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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第3章
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引越し

 バスを降り、家に向かって歩くと、

「も、もみじ殿!」

声をひっくり返した楓は、

「せっ××をねだる、権利も与えられているのだが、別の日に権利を保留して別の日にねだっても良いでござるか?」

仰天の発言だったけど、『せっ××』は恥ずかしさで口がまわらなかった『接吻』なんだけろうな。伏せ字みたいに聞こえてもっと過激なおねだりだと思って冷や汗をかいてしまった。

「今日がリミットでござる!」

諦めてくれるのを前提で、楓の口調を真似て答えた。

「では、そこの公園にて!」

意外な回答に驚いたけど、聞き間違いした方じゃなく、『接吻』で正しい事は確認出来た。公園では大胆過ぎるし、そもそも、松太郎の時じゃ無いと、出来ないからね。

 積極的に公園に進んでベンチに座った楓。隣に座ると、俯いて無言を貫いた。

「こっちを向いて、目を閉じて!」

そのとおりにした楓は、カナヅチのコが、プールに顔を付ける時の様に頑丈に瞼を鎧にしていた。左手で背中を支え、右手の人差し指でそっと唇に触れた。いつも不明瞭なアルトの武士口調を発している声帯と同一とは思えないソプラノが短く響き、楓は失神してしまった。慌てて抱き止めて、羽織っていたシャツを脱いで、楓の腰に巻いておんぶして帰った。ちょっとしたジョークのつもりが、大変な事になってしまった。このまま家に着いたら、どんなペナルティーになるのか想像するのが恐ろしい。何とか帰宅すると、皆んなが驚いて集まった。正直に経緯を説明すると、意外な事にお咎め無し。フェイクのキスは、ジョークの範囲内だし、おんぶの時にシャツを巻いてあげたのが高評価だった。

「タヌキ侍、もう起きたら?」

桜が楓の頭を突いた、

「たった今、起きたでござる!」

「いつから気が付いていたの?」

桜が畳み掛けると、観念した楓は、

「シャツを巻いて貰った頃でござる。」

「殆ど、最初じゃん!」

一同大笑い。


「そうそう、もみじ待ってたんだよ!」

桐に手を引かれ3階に上がった。3階は種苗会社の古い資料を保存する部屋が4つと、それをデジタル化する為のパソコンやスキャナなんかの部屋がある。姉弟妹で読み取らせたり、キーボードを叩いてハードディスクに詰め込んで行く。高校生のバイトとしてはまあまあのバイト代を貰っている。デジタル化出来た資料はシュレッダーするのでダンボールで埋まっていた部屋がだんだん空きスペースになって来ていた。

「物置にしている部屋からベッドを運んだから、未入力の資料をそこに運んで!」

資料部屋には、物置部屋で棚代わりにしていた2台の二段ベッドが分割しておいであった。

「彩花が引っ越しで来るんだって!」

「どうして急に?」

「なんでも、ウチの弟が女子更衣室や女湯を、堂々と覗いたんだって。そのペナルティーらしいよ。」


 私達が出掛けたあとのお話し。

「ねえ、芒ちゃん!彩花にも、もみじのヒミツ教えていいかしら?」

美月は、彩花との仲や、彩花が松太郎を想う感覚を話し、イーブンでいたいと主張した。芒は大歓迎で、3階の開拓を思い付いたそうだ。

「松太郎になってサッサと片付けて下さる?」

美月の催促が厳しいので、慌てて部屋に帰って、ペンダントを松太郎に掛けた。

 3階の資料部屋は、元々寮だった頃、普通に1人住んでいた部屋なので、片付けさえすれば、収納たっぷりの結構住みやすい部屋になる。資料のダンボールを回収に行くと、それぞれ小雪、彩花、楓、こころの部屋になっていた。

 こころは遠距離通学で、引っ越しを考えていたが、一人暮らしでは餓死するのが目に見えていたので、バス・地下鉄・地下鉄・バスと乗り継いで頑張って通っていたそうだ。彩花の部屋を開拓する次いでに、自分も越して来たいと言い出した。

