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勇者の孫の旅先チート 〜最強の船に乗って商売したら千の伝説ができました〜  作者: 長野文三郎


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セーラー3


 執務室で書類仕事をしていたら、珍しくノームの女王がやってきた。


「失礼します。本日は少々お願い事があって参りました」

「どうぞお入りください。すぐにお茶をお持ちしますね」


 ノームの好物であるお菓子を持ってくるように頼んでから女王に向き合った。

改まって何の用だろう? 

今の待遇に不満でもあるのかな? 


 雑談をしている間に茶菓ちゃかの用意が整うと、僕の方から用件を訊ねてみた。


「お願いとはいったい何でしょう? 皆さんには大変お世話になっておりますので、なるべくご希望に添えるよう努力しますよ」


 魔導エンジン工場はノームたちの協力なしでは稼働しないのが現状だ。

全員の技術力も上がってきていて、最近では生産スピードの上昇も著しい。

魔導錬成の知識も豊富で、開発チームに入るほど優秀なノームもたくさんいる。

給料のベースアップの話などでも、可能な限り報いたい。

ノームが他所の地に行ってしまうことだけは何としてでも避けなければならないのだ。


「実は……」


 女王は言いにくそうに言い淀む。


「遠慮なさらずに言ってください。みなさんには本当に感謝しているのです」

「そう言っていただけると私も話しやすいです。無理なら断っていただいて構いませんので……」


 女王はまだしばらく遠慮していたが、紅茶を一口飲んでから、意を決したように話し始めた。


「実は、妹から手紙が来ました」

「妹さんがいるのですね……」


 精霊にも親兄弟はあるらしい。


「妹は別の島で女王の位にあるのですが、私が近況を知らせると返事を寄こしたのです」

「何か困ったことでも起きたのですか?」

「いえ。ただ、たいへん私たちのことを羨ましがっておりまして……、妹たちもベッパーに移住したいと書いてきたのです」


 肩の力が一気に抜けてしまった。


「そ、そういうことでしたか」

「ベッパーではワインをたっぷりいただいてますし、仕事は面白いでしょう? それに休憩時間のおやつが美味しくて、美味しくて。お給料もいいので、つい妹に自慢してしまったのです。そうしましたら姉上ばかりずるいと……」

「はあ」

「でも、住む場所や食料のこともありますでしょう? その上、妹たちも工場で働きたいなどという無茶を言ってきまして……」

「何とかします! 私たちとしては工場で働いてくれる人がいるのは大変ありがたいのです」

「まあ……、本当ですか?」


 女王はびっくりしたような顔をしている。


「住居は関係部署と話し合ってすぐに用意させますね。それからワインとキノコの輸入量を増やします」


 どちらもノームの大好物なのだ。


「よろしいのですか?」

「とうぜんです。今年はブドウ畑の開発もする予定だったんですよ。ベッパー産のワインが作れれば皆さんにも喜んでいただけると思ったので」

「そこまで私たちのことを……」

「ところで、移住希望の人は何人くらいいらっしゃるのですか?」

「おおよそ1000人くらいです」


 すごい。

錬成の得意な職人が一気に1000人も増えるんだ。


 各種待遇を取り決めると、ノームの女王は感激して帰っていった。


       ◇


 ロックナ解放計画は順調に進んでいた。

ノームの人口が2000人に及んだので、魔導エンジン工場はさらに拡張されている。

フィオナさんが大型魔導エンジンの開発に乗り出したくらいだ。

シャングリラ号のように大型の船を動かすためのエンジンである。

まずは帆船とエンジンのハイブリッド型を作るそうだ。


 ガイドロス島を攻略したおかげで慢性的な魔石不足も解消された。

大量の魔石をローエンと山分けしたので、向こう一年くらいは魔石に困ることはないだろう。

今後は輸入量を調節して値段を下げつつ、備蓄に励むことにする。


 このようにいろいろなことが上手くいっているのだけど、足りないものもある。

それは兵士の数だ。

いくらシャングリラ号が無敵の船でも、運用する人間がいなければ性能を活かしきれない。

ところが、僕のレベルが30に上がることによって、その問題が少しだけ解消されることとなった。


職業 船長(Lv.30)

MP 463321

所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「言語理解」「二重召喚」「伝導の儀式」「三重召喚」「潜水能力」「釣り」


■新スキルを取得 「四重召喚」

■新ゴーレムを取得 戦闘型ゴーレム セーラー3×1000


 四重召喚は素直にうれしい。

これからもそれぞれの船を多用すると思うから、このスキルは本当にありがたいのだ。


 そして、問題は新しいセーラーシリーズだ。

試しに一体だけ召喚してみた。


「ビッ!」


 かっちりとしたモスグリーンの軍服を着たゴーレムが僕に敬礼をした。

セーラー2(*セーラーSとして登場しましたが、セーラー2と呼称を変更します)のように話すことはできないけど、こちらの命令は理解して行動できる。


 人型であることは一緒だけど、体つきもセーラー2よりだいぶ大きく、身長は180センチを超えている。

身体能力は並みの歩兵よりは高いけど、強化魔法を使った騎士ほどではないといった感じだ。

武器としてマジックライフルとサバイバルナイフを携行している。


 このマジックライフルというのは突撃銃アサルトライフルと呼ばれるタイプで、魔力のフルチャージで40発の魔弾を連射できる。

機銃には遠く及ばないけど威力も高く、魔物相手でもじゅうぶんな戦闘力となりそうだ。


 空き地でマジックライフルの試射をさせているとシエラさんが寄ってきた。


「いいなぁ……、いいなぁ……」


 なんだかため息をつきながら、物欲しげな顔つきでこちらを見ているぞ……。


「シエラさんの攻撃魔法の方が威力は上じゃないですか」

「そういうことではないのだよ……」


 基本的に飛び道具に目がないのかもしれない。

大切なお師匠様だからライフルを渡してあげたいのだけど、そうもいかない事情があるのだ。


「ライフルはセーラー3の装備だから外せないんですよ。セーラー3の体から離れると自動送還されてしまうんです」

「そうなのか……」


 涙ぐまなくてもいいだろうに。


 マジックライフルの銃弾で標的の板がボロボロに崩れた。

これが1000体いればかなりの戦力になるな。

セーラー3はシャングリラ号の設備や武装についての知識もある。

運用するには大量の魔石が必用だけど、これで人員不足も少しは補えそうだった。



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