自治委員長
翌日、早めに登校した。姉達に捕まると、荷物持ちとか、その他雑用が増えそうだからだ。もうひとつ理由があって、自治委員(風紀委員って学校が多いかな?)のいろはが、早く行かなきゃならないってことで一緒に行く事にした。姉達は、下僕が居なくなったら困ると言い出すと思ったら、すんなり認めてくれた。いろはってどんな魔法掛けたんだ?
校門の前まで来ると、小さな女の子が立っていた。小学生だと思うが、今の時間ここにいると始業時間に間に合うのだろうか?あっ制服だ、中等部の子がお姉さんに用が有るのかな?
何やら困った様子なので声掛けて見よう、
「委員長、おはようございます!」
いろはが先に挨拶した。委員長どこ?
さっきの女の子が
「おはよう、秋野さん!今日は彼氏連れですね。」
「はふはふはふはは」
おかしな手振りで否定しているんだろうが、声になっていない。
「俺、近所の幼なじみで同じクラスだから一緒に来ただけっす!」
いろはが、派手に頷く。
「キミ、もしかして?」
花壇の脇に引っ張られ、委員長は花壇の枠に登って同じくらいの身長になると、前髪をいじり、ネクタイを蝶結びにし、ワイシャツの胸のところを引っ張り、エアバストを作った。
「やっぱり、三姉妹の弟くんだね!ウワサ通り可愛いね!」
『可愛い』は言われ慣れてるけど、小学生と見間違えそうな委員長には言われたくないな。
「男子の協力が欲しかったんだ、お願い聞いてくれるよね?」
押しの強い女性に巡りあう運命なのか?姉達と同じ系統のオーラを放っている。どう考えても『YES』の一択だろう。
不審者対策に協力して欲しいそうだ。
実際、直接的な被害は出ていないが、明るいうちに帰ろうと部活に出なかったり、駅までタクシーの乗り合いで帰ったり間接的な支障は出ている。
即答は、いいと言われたので、教室でいろはに詳しく聞いた。
下校途中に尾行されるそうだ。かなり広範囲に出没して、中等部の子も怖がって親子さんが迎えに来る子もいるそうだ。
中等部?雨が危険だ!
1時間目が終わるのを待って、委員長の教室に向かって、協力の意思を伝えた、姉達も誘っていいか聞くと、『是非に!』の即答。放課後、生徒会室で作戦会議ということで決定した。そういえば、周りがざわめいている。3年生は中等部から女子だけの学校生活を5年間も送っていたお嬢様ばかりなので、突然男子が乱入してプチパニックだったようだ。
「ショタコンのおねえさまもいるから、気を付けなさいよ。」
ロリータに言われても、何かピンと来ないな。
自分の教室に戻る。2時間目に滑り込み、授業が終わるのを待った。チャイムが鳴ると桜と桐は、ファンに取り囲まれたが、後ろの席の芒は俺がゲットした。不審者対策の件ざっくり話すと、
「桜!桐!」大きくは無いが、良く通る声で呼ぶと、モーゼの何とかみたいにクラスメイト達が割れ、中から、ふたりが出で来た。
いろはに説明を頼むと姉達は真剣に聞き、協力を即決した。
放課後、生徒会に向かった。
「瞳先輩、小雪先輩お久しぶりです!」
姉達が嬉しそうに声を揃えた。
大森 瞳生徒会長と後藤 小雪自治委員長が待っていた。中等部の生徒会での先輩後輩だそうだ。
生徒が関わるのは危険なので、先生達からは首を突っ込むなとの指示。ふたりは個人的に解決法を模索していた。現実的な案が無く八方塞がりの状況だ。警察にも相談しているが、具体的な被害が無いので捜査的な活動は出来ないそうだ。パトカーの巡回を強化してくれるとのことだが、増えた感覚は無いらしい。学校でも巡回しようとしているが、先生達の殆どが女性であとは、おじいちゃんなので、アテにならない。
姉達の提案を聞くことになった。