「こころも、覗き(・・)の被害者だもね、権利あるわね!」

芒はウエルカム。こころはお母さんにメールで相談すると、3分で了承メールが来た。通学がどうこうとかじゃ無く、友達の家って言うのが決め手らしい。だいたい、子供の頃からこころの家に友達が遊びに来たことは無く、友達の家でのお泊まりもウチが初めてなので、お母さんはかなり喜んでいたそうだ。

 楓もそうしたい筈とこころが言い、物は次いで、資料部屋を一気に片付けて、4つと住める部屋に開拓した。楓のおじいちゃんは、体調が悪く、今までの生活が難しくなって来て、伯母さん(おじいちゃんの娘)が一緒に暮らそうと誘っているそうだ。

「某がめんどうを見られれば良いのだが、未だに面倒を見て貰っておるからな!」

って、こころの家に居候を検討していたが、こころのご両親と生活する自身が無くて、伸び伸びになっていた。帰って来て説明を聞いた楓は、

「祖父にツナギを飛ばすでござる!」

自分の部屋(予定地)に飛び込むと、おじいちゃんに電話をしていた。

「もしもし、おじいちゃん?楓!あたし学校の近くのお友達の所で暮らそうと思うの。おじいちゃんと離れるの寂しいけど、おじいちゃんは、おばちゃんち行った方が便利よね?・・・うん、・・・うん、解った。・・・じゃあ、明日荷物出しに帰るね、うん、バイバイ!」

武士は何処に?いつもより2オクターブ可愛らしい声が隣の部屋に漏れて聞こえていた。皆んなは『武士の情け』と、聞かなかった事にしておいた。

 荷物を取りに帰っていた彩花は、お姉さんとそのカレシさんに手伝って貰って、引っ越しはほぼ完了って感じだった。

「私、来年にはオバサンかも?」

彩花は、やや不満そうに、

「えっ、老けて見える訳じゃないし、どっちかって言うと童顔じゃない?ちゃんと女子だよ!」

いろはがフォローした。

「アネキが一人暮らししたいってオーラをメラメラ出してたのよね。って言うか追い出したがってたのよ。」

彩花のお姉さんは社会人で、二人の住んでいるアパートは転勤族のお父さんが借りてくれているそうだ。彩花が学生のうちはそうして貰う事になっているので、姉妹で住むのは絶対条件だったが、ウチの家賃、食費込み4万5千円をお姉さんが負担する事で交渉成立。

「お姉さん、太っ腹だね!」

少なくても姉達は、私達の生活費なんて払う筈ないな。

「いや、ホテル代と比べると大した事無いんじゃ無いかな?カレシさん実家暮らしだから、夜な夜な押しかける訳に行かないでしょ?金土は必ずお泊まりだし、平日もしょっちゅう遅くに送って貰っていて、その日はお風呂もシャワーもしないで寝ちゃうからね。私がここに来たら、アイツら毎晩タダでしょ?」

なる程、老けてオバサンになる心配じゃ無くて、甥か姪の誕生を予想してたんだね。

 4つ目の部屋は小雪。

「別に今迄みたいに、誰かの部屋にお泊まりで良かったんだけどね、寝ぼけていろはにキスしちゃったから、他の皆んなも襲いそうだから、部屋を貰う事にしたんだ。ん?松太郎、ヤキモチ?ゴメンゴメン、いろはの唇奪ったお詫びに、私の唇で勘弁してくれる?」

