この船は道を作る?
ガイドロス島はファンロー軍の制圧下に置かれた。
魔物を産みだしていた装置も完全に破壊しつくし、残っているのはコンピューターと呼ばれる小さな箱だけだ。
壊すのはフィオナさんに見てもらってからでもよかったかな、なんてチラッと考えたけど、やっぱりこれでいいのだと思う。
ここの機械は人に御せるような代物じゃないんだ。
少なくとも今の人類には無理だろう。
「コンピューターはレニーが持っていてくれ。万が一ということがあるから」
「万が一って?」
「皇帝陛下に存在を知られたくない」
ファンロー皇帝は野心家だから、古代の技術を復活させたくなるに違いないとローエンは言っていた。
「わかった。これは輸送艦の金庫にしまって、誰にも触らせないようにするよ」
「ああ、頼む」
これでガイドロスのことは一段落だな。
そういえばお姉さんたちに何の相談もしないでファンローからここまで飛んできてしまった。
今頃、みんな心配しているかもしれない……。
「そろそろ僕は戻るよ」
そう告げるとローエンは僕をガッチリとハグしてきた。
「本当に助かった。レニーに命を救われるのはこれで二度目だな……」
「気にしないでよ、僕たちは義兄弟なんだから!」
「ああ、そうだったな……。俺もレニーのためならこの命だってくれてやれる」
体を離したローエンが僕の顔を真っ直ぐに見つめてくる。
その視線は鋭く、僕は少しだけ焦った。
「どうしたの?」
「レニー……、ロックナ王国へ戻ったら、しばらくファンロー帝国には来るな」
「どうしてさ?」
「ファンローは内戦になるかもしれない」
内戦?
ファンローは新しい皇帝が即位したばかりだ。
つまりそれは……。
「もしかして、ローエンは……」
「ああ、俺がコー兄上を、いや、皇帝陛下を弑したてまつる」
弑逆って、つまり君主を殺すってこと!?
「でも! どうして?」
「このままでは俺は暗殺される。今回のガイドロス島攻略だって、俺を陥れるための罠さ。だったらやられる前にやるしかない。(それに、陛下はレニーを害すと脅しをかけてきた。そのことだけは何があっても許さない)」
「だったら僕もてつだ――」
「ダメだ!」
「なんでだよ!? シャングリラ号や魔導モービルを使えばいくらでも」
「ダメなんだ! 人同士の争いにレニーを巻き込みたくない。皇帝弑逆の汚名をレニーに着せたくないんだ」
「僕はそんなこと気にしない!」
「いいやダメだ。お前は歴史に名を残す。レニー・カガミ、その名は綺麗なままであってほしい。他でもない、この俺がそう望んでいる。今回ばかりは引いてくれ」
「ローエン……」
ローエンは頑固だ。
一度言い出したら絶対に聞きはしない。
「わかったよ。でも約束して、必ずまた会えるって」
「もちろんだ! 俺は皇太子だったリーアン兄上を助け出して皇帝に据える。それで俺も晴れて自由の身だ」
ローエンは普段通り快活に笑った。
その笑顔は自信に満ち溢れて、いつものように安心感を与えてくれる。
「……わかった。ローエンの言うとおりにするよ」
きっとローエンなら大丈夫だ、そう信じることができた。
ガイドロス島攻略では大量の魔物を討ち取ったので、島のいたるところに魔石が落ちていた。
僕とローエンはそれを半分に分けることにした。
これだけあれば慢性的な魔石不足が解消されるはずだ。
「しかし、どうやって持ち帰る? レニーが今召喚できる船は装甲兵員輸送船だけだろう?」
あれでは100分の1だって積み込めない。
「大丈夫、またレベルが上がって新しい船を召喚できるようになったんだ」
「また新しい船が?」
ガイドロスが完全に沈黙した時点で、どういうわけかいきなりレベルが上がってしまったのだ。
「たぶん、今度のもとんでもないと思う……」
まだステータス画面でしか見ていないけど、これはかなりヤバい代物だというのだけはわかる。
職業 船長(Lv.29)
MP 2906079
所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「二重召喚」「伝導の儀式」「三重召喚」
「潜水能力」「釣り」
新所有船舶
■水陸両用強襲巡洋艦《すいりくりょうようきょうしゅうじゅんようかん》
基底部に幅、直径ともに50mにも及ぶ車輪が二つ付いた巡洋艦。
陸上での運用を前提とした艦だが、水上での運用も可能。水上に出る場合は車輪が四つに分割展開されて、船の両側に付く。
動力源として魔導融合炉を利用する。
全長186m 全幅51m
陸上移動 最高速度 時速60キロ
水上移動 最高速度 時速47キロ
武装:三連魔導砲×2(前後) 二連装魔導キャノン×6(左右に3ずつ)
艦載機:イワクス2
イカルガには及ばないけど、輸送艦よりは少しだけ大きい。
これが地上を走るの!?
幅が50m以上ある道路なんて見たことがないんだけど、大丈夫かな?
あ、こいつが通った後が道になってしまうのか……。
整地作業とかには便利そうだけど、環境破壊も甚だしいな。
陸上を走らせると魔力消費量も他の船に比べて目が飛び出るほど大きい。
でも使い勝手がよくないなりに、戦闘のときは役に立ちそうだ。
何といっても、ずっと欲しかった三連魔導砲が装備されているからね。
それに、シエラさんとフィオナさんなら絶対に喜ぶと思う。
戦場跡となった広い場所に強襲揚陸艦を召喚すると、島を沈黙が支配した。
耳に聞こえるのは強い海風の音だけだ。
みんながポカンと目の前に現れた巨大な船を見上げている。
その姿は船でもあり二輪車のようでもある。
「えーと、後部ハッチに荷物の搬入口があるんだ。そこから魔石を積むのを手伝ってくれないかな」
「あ、ああ……」
ローエンがカクカクと首を振っている。
みんな驚いているみたいだね。うん、僕だって驚いている。
「レニー……」
「なんだい?」
「ちょっとだけ運転させてくれないか?」
ローエンのこういうところが大好きだ。
「もちろんさ!」
ロックナに帰るのを少しだけ遅らせて、強襲巡洋艦を動かした。
すごいなあ、こいつが通った後は整地したみたいにぺしゃんこになるぞ。
もちろん三連魔導砲も試したよ。
予想通り地形が変わってしまいました……。
こんなのをシエラさんに見せたら大変なことになってしまうと思う。
シエラさんに撃たせてあげるときは、事前に治癒魔法加速カプセルの用意をしてからじゃないとダメだと思った。




