卒業式
AAAの昔ばなしの余韻が残るまま、部活対抗歌合戦が始まった。
残念なのは学校祭で優勝のテニス部が無くなっていた。3年生が引退して、2年生一人と1年は彩花ともう一人になってしまい、同好会に格下げ、次いでに皆んな辞めて廃部になったそうだ。ドレッドの彩花がまた見られるかと思っていたのでちょっとガッカリかな?前は、ちゃんと見られなかったからね。そう言えば、彩花が部活で遅くなる事が無くなっていた気がする。
彩花の影響だろうか?海外のアーティストやアスリートのモノマネが目立っていた。奇抜な仮装を制して、優勝に輝いたのは、ソフトボール部の『ShiziU』隣国風アイドルの完コピだった。
ソフト部ってあったんだ!ちょっとビックリ。バスケ部みたいに、花田シスターズに試合を申し込んで来るって言うか、小雪がイベントにして、生徒会の資金集めに使いそうなのにと思ったが、かなりの弱小チームらしく、球技大会前の練習試合で麻幌と互角に戦った事を知って、そんな気にならなかったらしい。
チア部のパフォーマンスはステージでは狭すぎて、かなりの縮小でちょっと残念な感じだった、狭いなりに工夫して、(たぶん、見る人が見れば)素晴らしい出来なんだけど、歓声必須の大技が封印されていて、盛り上がりはイマイチだった。合唱部は定番の合唱曲では無く、人気の『卒業ソング』を合唱にアレンジ、涙ぐむ卒業生も沢山いた。
休憩を挟んで、バンド演奏になると、やっと一曲覚えた位の初心者バンドだった。一所懸命なのは伝わったが、最後の出し物としてはどうかと思った。二組目もちょっとはマシな位で、最後の組に期待が掛かった。
「3組目、最後のバンドはHシスターズです!」
幕が開くと、ステージには見慣れた顔が並んでいた。
ドラムスティックのカウント。鳴らしているのはカレンだった。キーボードはいろは。ピアノを習っていたので、鍵盤系は何とかなるようだ。美羽と琴音はギター、経験者らしい。彩花のベースは今回覚えたらしい。美月はバイオリンで参加、楓とこころはサックスを吹いていた。インストバンドかと思ったら、姉達がボーカルで加わった。
会場は悲鳴の様な歓声で満たされ、号泣する子も居てプチパニックだったが、そのまま次の曲に突入した。合唱部とはカブらない卒業ソングをハードにアレンジしたメドレーだった。体育館の床が心配な盛り上がりの中、各自のソロパート。心配だった、サックスの二人は余裕でクリア。いろはは、演奏はしっかりロックなんだけど、背筋をピンと伸ばしている姿はクラッシックのピアノ発表会でドレスを着て弾いているみたいでギャップを楽しめた。
最後の曲は、三姉妹のアカペラでバラード。観客は呼吸の音さえも潜めて聴き入っていた。
幕が閉じると、アンコールの拍手と足踏みが止まない。アナウンスはそれに流されず、
『次は、卒業生からのご挨拶です。前期生徒会長代理、後藤小雪さん、お願いいたします。』
猛烈なブーイングを浴びて開いたステージにはバンドのメンバーが残っていた。
小雪がセンターに立って、三姉妹が左の奥に下がっただけ。聴き馴染みのある『ミソド』、『レミシ』、『ミソド』の和音が、ギターとキーボードから流れると、小雪の礼に合わせ観客も礼。ブーイングが収まった。
「本日はこのような会を開催して頂き、ありがとうございました。本来ならここに立っているはずの親友がいない事を除いては、素晴らしい3年間を過ごす事ができました。簡単ではありますが、卒業生代表の挨拶とさせて頂きまして・・・私も一曲歌います!」
美月のバイオリンソロから始まり、楽器が重なって行くと、ロックにアレンジした合唱の名曲のサビが始まった。小雪のシャウトに三姉妹はコーラスで参加。サビだけを3回繰り返し、最後のフレーズだけ楽器がカットオフ、
「・・・行きたい〜」
小雪とコーラスだけで締め括り幕が閉じた。
『これを持ちまして、令和2年度、予餞会を終了致します。卒業生の皆様を拍手でお見送りしてください!』
幕は閉じたまま、サックスの蛍の光。キーボードに代わって次はベース。最後の3年1組が退場する時には、全ての楽器が重なっていた。
照明が灯って在校生の表情が判るようになると、涙で目が真っ赤だったり、興奮が冷めずに肩で呼吸をしてたりして会の盛り上がりが確認出来た。
大道具を解体したり、使い回しの効きそうな小道具をしまったり、衣装の洗濯を分担して夕方迄頑張った。翌日は卒業式で在校生は登校しないので、のんびりしていた。
「早く帰りなさい!」
上原先生が見回りに来た。
何となく余韻に浸って、チンタラしていたのに気づいて、スパートを掛けて片付けを済ませた。上原先生も手伝ってくれて、一緒にいた二人は、中等部の制服だった。先生の陰でニッコリ笑ったのは、雨と夢愛だった。あとで聞いた話しによると、『ミニ雪まつり』開催と引換えに、二人を見学させる事で話しが付いていたらしい。
楽器を片付けていたバンドメンバーも片付いて一緒に下校した。遅くなる事を想定していたので、カレーを作ってあったし、ご飯もタイマーで炊けている筈なので、のんびり出来る。花田の家で晩ごはんを済ませてから、秋野の家に帰った。
卒業式には在校生は出なくて、生徒会の役員と放送部、お手伝いの数人だけ出るんだけど、うちの住人はなぜか全員選ばれていた。小雪の晴れ姿が観れて丁度良かった。もしかしたらその辺を考えてくれたのかも知れないな。
上原先生は、袴姿で、ちょっと恥ずかしそうにしていたので、
「先生!似合ってますよ!」
声を掛けるとちょっと赤くなってしまった。
「こんな所で、ナンパしないの!」
桐がツッコミを入れると、上原先生は真っ赤になっていた。
校長先生、PTA会長の祝辞、皆勤賞やその他の表彰、卒業証書の授与。在校生代表の送辞が終わり、小雪の出番がやって来た。
『答辞、卒業生代表、後藤小雪』
サクッと熟して、ニッコリ降壇。卒業生の退場を手がいたくなるほどの拍手で見送った。
クラスに戻った卒業生の所に、シャッター係のお手伝いに行くと、
「皆んな揃っているうちに、撮りましょう!」
小雪のリクエストで花田家住人勢揃いの写真を撮ってから、各クラスに散らばった。しばらく騒がしくしていると担任の先生が来て、集合写真のシャッターを押して、お手伝いは終了。控室になっている会議室に戻ると、
「在校生が居ないのって寂しいわね。」
上原先生が不思議そうにしていた。
「卒業式にボタン下さいって出来ないでしょ?」
「先生はそんなシーンあったんですか?」
美月のツッコミで先生はまた真っ赤になっていた。