囮を使って、誘き寄せたところを捕まえる。
「それは、考えたけど、囮になる子が危険だし捕まえる腕力が無いのよね。」
会長ががっかりしながら答える。
桜は、
「囮は大丈夫なのが・・・」
いろはが、口を挟んだ、
「お姉ちゃん、それは、させない約束でしょ?」
「取り敢えず、最後まで聞かせて、」
会長が促す。俺はいろはをなだめながら、予想通りの話を聞いた。
姉達の案は、俺が女装して囮になり、近くの大学のラグビー部に知り合いがいるから協力してもらうそうだ。とのこと。
会長は呆れた様子だが、小雪委員長は今朝俺をチェックしまくっていたので、納得の表情だった。
「桜ねぇ、ひとつ聞いていい?」
桜は頷く。
「ラガーマン達のお礼って何か考えてる?」
さくらは誤魔化そうとする。
「お礼にデートするんなら、自分で行ってくれるよね?それだったら、その案に乗ってもいいよ。代理デートは嫌だよ。」
いろはは不満そうだ。
会長は、
「もしかして、実際に代理デートしたことあるの?」
答えずに話を進めたが、お見通しの様子だった。
「ラガーマンの代わりに僕の中学の友達と先輩で柔道やってる人に頼むのはどうかな?」
「その人達のお礼は?」
さくらが尋ねる
「うちで作戦会議やって、その時に姉ちゃん達の手料理食べさせたら、現場が沖縄だって飛んで行くよ。別に、変な接待なんか要らないから。」
会長は姉達を懇願の眼差しで見つめる。
桐が了解の返事。俺が桜の作戦をしっかり見抜けた事に対するご褒美だとのこと。いつの間にか居なくなっていた小雪委員長が荷物を抱えて戻って来た。
忘れ物、没収品なんかで変装に必要な制服、カバン等、一式揃っている。
小雪委員長は、サイズを確認したいから試着するように言って、ちょっと仕切られたスペースに引っ張られた。諦めて着替えると、
「パンツどうする?洗ってあるよ!」
委員長、楽しそうだな。
「要りませんよ!」
出来上がりを見て、いろは意外は満足して、小雪委員長は、スマホで撮影している。
「絶対アップしないで下さいね!」
いろはが委員長を睨み付ける。
スカートは、短か過ぎで没収されたものだと言う。トランクスとあまり変わらない。
ウィッグは、姉達に変装する時じゃあない別の髪型を頼んで見た。誰かに変装していて、ターゲットにされても怖いので、姉妹の誰でもない誰かになりたかった。流石にウィッグは忘れ物にも没収した物にも無かったので、別途用意してくれるみたいだ。
頼りになりそうな友達に連絡した。地元の公立高校に通っている。
不審者対策の話をすると、姉達を心配して今からでも行くよという快諾を貰えた、先輩二人も同様との事。明日19:00から、うちで作戦会議をする事になったので、腹ペコで来るように伝えた。会長、委員長も来るのでちょっとしたパーティーになりそうだ。
今日の作戦会議は終了。着替えようとしたら、姉達が、そのままで帰ろうと邪魔をする。会長も似合ってるからいいんじゃない?なんて、助けてくれない。委員長は、校則に触れていないから大丈夫だと言ってスマホを構える。いろはが、ひとり反対して泣き出しちゃったので、なんとか着替えが出来た。
帰り道、
「いやぁ、いろはが居なかったら、あのまま帰らされるところだったよね。ありがとう!助かったよ!」
なんか首を振る、多分『どういたしまして』だろう。
「今回の作戦はさ、いろはにも、雨にも、姉ちゃん達にも怖い思いさせたく無いからさ、女装くらいでなんとかなるなら、嬉しいくらいだよ。」
何か言いたそうだが、喋るとまた泣きそうなので、明日のメニューとか、話題を変えて見た。
やっと落ち着いたいろはを家に送って、帰宅した。明日の作戦会議の準備しなくちゃね。