アースの決意
彼は驚いている。
俺の隣のクラスの女子が俺の事をこそこそ話していたのが聞こえたのか、アスティーヌ君はそちらを凝視していたが、不意にこちらを向き、あっ、と声を出している。俺のことをアース様とでも思ったのだろうか?いや正解、その通りだ。報酬をくれてやろうではないか!
あぁ、話がズレているな。俺はこの学校で悪役を勤めるのだった。
「平民風情が俺の上に立つとはどういう事だ?(テノールとバスの間位)」
「俺はただ、試験を受けただけですから。平民に上を立たれたくなければ、頑張った方が良いですよ。応援します。」
(おいっ、駄目だろ公爵家に口出ししちゃ!)
(シル、いいからお前は黙ってろ!)
そのひそひそ声、俺に届いてますけど、大丈夫ですか?
しかし、主人公がいい感じに怒ってくれた。これぞ悪役の醍醐味って奴か。
俺は今まで他人の目があり、なかなか悪役を演じられなくてストレスが溜まりに溜まっていたのだ。
それが今解放され、とてもスッキリしている。こんなに清々しい朝は無いね。
「今後、出来ればあまり関わらないで頂きたい。」
通り風が吹き、俺の髪の毛を靡かせる。鬱陶しいな、この風。
あ、勿論無理です。
残念だけれど、これから貴方に付きまといます。(良く言えば物語を作っていきます。)悪を見せつけます。物語が発展し、主人公もレベルが上がり、一石二鳥です。
ということで、ここで俺は普通の人からは発生しないイベント、決闘を行うことを、男としてしっかりと決意した。
そして、思いっきり人を見下す表情を作り出し、我が物顔で俺はこう言い放つ。
「いや、放課後、決闘をしよう。アスティーヌ=ゼルヴァ!」
途端に、周りのお嬢様やお坊ちゃんが一斉にこちらを向いた。
そりゃあ、そうですよね。
貴族が平民に決闘を仕掛けるなんて事、普通の日常生活ではあり得ないからな。俺も今日は、非日常過ぎて目を回す程だ。
それに、普通の人は、平民と戦うなんて意味の無い事はあまりしないだろう。それは勿論、平民側も穏便に事を済ませたい訳だ。
アスティーヌ君の性格は、いまいち分かっていないが、大体なら分かる。
厄介事にはあまり首を突っ込みたく無い、冷静沈着な性格だと思う。
彼は乗って来ないと俺は予想している。まぁ、その為の対策もしてあるから大丈夫な筈だ。
アスティーヌ君は少し悩み、こう言った。
「では、受けましょう。ただし、俺が勝った場合は…俺に訓練場を半分くれ。鍛練がしたいんだ。先生に交渉したら借りれるが、俺の権力じゃ、無理だ。」
ほう。乗ったか。面白い男だな。
でも、勝った時の報酬を付ける事で自分のやる気を上げる訳か。なるほど。
「分かった。では、俺が勝った場合は、お前を退学にする。では、闘技場で。」
厳しい条件。
だけど、これで俺への印象を更に悪く出来る。
「えっ…おい待てよ!はっ…」
「シル…!」
言い直した様だが、遅いな。シル君の口が悪くなってしまっている。だから、お返しに俺はシル君を睨んだ。まあ、心配するな、俺が君達を退学にさせるわけがない。俺はわざと負ける。彼のお手並み拝見、という訳だ。因みに、もし彼を退学にさせようとする輩がいた場合、直ちにその者を捕らえる予定だ。
俺はその後、二人にくるりと背を向け
「俺に勝てる者などいないがな。」
と小声で言った。
要するに、自分を自ら破滅に陥れるフラグを立てたのだ。普通の人なら、分かっているのにわざわざしないだろう。因みにだ。これは捕捉であり、決して俺が自慢している訳ではないのだが、俺に本当に勝てる者はいない。
例のフラグ発言がアスティーヌ君や、シル君に聞こえたのか、怪訝な顔をしている。
そう、俺に勝てる者はいないのだ。
俺の正体が気になる人は、名探偵の様に俺の言動や行動で探るんだな。
ありがとうございました!