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いつかどこかで



ふたりの〝存在〟は、たわいのない話をして、随分と時間が経った。


するとユズルは、笑みを浮かべた表情から一転、険しい顔つきになり、手に持っていた本を開いた。


「あぁ。とても残念だけど、キミはここに長くいない方がいいみたいだ」


「急に?どうして.......?」


せっかくコミュニケーションの取れる人(?)を見つけ、友達になることができたのに。

顔のない女_______ナナシは、谷底に突き落とされたような心情になった。


「時々やって来る、招かれざる客さ。

今から挨拶をしに行くけど、キミを巻き込みたくはないし、それに.......」


「でもでも、私、この先ひとりで、いったい、どうしたら」


突然追い出されるとは思っていなかったナナシは、あわわわと慌てた態度を見せる。

そんな落ち着きようのないナナシの頭に、ユズルはポン、と手を置いた。


「このままここにいても、ナナシの記憶はなくなったままだ。

この世界には、無限の〝可能性〟がある。


記憶も、元の身体も、いつかは取り戻せるかもしれない。

それも、ここにいては叶わない。叶わないんだよ」


記憶を、元の身体を、取り戻す。

ユズルに言われるまで、考えすらしないことだった。


「わ、わか、わか.......わかりまじだ」


涙は出ていないのに、鼻声。

記憶も、身体も、取り戻したい気持ちはあっても、これから先がよほど不安なのだろう、とユズルは察するが、それを汲み取ることはしなかった。


「大丈夫。 キミは1人じゃない。

さぁ、これを友情の証に持って行ってくれ」


ユズルは、ビリ!と本の1ページを破く。

それ、心臓なんじゃないの!?と、ナナシは驚愕した。


「心臓、破いて大丈夫なんですね」


全く分からない言語が書かれた本の1ページを受け取る。

丁寧に扱いたいけれどクリアファイル等は持ち合わせていないので、四角く折りたたんで洋服のポケットにいれた。


「いや、破けるページはこの1枚だけさ。

私の心臓の一部だ、大切にしておくれ」


友情の証、重すぎる。

さぁ行った行った、とユズルに背中を押されながらナナシは扉を開け、外の世界へと旅立った。





招かれざるお客様は決まって裏から来るものらしく、ユズルは私が出た扉とは反対の、裏口から外に出て行った。


ちなみに、彼の家の外観は質素な木の家だった。

童話に出てきそうな感じ。

あんな凄そうな力を持っていても、暮らしは普通なのだろうか。不思議だ。


ちら、と後ろを振り向くが、もうユズルの姿は見えなかった。

せっかく友達になれたのに、こんなに早いお別れは寂しく心細いものだけれど、私が戦闘に巻き込まれては足でまといになることは明白だった。


そして、彼からは友情の証の他に、目的地が書かれた地図、それから、大きな麻袋を手渡されていた。


麻袋の中身がとても気になる。


地図に書かれている次の曲がり角までは随分あるみたいだし、地図を一旦ポケットに入れ、歩きながら麻袋を開けた。


ひとつめ。布の感触がした。

麻袋から取り出してみると、それはフードつきの緑色のパーカーだった。

なんと、フードの部分にはかわいらしいカエルのおめめがついている。


とりあえず着てみる。フードも被ってみる。

目のないこの身体では、視界も全く問題がないようだ。

私の身体、本当にどうなっているんだろう。


しかしながら、カエルのおめめ系のっぺらぼうの爆誕である。


なんてツッコミどころしかない洋服なんだろう。

フードがあれば顔の半分を隠せるし、ナイスアイディアだけど.......だけど.......!


ひとまず、モヤモヤとした気持ちを置いておいて、麻袋の中から再び、布の感触がするものを取り出してみた。


出てきたのは、またまたかわいらしい緑色の、今度はお口の絵がついたネックウォーマーだった。


確かに、パーカーだけでは口や鼻の部分は隠せないし、これまたナイスアイディアには間違いない。


でも、でも.......!


納得いかない、と思いはするが人に悲鳴を上げられ、コミュニケーションそのものが取れないのは困るし、面白がられて追いかけ回されるような経験はもうしたくない。


諦めて、お口つきネックウォーマーをつけることにした。


水たまりに映る自分の姿は、完全に不審者だった。





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