移転騒動
学校から帰ると、見た事の無いオジサンが3人、スーツ姿で門の所に立っていた。見るからにお堅いお仕事って感じで年齢的に見て、上司と部下2人って感じかな?丁寧に差し出された名刺には、
『地域振興部 プロ野球誘致課 課長』
と書かれていた。
「お手紙送らせて頂いていたんですが、ご連絡いだだけ無かったので、直接お邪魔しました。」
そう言えば最近、市役所からの封書が頻繁に届いていた。母さんは滅多に帰って来ないので、ある程度溜まったら会社に転送するか、ロゼさんが近くを通った時に回収してくれている。母さんが、優先順位を低く見て放置しているって感じかな?オジサン達は、かなり困っている様子に見えた。
取り敢えず、ダイニングでお茶を飲んでもらって、母さんのケータイを鳴らしてみた。留守電になってしまったので、会社に掛けて見ると、ロゼさんが出て、母さんに代わってくれた。
「代わりに聞いといておくれ!」
手が離せないので、僕に任せると言う。市役所の人はそれじゃ困るだろうからは、母さんと直接話してもらった。一言二言、課長さんはペコペコしながら会話して、僕にスマホを返した。もう一度母さんと話すと、やっぱり代わりに説明を聞いておくように言われた。
部下の1人はコンセントを使わせて欲しいと言って、テーブルタップを渡すと、ノートパソコンをプロジェクターをつないで、壁にパソコンの画面を映し出した。スクリーンも持参していたけど、丁度よい壁だったので、使わずに済んでいた。スタンバイしているうちに、皆んなが帰って来た。もう1人の部下は、高卒1、2年って感じで先輩のサポート要員らしいけど、パラパラと増えて行く美少女達に気を取られ、仕事どころじゃ無いって感じで、ミス連発って言うか、ひとつも役に立っていなかった。
パソコンで見せてくれたのは、創成市のドームを本拠地にしているプロ野球チームが、移転の計画を立てていて、創成市と隣接の市で、誘致合戦が始まっている。そこに参戦する話の解説だった。誘致による経済効果とか、レジャー施設の充実等、美味しい話のてんこ盛りだった。
プラスチックの巨大な筒から大きな紙が現れた。地図や設計図で、1枚は創成市側の外れで設置候補地の地図だった。青の斜線が計画地で、赤のベタ塗りは、花田種苗の研究所と研究畑だった。どうやら、立ち退きを求めてくるようだ。もう1枚は市の反対側の外れで赤い斜線と赤のベタ塗り。斜線の部分は会社の研究林、ベタ塗りの部分は駅と研究林を繋いでいて、今より倍位の面積はありそうだ。ベタ塗り同士の交換を提案するつもりだろう。市にとっては球場用地の確保が出来るし、花田種苗にとっては研究林が近くなり、面積も増えて、駅近に会社が出来るので、これだけなら、ウィンウィンって感じ。あとは移転費用と、今の研究が引越しに対応出来るかって事が気になる所かな?
プレゼンソフトで移転案を説明してくれた。かなりの部分が市で持ってくれるけど、会社の持出しも結構な額になる。会社の懐事情までは把握していないので、高いのか安いのか解らない。
課長さんは汗ダクで説明して、ほっとした表情で残っていたお茶を飲み干し、パソコン担当のおじさんは、見せてくれたプレゼンをCDに焼いたのを渡してくれた。もう一人はうっとり美少女観察を続けていた。今日の説明は理解出来た事を告げて、社長に報告して連絡するよう約束して3人を送り出した。
もらったプレゼンのデータと紙の資料や名刺をスキャンした物を母さんのアドレスに送ると、1時間程で返信があった。
『松太郎はどう思うの?』
土地代は創成から離れるので、安くなるから、面積が倍になっても同等程度かな?駅近なので便利になるし、仕事の内容的に、都会に近いメリットってほとんど無いよね?研究林が近くなるのはかなりのメリットかな?ここまでは理解出来て、移転には賛成だな。あとは移転費用が問題だな。交換のメリットは大きいけど費用面が解らないと返信した。
また少しして、銀行から借り入れの相談している書類が母さんから届いた。今の研究所の改築と増築を計画しているようだ。市役所の人が算出した移転にかかる費用に近い金額を借りるつもりらしい。ただ驚いたのは、市役所で持ってきた案と、銀行の見積もりを比べると、銀行の返済の方がかなり高額だった。良く数字を読むと、利率が圧倒的に違った。
行政の都合の移転で、自己負担が発生した場合の特別な処置で、超低金利での融資が受けられるらしい。これは移転を選択するのがベストだろう。母さんに返信する前に姉達に相談すると、
「次期社長が決めればいいよ!」
桜は、僕に任せるスタンスだった。一応、今まで考えた事を聞いて貰うと、
「お母さん、ショタに考えさせる作戦だったのかもね!経営の事なんかサッパリだけど、ショタの考え方は賛成よ!」
桐が即答。
「ロゼさんとか、働いてる人の意見も聞いたら?」
芒は一応賛成だけどって感じ。
「お母さん達が、会社に寝泊まりしても安心出来るように建ててね!」
桜も条件を追加。今の社屋は、泊まり込む事を想定していなかったので、消して良い環境では無かった。キチンとした宿泊設備が必須との事。
「お母さん達にはそれ凄く良いと思うけど、余計帰って来なくなりそうね。」
雨はちょっと寂しそうに笑った。
結局、母さん、ばあちゃん、従業員の労働環境をしっかりする事を条件に移転賛成で母さんにメールを送った。今度は秒で返信。
『そうするわ!』
あっさりしたメールだった。




