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突然の出会い


「あのー、すみません」


「ぎゃあああああああ!!」


道を歩いている人に声をかけるが、私を見た人は唐突に悲鳴を上げて逃げ出した。

これはいったいどういうことなのか。

そもそもここはどこなのか。

様々な疑問を抱えつつも、少し前の記憶を遡った。





それはいつも通りの、私の一日だった。


朝、起きて支度をして、学校へ行く。

代わり映えのしないいつもの月曜日。

憂鬱な月曜日。

それでも、華の高校生だ。

そんな毎日を楽しんでいたと思う。


学校で友達と過ごす時間は楽しいのだけれど、勉強は嫌いだった。

早く大人になりたいなぁなんて考えながらも、電車に乗り、くたびれた顔をする社会人を見ると、やっぱり大人になんてなりたくないなと手のひらを転がすような年頃。


学校に着いて、いつも通り友達とべらべらと喋り、楽しい時間を過ごし、退屈な授業を終え、放課後を迎える。


その日はそう、日直だった。


いつも一緒に帰る友達は今日は彼氏との約束があるからと先に帰ってしまい、放課後の教室には私一人だけとなり、友達へのうらめしい気持ちと応援したい気持ちは五分五分くらいとなった。


日直の仕事はほんの10分もかからなかったし、日誌も適当に書いて終わらせて、さぁ帰るぞ、と教室の扉を開けようとした時にそれは起きた。


「あれ?あれ?開かない.......?」


ガッカッ、と何度も強く引いても教室の扉が開かないのだ。

反対側から鍵をかけられたような音はしなかった。

閉められたいうことはないはずだ。


きっと老朽化などで鍵が壊れたのだろう、と思い、もう片方の扉に回り手をかけた。


しかし。


「.......ええ!?」


開かない。

教室を出る前に電気を消したのが悪かったのか、窓から見える呆れるほどに綺麗な赤い夕焼けが今では少し、ゾッとする。


世界でこのままひとり、ここで取り残されてしまうような、途方もない不安に襲われた。


「だ、誰か________!開けて!開かないの!!!」


ドンドン!と扉を叩き、大きな音を立てる。

誰でもいい。誰か早く、ここに来て欲しい。

怖い。助けて。怖い、と。

不安に心が支配された。


その時だった。


背後に〝ソレ〟が現れたのは。


「ヒッ、」


振り向けば、顔のない、のっぺらぼうと呼ばれるような異形の存在がそこにはいた。


人間、本当に恐怖を感じると叫ぶことすらできないこともあるんだな、と私はその場に腰を抜かして座り込んだ。


ドッキリならドッキリと言ってくれ。

特殊メイクだと言ってくれ。


しかし目の前に現れた存在は、人の気配ひとつない空間にいきなり現れたナニカだ。


これはフィクションではない。現実だ。現実。

こんなヤバイ存在に出会ってしまった私はきっとここで死ぬのだろう。短い人生だったな。走馬灯が流れた。


クラスでちょっと好きだった男の子、格好よくてわりとタイプだった先輩。

あぁ、死ぬ前に彼氏とか欲しかった。

切実な願いを胸に私は死ぬのだ。

未練がありすぎて地縛霊になりそうだな。


あまりの恐怖と、近付いてくるのっぺらぼうを前に、私は現実から目を逸らすように、固く目を瞑った。


「コワガラナイデ」


しかし、目の前ののっぺらぼうは、しゃがみこんで私をギュッと抱き締めた。


「あ.......」


オバケらしからぬ優しい抱擁とあたたかい体温だった。

私になにかしてやろう、という意思は感じない。

ガタガタと震えていた身体は少し、落ち着きを取り戻した。


「な、なんなの、いったいもう、なにが、」


上手く舌は回らないが、なぜ閉じこめられているのか、目の前の存在がなんなのか、私は聞かずにはいられなかった。


のっぺらぼうは私の肩をぽんぽんと叩いて、また話し始めた。


「マズ、アナタハ、ココデシヌ」


「結局それ!?!?」


恐怖心がまた蘇ってきた。

諭すようにのっぺらぼうは指を口元に当てるような仕草をした。

口ないけど。黙れということだろうか。


「デモ、アナタ、タスケタイ」


この時の私は、なんていいやつなんだ.......と正体不明の存在に感動していた。

こんな状況だというのに。こんな状況だからだろうか。

藁にもすがる思いならぬのっぺらぼうにもすがる思いだ。


「ワタシトヒトツニナレバ、アナタハタスカル」


悪魔の契約か何かみたいだけれど、私は首をぶんぶんと縦に振っていた。

もうなんでもいいから助かりたかった。

窓から見える夕焼けは、さっきよりずっと赤く、窓から見える風景はすでに私の知るものではなかった。


魑魅魍魎が渦巻く混沌の世界へと変わり果てている。

このままここにいては死ぬ、というのは本能が警告していた。

もはや助かるにはこの目の前ののっぺらぼうを信じる他ないだろう。


「いいよ!もうなんでもいいから、助けてよ!!」


涙とか、鼻水とか、汗とか、身体の隅々から体液が流れていて、とにかく助かりたい気持ちでいっぱいだった。


目の前ののっぺらぼうは、私の肩をポンポン、と叩いてから、私に顔を近付けて、口のない顔で私の唇を奪っていった。


ファーストキスがのっぺらぼうなんて、世界で私1人なんじゃないかな。

いやでも、口ないしノーカンかな。

こんな状況なのに、能天気な脳みそだ。


「アナタハ.......イキテネ」


そこで、ブツリ、と暗転。

私の意識は途切れた。







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