牡丹の策略
翌日、また課長さん達が、いっぱい書類を持ってきて、書き込む所、ハンコを捺す所なんかには付箋が貼ってあって、揃えなきゃならないん書類は、どこの窓口かとか、至れり尽くせリって感じだった。
普通の週末に帰ってきたのは何年振り?母さんが帰ってきて、書類に目を通した。
「じゃ、お願いね!」
えっ?もう決まり?スーパーで野菜を選ぶ勢いで決めてしまった。
なんと、もう準備を始めているそうで、役所の手続きが済み次第、工事を発注するそうだ。市役所の人が帰ると、ほぼ入れ替わりでばあちゃんが帰って来た。
「祝杯だよ!イタリー買って来たよ!」
普段はコンビニで、ワンコインのワインを飲んでるばあちゃんだけど、コルク抜きを探していたので、高いのにしたみたいだ。昨日ピザをリクエストされていたので、それに合わせたのかな?
「まだ決まってないんだよね?」
「新球場は、来ないと思うけど、ウチの移転は決まったよ!」
母さんは微妙な回答だけど本気で喜んでいた。巷の予想では、前のクズ市長が金をバラ撒いて、候補地の本命って位置に居たけど、ヤツの失脚から混戦状態になっている。って言うか、実質的に創成市内か、空港線沿いの隣の市の2択のはず。
「土地を確保出来て、なんとかコールド負けを逃れたって感じね、でも逆転はムリね。今度の市長ってプロ野球誘致が公約だがら焦ってるのよ!球場の移転が他に決まる前に、ウチの移転が決まって良かったわ!」
オマケに、新施設の植栽アドバイザーって仕事もゲットしていた。お世話になっている造園会社とか、花屋さんとかに仕事を回せるってチャッカリ商売もしていた。
ばあちゃんはワインだけじゃなく、エビ、カニ、ホタテ、豪華な海鮮を持参。
「配達してもらう事を勘定したら、ワイン代くらいは浮いたわよ!」
大勢でも食べても、トッピングが溢れてしまいそうだ。すっかり使い熟せるようちなったピザ窯が活躍、ばあちゃんはほろ酔いで、
「次のオリンピック迄の辛抱だね、もうちょい長生きしなきゃ!」
ワイングラスを通して照明を赤くして眺めてていた。次って言うのは、延期になった来年の大会じゃなく、4年後僕らのハタチを待ってるんだろうね。気分だけでもって、僕らのためにグレープジュースを買っていた。ワイングラスに注ぐとホンモノっぽくって、ちょっと楽しかった。
キッチンを手伝っていた美月と彩花がテーブルに付いた。
「改めて、乾杯ね!」
ばあちゃんの音頭で、またグラスの音が響いた。新社屋の構想や、試験畑や試験林の一部を公開する計画で盛り上がった。
「ぴらやさん、あしたら、はむぞっするわよ、あらくひが、ほそう、ひま、ふわ!」
そう言って美月は僕の膝を占拠したかと思ったら、頭をロックして、唇に吸い付いた。
「あらら大変、このコのグラスと入れ替わっちゃってる?」
ばあちゃんは自分のグラスがグレープジュースなのに気付いて、美月のグラスを嗅いで確かめていた。僕が、自由に呼吸出来るようになると、
「・・・ここぉ、うぁ・・いぃ・・・」
美月は聞き取れない寝言を言いながら幸せそうに眠っていた。
「部屋に寝かせて来るよ。」
「1杯飲んで、ワインだって気付かないって事は、初めて飲んだんじゃない?具合悪くなったら大変だから、暫くそうしてなさい。」
母さん、高校生の息子が膝に同級生の女の子を乗せて呼吸に支障を来たす程の濃厚なキスをするシーンを見ても全く動じないってどういう事?突っ込む積もりが、
「同級生の女の子と大勢の目の前でディープキスしても全く動じないってどういう事?」
母さんの方が先制だった。口籠るとニコニコして、ばあちゃんのグラスを入れ替えてワインで満たした。
皆んな。美味しそうに食べるのを眺めていると美月が目を覚ます?イヤちょっと動いただけでまた唇に吸い付いて、ムニャムニャ動かなくなる。1時間程で4回。ただ、4回目はちょっと様子が違って、舌を、入れようとしていた。離れたあとも、密着の仕方が違うので今度はたぬき寝入りだろう。
「歯磨きして来るよ!」
美月を抱っこしたまま洗面所に向かった。
彩花が手伝うと付いて来て、洗面所に入ると、目を閉じて唇を突き出した。無視して美月を椅子に移動させると、
「4回目は、酔ったフリでしょ?気付いて無い事にしてあげるから、口止め料で美月と間接キス!」
最後の数ミリは僕の意思で接触するギリギリの距離で止まっていた。軽く唇を重ねて離れると、
「不合格、やり直し!」
今度は自分から距離を詰めず、突き出した唇は軽く開いている。次のやり直しは避けたいので、上がったハードルを覚悟。僕の舌はアウエー戦を試みた。ホームの舌と絡んで縺れ、ホームアウエーを入れ替えながら気付くと美月の超音歯ブラシが止まっていた。
「合格でいいわ!」
彩花は、もう一度吸い付いてから美月と交代。
「じゃあ、お部屋までお願いするわ!」
来たときの通りに抱きついて眠ったフリ。ベッドに寝かし付けると、
「私も彩花と間接キスするわよ!」
ホーム戦、延長無しで解放してくれた。
ダイニングに戻ると、
「某も酔い潰れても良いであろうか?」
楓のボケかマジか解らない発言で一同大爆笑。
「シラフでおねだりしたら?」
母さんがとんでもない事を言うと、楓は過呼吸みたいな状態になったので皆んなで深呼吸して何とか収まった。
残りのピザを平らげる。冷めちゃっているけど、それなりに美味しかった。ワインは2本目がまだ半分位残っていたので、ホタテのヒモとかで簡単なおつまみを追加して、窯の片付けに取り掛かる。
「もみじはいいお嫁さんになれるね!」
母さんとばあちゃんが、べた褒めだった。