小雪は背伸びをして唇を窄めた。どうせジョークなのは見え見えなので楓の時の様に指で触ろうとすると、『ガブッ!』甘噛みの域は軽く越えた痛さで噛みつかれた。

「楓殿の二の舞いは踏まぬでござる!」

小雪は嬉しそうにケタケタ笑った。

 物置部屋が資料のダンボールで埋まった頃、それぞれの部屋の掃除や運んだ荷物の片付けが終わっていた。これから晩ごはんの支度は辛いと思ったら、いろはと雨が、

「おなか、空いたでしょ?引っ越し蕎麦出来たよ!」

ズルズルと胃袋を満たした。

「そう言えば、琴音と美羽は?」

「あのコ達は、ショタよりも、柔道部の猛者達みたいのがタイプなんだって。」

芒はサラッと答えたが、そんな言い方だと、残っている皆んなは、僕がタイプって聞こえるのは気のせい?地雷を踏みそうなので、

「楓とこころの引っ越し、手伝いに行くの?」

話を変えてみた。

「桐が工程表作っているからちょっと待ってね、ロゼさんに車頼んだから、連休中に結構片付きそうよ。」


 桐が工程表を配り、作戦会議が始まった。

 桜チーム、受取係

桜、松太郎、彩花、小雪。

 片付けと掃除をしながら、彩花の残り荷物を姉&カレシが運んで来るのと、ネットで頼んだカーテンや布団を受取る。楓の荷物を受け取る。こころ荷物を受け取る。もちろん部屋に搬入する。小雪はアチコチの部屋に分散していた荷物を集め、新しく出来た自分の部屋纏める。

 桐チーム、楓係

桐、楓、夢愛。

 バスと地下鉄で、楓の家へ行き、居候の準備でほぼ終わっている荷造りの仕上げと搬出。後でくるロゼさんのワンボックスに積み込む。乗るスペースがあれば一緒に乗って帰るか、無ければ地下鉄とバス。

 芒チーム、こころ係

芒、雨、いろは、こころ、カレン、美月。

 ロゼさんのワンボックスでこころの家に行き荷造り。楓の荷物を運んだロゼさんが荷物の回収に行き、積み込む。ワンボックスには乗れそうに無いので、バス、地下鉄、地下鉄、バスで帰ってくる。

 計画通りに作業は進み、夕方こころの荷物が届いて、荷解きが終わった頃、桐チームが戻った。最終的な、収納や片付けは自分でするしかないので、あとは、本人達に任せた。

 ロゼさんにお礼を用意していたが、車もガソリンも会社のだからと、受け取り拒否、晩ごはんをご馳走してくれればいいって、言ってくれた。ワイワイ食事をしてロゼさんを見送った。


 部屋の片付けをしていた楓が、バタバタと降りてきた。

「衣類棚に衣装が詰まっているでござる!」

「雨にお下がりと思って取っておいたんだけど、あの子、急に伸びちゃったから、行き場が無くなっていたの。楓の私服って、夏のスウェット上下と冬のスウェット上下しか持ってないって言ってたでしょ?リサイクル持って言っても何十円か良くて何百円だから、気に入ったら着て欲しいの。一応似合いそうなのを、こころと分けたからね!」

桐はそう言うと、楓の手を引っ張って、3階に行った、芒もこころを捕まえあとを追った。

「いいな、私も着せ替えして遊びたいな!」

桜は間違い無く僕と視線を合わせようとしているが、無視を貫こうとした。

「じゃあ、もみじの部屋に行こうか!」

いろはが代わりに返事をしてしまった。部屋に戻り、爆睡中のもみじにペンダントを掛けようとしたら、

「ショタが女装するのが面白いんじゃない!」

2人掛かりで身ぐるみ剥がされ、

「武士の情けでござる、これは自分で履き替えるでござる!」

なんとかトランクスだけは死守出来た。

しばらく、着せ替え人形になってから、桜のお気に入りを皆んなに披露した。昨日、雨のワンピで皆んなを驚かせていた楓は桐セレクトでボーイッシュに変身これもなかなか似合っていた。普段は、周りの視線を回避することに全力のこころが、大変身して更に驚かされていた。極太の黒縁メガネは伊達だったそうで、メガネとマスクを外し、カーテンの様に顔を覆った前髪をピンで留めると、色白で少しポッチャリした美少女が現れていた。ふんわりしたブルーのワンピがよく似合っていた。

「恥ずかしい。」

直接こころの口から声を聞いた。

「大丈夫、似合ってるよ!」

「ありがとう!」

それぞれもう2回衣装替えをして、それぞれの部屋に帰って行った。

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