魔法を集中しろ!」
十数人の騎士による魔法攻撃が展開されたが、ヤクルスに焦りの色はみじんもなかった。
「ふん!」
一息に距離を詰めると、ヤクルスは曲がりくねった槍を左右に振るう。
それだけで四人の騎士の首が青空に舞った。
「攻撃魔法を受け止めてやってもよかったのだが、服が汚れるからな」
怯える騎士たちを見下ろしながら、ヤクルスの長い舌がチロチロと出し入れされる。
「お前、美味そうだな……」
ヤクルスを前にした騎士は、まさに蛇に睨まれた蛙といった態で、身動き一つとることもできなかった。
◇
セーラー3を500体配置した強襲揚陸艦を召喚した。
艦長代理をアルシオ陛下に任せ、僕とシエラさんはそれぞれゲンブとスザクに乗り込む。
「街に被害を出したくないので射線には気をつけてください。三連魔導砲を陸の敵に使うのだけはやめてくださいね。リミックが跡かたなく消えてしまうかもしれませんから」
「心得ておる。私をシエラと一緒にするな」
うん、その意味でも強襲揚陸艦はアルシオ陛下に任せた方が安心だ。
それに、やっぱり前線で活躍できるのはシエラさんである。
「シエラさんは港で戦う人たちの救援をお願いします。僕は街を脱出する人たちに500体のセーラー3を護衛につけてから合流しますので」
「心得た」
軽い打ち合わせをして、僕らはすぐに行動を開始した。
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