初代魔王
三体の魔導モービルによる波状攻撃で魔物の軍勢は徐々にその勢力を弱めていった。
今では陸上部隊は全員上陸して魔物の掃討に当たっている。
デザインアニマルを作り出す機械は僕が再侵入して適当に線を切ってしまったから、魔族側の増援はない。勝敗はもう決したと言っていいだろう。
敵の本拠地に忍び込むには新しい魔導モービルが役に立った。
そう、今回の戦闘で僕はまた船長のレベルが上がったのだ。
職業 船長(Lv.28)
MP 2906079
所有スキル「気象予測」「ダガピア」「地理情報」「二重召喚」「伝導の儀式」「三重召喚」
「潜水能力」「釣り」
■新型魔導モービル
偵察型魔導モービル ビャッコ
駆動装置
変形機構を持ち、二足歩行、ローラー、飛行の三種類の移動が選べる。
いずれも隠密行動を可能にするため、静穏性に優れている。
最高時速:396㎞(飛行時) 209㎞(ローラー) 127㎞(歩行)
攻撃系装備
〇サイレンサー付き魔導ピストル:魔力を魔弾として撃ちこむことができる。
強化系
〇魔導アシスト外骨格:外骨格の補助作用で動きの一つ一つがパワーアップする。
特殊系
〇光魔法を応用したステルス装置により、機体が周囲の景色に溶け込む
〇特殊暗視機能により、明かりがなくても周囲の景色が認識可能
〇撹乱ショックウェーブの放射により、敵の五感に干渉し、自分の位置を悟らせない
四体目の魔導モービルは潜入特化型の機体だった。
色は白地に黒のトラ模様。
本で読んだことのあるホワイトタイガーみたいなカラーリングだ。
ステルスモードを起動すると周りの風景に溶け込んでしまう。
動いてもまったく起動音が響かないのがすごかった。
大きさは他の三つよりもずっと小さくて華奢なつくりをしている。
でも小さい分だけ取り回しは楽で、小回りが利く。
それに近接戦闘の格闘戦がとてもやりやすいのだ。
僕の得意なダガピアとも相性がいい。
搭載武器が魔導ピストルしかないけど、じいちゃんの形見のナイフを持っていれば戦闘は楽にこなせそうだ。
魔力消費も少なくて、魔石を満タンにしてやると、駆動時間は驚きの2時間50分だった。
ちょうどいいサイズっていうのかな。
普段使い? にぴったりな魔導モービルだった。
僕とローエンは魔物のいなくなった本拠地を調査した。
ローエンは地下にあった巨大な機械群をみて言葉を失っている。
「古代人はこんなものを作る技術を持っていたんだね」
「ああ……」
部屋には資料らしきものは特に見当たらなかった。
何千年も昔のことなので紙の資料はとっくに消失しているのだろう。
だけど機械に残された情報からいろいろなことが判明した。
ちなみに機械には自己修復機能がついていて、劣化しても自ら修理できるようだ。
「情報によるとデザインアニマルっていうのは古代人にとっての家畜みたいなものだったみたい」
「魔物が牛や馬みたいなものだったってことか?」
ローエンはモニターを睨みながら僕に質問してくる。
「古代人はいろいろな動物を自分たちが使役しやすいように改造していたようだね。ただ、もともとはこんな攻撃性は持っていなかったんだと思う」
「それはそうだな。すぐに襲ってくる魔物を使役するなんて無理な話だ。だが、だったらどうして今のような魔物を生み出すようになったんだ?」
僕はデザインアニマルの特性を決めるパラメーター画面をモニターに出した。
「見て、これがデザインアニマルの特性を決める数値だよ。ほら、攻撃性や腕力がやたらと高くなっているのがわかるでしょう?」
パラメーターはグラフ化されるので頭のいいローエンなら文字が読めなくても理解できる。
「家畜として飼うには不向きな数値というわけだ」
「そう、もともとはみんなもっと穏やかな性格をしていたんだよ。だけど、これを意図的にいじった者がいたんだ」
「いったい誰が?」
僕は暗い気持ちになって言葉を切った……。
「どうしたんだ?」
「魔族」
「魔族が?」
「実は魔族ももともとはデザインヒューマンと呼ばれる存在で、古代人が作り出した人造奴隷だったみたい……」
「なんだと……」
僕もローエンも古代文明には憧れのような気持ちを持っていたから、かなり複雑な気持ちになっている。
「最初はね、デザインヒューマンも感情なんてほとんどなく、知能も低かったみたい。だけど、そこに突然変異体が現れたんだ」
「賢いデザインヒューマンの誕生か?」
「うん、魔族はそれを初代魔王と呼んでいる……」
初代魔王は古代人に反旗を翻すべくデザインアニマルやデザインヒューマンのパラメーターをいじり、大量の魔物と魔族を誕生させた。
そしてそれは古代文明が滅びてしまう原因になったのだ。
「なるほどな……、そのときの機械が今も連綿と魔族と魔物を生み出しているというわけか」
「うん、この機械がある限り、戦いは永遠に終わらない……」
「だな……。このことが知られれば世界中が驚くだろう。そして、一つ言えることがある」
「それはなに?」
「この機械を使って古代人のようにデザインアニマルやデザインヒューマンを作り出し、社会生活に役立てようって輩だ。俺の兄上ならきっとそう言うさ」
ファンロー帝国皇帝コー陛下か……。
「でもそれはとても危険なことだよ。高度な魔導科学を持っていた古代文明でさえも滅んでしまったんだから」
「わかっているさ。だから俺たちはこの事実を誰にも知らせずに、こいつをぶっ壊してしまおう」
ローエンはピタピタと機械を叩きながらニヤリと笑った。
「ぶっ壊すの?」
「ああ、必要な情報を書き写したらな」
「それなら問題ない。この箱はコンピューターと呼ばれるものらしいけど、これらの機械から切り離せるんだ。これさえあれば情報はいつでも引き出せるから、他の機械は壊しても大丈夫」
「だったらゲンブをかしてくれよ」
「ローエンが使うの?」
「思いっきり暴れたい気分なんだ」
ローエンも色々とストレスが溜っているのかもしれない。
機会を作って治癒魔法加速カプセルに入れてリフレッシュさせてあげるとしよう。
「じゃあ、僕はセイリュウにしようかな」
僕とローエンは魔導モービルを装着し、子どもが遊ぶように、魔物を産みだす機械を破壊しつくした。