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転生したら.......



思い出してみると、とどのつまり、私は助かったらしい。


しかし通りかかる人々に話しかけても悲鳴を上げられて逃げられるだけなので、困り果てていた。


心当たりはあった。

自分の顔を触ると、ない。

一切の凹凸が、ない。

あれ程ブチブチと、毎日のように抜いても抜いてもなくならなかった眉毛がない。

ボツボツの毛穴に苦しんでいた鼻も、ない。


状況から察するに、どうやら私はのっぺらぼうと呼ばれる存在になってしまったようだ。

ひとつになる、という意味はこういう事だったらしい。

口がないと食事もできないんだけど、大丈夫なのかな。

空腹は全く感じないけれど。


ひとまず、状況を整理しよう。

まず、ここは森の中。

通りすがる人達に声をかければ、悲鳴をあげて逃げられる。

私の外見はのっぺらぼうだから、人とコミュニュケーションは取れない。


正直なところ、もう今すぐに自分の家に帰りたいけど、どう帰ればいいのか分からない。


住んでいたところも、家族の顔も、自分の名前も、何も思い出せないのだ。

放課後、あののっぺらぼうに出会ったことしか私は覚えていない。

着ている服は恐らく自分の通っていた高校の制服だし、この記憶に間違いはないはずだ。


記憶喪失と言うには忘れたことが断片的すぎるけれど、記憶喪失なんだろう。


どうしたらいいのかもよく分からないまま、辺りは暗くなっていた。

考え込んでいるうちに、相当な時間が経っていたようだ。


夜中に森を探索して迷うのは得策ではないし、明るくなってからまた行動した方がいいだろう。

人生初の野宿が始まろうとしていた。





結論から言うと、この身体はとても便利だった。


元の体とはかけ離れた、それはそれは強靭な肉体のようで、そもそも睡眠という概念がなかった。


疲れがない。疲れない。眠くない。


一瞬暇すぎてうたた寝したし、眠ることはできるみたいだが。

木を背にして、ただぼーっとしていた。


寝なくていい、というのはこの状況ではいささか退屈だったが、寝なくても活動できる身体というのはどんな人間も1度は憧れてしまうものだろう。


1日の睡眠時間は3時間だったらしいナポレオンもびっくりに違いない。


それに、固い地面に座っていても、お尻が痛くなることもない。

まぁ、座り心地がいいわけではないが。


辺りはまだ薄暗いが、視界はそれほど暗くない。

森を探索してみようと私はとても軽い腰を上げた。





まだ、薄暗い夜と朝の間。

顔のない女は、2人の少年と出会った。


「ねぇ、ねぇ、このひと、顔がないよ。兄さん」


赤い髪の幼い少年は、楽しげに顔のない女に指を指した。


続けて、その少年にそっくりな顔と背丈をした青い髪の少年が、腕を組んで口を開いた。


「そうだな、顔がないな。でも、それだけだ」


「そっか!それだけかぁ〜、つまんないの」


少年はため息をついてから、腰にある〝物騒な物〟を顔のない女に向ける。


〝物騒な物〟を前に、顔のない女は両手を上げて叫んだ。


「待って!!撃たないで!!!!

は、はな、話を、聞いて..............」


少年はきょとん、とした顔で、しかし、その手に持った銃は収めないまま笑みを深めた。


「すごーい!口、ないのに喋れるんだ!」


ゆっくりと、少年は顔のない女の元へと近付く。

なんの抵抗もしようもない女は、ただただこの状況をどう切り抜けるか考えていた。


「いや、これは私にもどうなってるかわかんないんだけど」


女は、対話を試みる。

しかしながら、眼前の少年は酷く残酷で、残虐的で、非道的なことはまだ知らない。


「じゃあ、おねーさんの口の部分を抉ったら、喋れなくなるのかな?

それともまだ、喋れるのかな?」


少年は片手で女の襟首を掴み、本来、口のあるべき位置に銃をあてた。


幼い子供に銃を向けられる恐怖は計り知れないものだった。


「ごめんなさいごめんなさい許して死にたくないよぉ」


この女、顔があったら涙も鼻水も汗も、顔からたくさん出ていただろうに。

全身ガタガタと震えている異形の存在を前に、ただ少年はニコニコとしているだけだった。


しかし、目は笑っていない。


「あはは、震えちゃってかわいい〜」


銃からカチン、という音が鳴る。

あ、これ死んだ。絶対死んだ、と。

女は人生の終焉を覚悟する。


「まぁ、待てよ兄弟。

オマエのソレじゃあ、そのまま殺っちまいそうだ」


そこでもう1人の少年が、制止した。

助かった!?と、女が安堵したのはつかの間だった。


「オレにやらせろ」


少年の腰からは刀が抜かれていた。


「ううぅぅぅ」


女から泣き声のようなものがするが、涙など流れない。

身体中から汗は出ているようだが。


「そうだね!ちゃちゃっとやっちゃってよ、兄さん」


スッ、と女の顔から銃口が離れる。

今しかない、と女は咄嗟に走った。

走って、その場から逃げることにした。


「あっ!逃げた!」


「クソ、追いかけるぞ!」





「はっ、いやだ、いやだ.......」


走る。走る。とにかく走る。

疲れを知らない女の身体は何十キロという距離を走っていた。

追いかけて来る双子の兄弟も、体力が尽きてきたのか距離は少し離れていた。


「はー、はっ、かおなしのおねーさ〜ん。

そろそろ止まらないと、ほんとに撃っちゃうよ〜?」


陽気な声と共にズドン、と音がした。

撃っちゃう、とはなんだったのか。

その瞬間、女の足は既に撃たれていた。


「いっ、たぁぁぁあ!!!!!!」


たまらずその場にしゃがみ込んだ。

ドクドク、と流れる血は紛れもなく自分の身体から出たものだ。

しかし、このままでは双子に追いつかれもっと酷い目に合うか、最悪殺されるかのどちらかだろう。


歯を食いしばって、立った。

走った。

背後を振り向けば足が竦んでしまう。

ただ、前だけを見て、走った。


「はぁ、はっ、あいつ、根性あるな。

捕まえたら、どうしてやろうか」


聞こえてくる声は随分遠い。

このペースなら、恐らく振り切れるだろう。


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