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いのちだいじに



かれこれ数時間ほど歩いている気がするが、地図に書かれた目的地は依然として遠かった。


こんな時、話し相手がいないと退屈だなぁと先程お別れしたユズルの顔が浮かんだ。

でもきっとまた、いつか会えるような気はしている。


もう、ひとりでも大丈夫。

しっかりしなくては、と気を引き締めていると、うめき声のようなものが突然聞こえた。


「.......あ.......う.......」


音のした方を見ると、私の行く道の先に、人が倒れていた。

しかも、女の子だ。

桃色の長い髪の毛が、地面に広がっている。

背丈は小さいし、まだ小学生くらいだろう。


「ちょっと!!!大丈夫!?!?」


急いで駆け寄って、倒れていた女の子の身体を起こし、揺さぶる。

意識はあるようだが.......


「ふぇぇん!!!

おなかすいたぁぁぁぁ!!!!!」


「え.......」


「すいた!すいた!すいたのぉーーー!!!」


私を見るなりその少女はじたばたと暴れ、猛烈な自己主張を始めた。


めっちゃ元気やんお前。

なんで倒れてたねん。


少女の変わりようと言ったら、頭の中に関西人が誕生してしまうほどだった。


「.....................」


問題なさそうだし、行くか。


元気そうにしている少女を尻目に、腰を上げて歩き始めようとした。


しかし、足をがしり、と掴まれて、思いっきり地面に突っ伏した。


「いだぁ!!!

な、なにするんですか!?」


ぶんぶん、と引き離そうにも私の足をがっちりと掴んでいて、離れない。

少女の顔を見ると、瞳はウルウルとしていて、なんだか私が悪いことをしているような気分になった。


「カエルさん、食べものの匂いがするの!

一生のお願いなの。

わたしに、わたしにそれを.......」


そういえば、麻袋の中にユズルの手作りお菓子の詰め合わせが入っていたことを思い出した。

食事の必要がないので、つい忘れていたが。


「え〜どうしよっかなぁ〜」


大人気ないのは理解している。

子供をついからかってみたくなるのは、私が元々高校生の年齢だからだ。

まだ私も、子供のような悪戯心を持ち合わせているのである。


「ひどい、ひどいの.......カエルさん。


じゃあ、力ずくでもそれをいただくの!」


その瞬間、少女が掴んでいた私の足から、ボキ、と惨い音がした。


「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」


なんという力だ。

足が地面ににめり込んでいるし、これは確実に折れただろう。

痛い痛い痛い痛い痛い。

とても、人間の少女が出せるような力とは思えなかった。


人間、の.......


いや、まさか、そんな。

身体中から冷や汗が流れる。

確かに、惹かれ合うのは必然と言われた。

でも、こんなすぐに出会うことなんてあるのか。

まだ攻撃を続けてきそうな少女を前に、私は叫んだ。


「あ、あげる!!!

食べもの、本当はあげるつもりだったから!!!!!」


だからこれ以上痛いことをするのはやめてくれ、と必死に懇願した。


「なーんだ!

酷いことしちゃってごめんねなの〜」


少女に悪びれた様子は全くないが、あのイカれた双子と違い話は通じるようだ。

このズキズキと痛む足は、もったいぶった私の自業自得なのだろうか。

今後の人生、子供には優しく生きようと思う。

何が起こるか分からない。


麻袋から綺麗にラッピングされたお菓子を取り出して、少女に渡した。


「はい、どうぞ。

これは私の友達が作ったものです。

とても美味しいですよ」


「わぁ〜!

いただきますなの!」


目をキラキラと輝かせて、もぐもぐとお菓子を食べる少女はどこからどう見ても普通だ。

先程の力が嘘みたいに、本当に普通の女の子。


「んぐ、んぐ..............おいひ〜」


「それは.......よかった.......」


聞きたいことは山ほどあるが、命が惜しいので、少女がお菓子を食べ終わるまではじっと待つことにした。




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