海中トンネル
セイリュウの武装は四連マジックミサイルランチャーとレフトアームクローだけだ。その代わり水中を最高時速172㎞で進めるので、どんな魔物が相手でも後れを取ることはない。僕は味方の攻撃魔法に巻き込まれないように気を付けながら、海中の敵を片っ端から撃破していった。
突如海中に現れた僕に、魔物もだいぶ驚いたようだ。軍船のことなんか忘れたように、一斉にこちらへ向かってきたぞ。魔物というのは魔族がいないと組織だった行動ができない。といってもそれは今の僕にとっては都合がよいけどね。こいつらにはなるべくファンロー軍の船から遠ざかってもらいたいのだ。
追いつかれるか追いつかれないかのギリギリのスピードを維持して魔物たちをおびき寄せ、その中心にマジックミサイルを放った。大爆発が起こり、海中の敵がはじけ飛ぶ。少しは効率的にやっつけられたかな? マジックミサイルはセイリュウを再召喚しないと補充されない。効率よく使う必要があるのだ。
スピードでかく乱しながら海中の敵を次々とクローで切り裂く。30分もすると目に見えて海の中の敵が減ってきた。活動限界まではあと20分くらいか。もう少し戦ったらローエンのところへ戻ろう、そんなことを考えたときだった。僕は海中の岩壁に、大きな横穴があるのを発見した。穴の直径は7m以上はありそうだ。どうやらこの穴は島の中心部に向かって伸びていて、魔物はここからも出入りしているようだ。
マジックミサイルが残っていれば、これ以上魔物が出てこられないように穴を塞ぐんだけど、残弾はもうない。クローで破壊するには穴は大きすぎた。ここは一旦戻ってローエンと相談だな。
と、そこで僕はとんでもないものを見つけてしまった。なんと、穴の横に小さな金属プレートがはめ込まれていたのだ。表面は海藻が張っているのだけれど、どう見てもこれは人工物だ。大きさは30㎝×40㎝くらい。なんで魔物の島にこんな物があるんだ? 海上に戻ってきれいにすればもっと何かわかるかもしれない。船に接近しつつある魔物を倒しながら、旗艦ゴライオンへと戻った。
甲板に上がると、すぐにセイリュウを送還した。これで四連マジックミサイルは再装填されるはずだ。
「ただいま!」
「おかえり、レニー。海中の敵をだいぶ減らしてくれたな。おかげで艦隊運用がかなりスムーズになっているよ」
「それはよかった。ねえ、ローエン、海の中でこんなものを見つけたんだ」
僕は拾ってきた金属片をローエンに見せた。
「なんだこれは? 汚い板だな……。ん? これは金属でできているのか」
「そうなんだよ。きれいにしたらもっと何かわかるかもしれない」
「これをどこで見つけた?」
僕は島の切り立った崖を指さす。
「あそこの崖は海中までずっと続いているんだ。そしてその岩壁に気になる穴があった」
「気になる穴?」
「島の中心に向かって伸びているんだ。海中の魔物はそこから出てくるみたいなんだよ。奥の方に何か秘密が隠されている気がするんだ」
ローエンはプレートを眺めながら素早く考えを巡らしている。
「わかった。このプレートはこちらで綺麗にしてみるから、レニーはもう一度スザクで兵たちを支援してやってくれないか?」
「了解。それはローエンに任せるよ」
僕はセイリュウを再召喚した。よし、マジックミサイルは再装填されているな。
「じゃあ、セイリュウの魔石の補充もお願いね」
僕は再びスザクに乗り込み、空からの攻撃を開始した。
僕はまず制空権を確保するために飛行する魔物を徹底的に叩いた。空の敵というのは陸上の兵士たちにとって、これほど恐ろしいものはない。なんといっても反撃が非常に難しいからだ。
ガトリング式ロータリー魔導機関砲であるマジックイコライザーは次々と空の魔物を打ち落としていき、ワイバーンをはじめとした強力な空の魔物はもう残っていない。もともと飛行系の魔物が少なかったということもあるが、いまや島の上空は完全に僕のものだ。
地上のファンロー軍も一息付けているようで、場所によっては簡易食糧を口に運ぶ兵士の姿もちらほら見受けられる。この分なら制圧は時間の問題だろう。魔導モービルの戦闘力は圧倒的だな。今回の戦いはロックナ本土解放にとってもいい参考になった。
スザクの活動限界が来たのでゴライオンに戻ると、ローエンは約束通りプレートを綺麗にしておいてくれた。
「表面をなるべく傷つけないように薬剤で洗浄しておいた。最初は金属かと思ったが、これは陶器に近いもののようだぞ」
「陶器に? でも海の中にあったんだよ。よく割れなかったね」
「かなり硬いようだ。とにかくこんなものは見たことがないよ。何か書いてあるのだが、レニーなら読めるんじゃないか?」
輝きを取り戻したプレートをローエンが渡してくる。これがどういった素材なのかよくわからないが、ずっと海水に浸かっていたとは思えないほどきれいだ。そして、僕は表面に書かれた文字を見て驚いてしまう。
「ローエン、これは古代文字だよ!」
「やっぱりそうか! 最初に見たときからそんな気はしたんだ。それで、何と書いてあるんだ?」
「えーとね……『第三搬出口 0065A』だって」
後ろの数字は座標か何かかな?
「搬出口ということは、古代人はこの島を使っていたということになるな」
「そうだね、当時は魔物がいなかったのかな?」
「はっきりしたことは今の段階ではわからんな」
海の戦闘はほぼ終わり、今は上陸部隊が島を制圧するべく交戦中だ。
「どうする、もう一度ゲンブで支援に行こうか?」
「いや、あちらは大丈夫そうだ。それよりも海中から新たな魔物が現れる方が怖い。レニーの言っていた穴から魔物が出てくる可能性があるんだな?」
「今は止まっているけど、あそこから何体か出てきたのは見たよ」
「じゃあ、セイリュウで穴の中を調べてもらえるだろうか?」
「任せといてよ。僕もあそこが気になっていたんだ。うまくすれば、島の内部から敵の背後を付けるかもしれないよ」
「大丈夫なのか? セイリュウの活動限界もあるだろう?」
「水の上へ出られれば兵員装甲輸送船や他の魔導モービルも呼び出せるから問題ないよ」
ローエンは呆れたように僕を見る。
「まったく、レニーが味方でよかったよ」
「感謝してよね。お礼はファンロー料理のフルコースがいいな。あれ、美味しかったから」
「それだけでいいのかよ⁉」
「えっ? ああ、お姉さんたちの分もお願いね」
「それはもちろん用意するけど……」
なんとか方法を考えてアルシオ陛下にも食べてもらいたいな。お忍びで行けるように取り図るとしよう。僕は再びセイリュウを身に着けた。
「それじゃあ行ってくるね!」
「うむ、気をつけてな」
僕は横穴を調査するべく、再び海へと飛び込んだ。




