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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第3章
54/139

2つの金貨

 ソフトボール選手たちが着替えている間に先に帰宅。ダイニングとリビングを仕切っているパーテーションを外した。元々一つのスペースだったので、それ程苦労はしない。ソファーを壁に押し付けて、テレビは倉庫に片付けた。低いテーブルの脚を取り替えて、ダイニングのテーブルに合わせると、ちょっとしたパーティー会場の出来上がり。下拵えして置いた料理を仕上げていると、選手御一行様が到着した。これが柔道部の猛者達の祝勝会だったら、玄関からテーブルに直行なんだけど、乙女達の場合は、シャワーを浴びて、私服に着替えてからなので、もう少し時間に余裕がある。急いで仕上げて、テーブルをお皿で埋め尽くした。

 パーティーでは、MVPは誰かと言う話で盛り上がっていた。連続奪三振のカレン、決勝グランドスラムの芒が有力だと思っていたけど、9球で9つのアウトを取った楓が受賞した。滅多に無さそうな珍記録なので、本人以外全員の手が挙がっていた。いろはがちょっと席を外したと思ったら、表彰状を、持って登場した。


 最優秀選手賞

牧野 楓殿

あなたは、相手打者の実力を考えず、ど真ん中に投げ込み、仲間達のファインプレーを呼び出し、勝利に貢献したことを、ここに讃えます。


令和元年11月1日

応援団団長 花田 松太郎


恥ずかしがる楓を無理矢理表彰した。

「副賞は、もみじか、松太郎とのデートだよ、それでも辞退する?」

いつの間にか勝手に私、副賞になっちゃっていた。

「では、謹んでお受けいたそう!」

拍手の中、もみじと松太郎の選択になると、

「某、殿方とお出掛けなど、緊張して無理でござる。もみじ殿にお願いしてよろしいでござるか?」

明日から3連休なので、二人でお出掛けする予定。行き先は任せるでござると言うので、

「なんにも面白くないかもしれないけど、行ってみたい所があるんだ、、、ってもみじか言ってたなあ。」

危うくバレる所だった。ちょっと探検したいらしいと、なんとか誤魔化せたかな?

「ミステリーツアーみたいに楽しむでござる」

と言う。取りあえずは、明日のお楽しみにしようかな?部屋割もスムーズに決まったようで、僕の部屋にお泊まりは、一般的に不自然ないろはは実家に帰り、ベッドが足りなくなるので、小雪も秋野家にお泊まり。こころは、芒には耳打ちするようになったので芒の部屋にお泊まり、楓と別室でも大丈夫になっていた。


 秋野家のいろはの部屋では、

『ゆきちぃ』

寝ぼけた小雪がいろはに抱きついた。あどけない寝顔を眺めていると、しっかりクリンチしていた小雪はいろはとの距離をゼロにすると、口びるが重なった。

『ペロペロしないと思ったら、もみじなのね。』

更に唇を楽しむと、ガバっと跳ね起きた。

「あっ、いろは!」小雪は懺悔するように、松太郎ともみじに対する想いを話した。カレンや美月と同じ、『もみじの親友枠』で満足しているそうだ。ただ二人とは違い、『松太郎の彼女枠』は狙っていないとの事。

「ああ、ファーストキスはいろはか。あっゴメンね勝手にキスした上にガッカリして。」

「寝ぼけてる時はノーカンでしょ?それに学校祭終わった日、寝ぼけてもみじにキスしてたよ!」

全く覚えていない様子だった。

「じゃあ私は、寝ぼけた時もカウントする事にするよ!じゃあ、おやすみなさい!」

小雪はもう一度距離をゼロにして頬ずりしてさっさと寝息を立てていた。


 一方、美月の部屋では、

「私の部屋に来たってことは、抱かれたくなったのかしら?」

「そんな訳無いじゃん!」

彩花はベッドに潜り込んだ。

「では、身の危険は感じなくって?」

「美月が私の嫌がる事なんてする訳無いでしょ?」

美月がフリーズすると、

「美月に謝ろうと思って来たの。」

更に『?』を大量に浮かべた美月に彩花が話を続けた。

 中2のある日、美月は親友の彩花に自分がレズだとカミングアウト。彩花は性的少数派が身近にいた驚きと、これから告られる事にどう対応すれば良いのか悩んだそうだ。

「私、秋野さんが好きなの!」

まさかの発言に驚きを重ねた。それ以来殆ど話をしていなかった。

「私、ずっと親友だと思っていたのに、私じゃなく、秋野さんを選ぶなんて、すごくショックだったの。でも、ここに来るようになって、もみじと松太郎君が同一人物かと疑ったりして、色々見ていたら気づいたんだ。あの時美月が秋野さん好きなのは、私が誰か男の子を好きになったの同じで、私達の親友関係になにも影響することじゃ無かったのよね。変な対応しちゃってごめんね。」

「少しは、オトナになったようね!また親友と思っても差し支え無いわよ。」

2年近く積もり積もった事を、寝落ちするまでお喋りしたそうだ。


 翌朝、ちょっと雰囲気が違った、小雪、いろはペアと美月、彩花ペアに聞いたら、昨夜そんな事があったそうだ。もう一組様子が違うのは、楓とこころ。今までは楓の影にこころが隠れているんだけど、今朝は逆転していた。隠れている楓は雨のワンピースを着ていた。

「楓、似合ってるよ!雨だと短過ぎたけからね、丁度いい感じだね。」

「えっお兄ちゃんがスカート丈チェックするの?」

「うん、良くアドバイスして貰うよ、凄く参考になるけど、露出にはちょっと厳しいかな?」

「ウチのアニキも弟も、私が何着たってなにも言わないよ!ハダカでウロウロしたらなんか言うかも知れないけどね!」

琴音が驚いていた。

「妹ちゃんのファッションに口出しするなんて、松太郎君、シスコンなのね!」

美羽のツッコミに返しを考えていると、

「私もブラコンだから、丁度いいの!」

雨の返しで一件落着。朝食の支度が出来たので、

「じゃあ僕、種苗会社でバイトだからお先に失礼するね!」

一旦玄関から出掛け、開けておいた非常口から部屋に戻り、爆睡のもみじにペンダントを掛けた。松太郎が女装した時には穿けないようなショーパンを選んでおいた。タンクトップに松太郎の(メンズ)シャツを羽織って出来上がり。ダイニング?リビングと繋いだままのスペースに行くと、皆んなの評判は結構良かった。朝食に参加して、楓をミステリーツアーに誘った。


 バスで新そうせい迄、地下鉄オーロララインに乗ってクレッセントラインに乗り継いだ。道中、先日の白昼夢の話をすると、

「ラノベの様な話でござる。その時の金貨かそれでござるか。」

夢の中で会ったエイミーが言っていた元町駅は、終点から2つ手前。臥龍駅で降りてみた。

エイミーの話を思い出しながら商店街から東に行くと、消防署、交番、幼稚園、団地が続いて、ドラッグストア、大きなスーパー。銀行の角を曲がって高校があって、もう少しで道場がある筈の場所だが、肝心な住所は聞いていなかったし、地名も違うので探しようが無い。色々探して、街づくりセンターと駐車場が話にあった組み合わせにピッタリだった。センターの職員さんに、

「向の駐車場って、昔、墓地だったりします?」

「オカルト研究会かしら?このセンターにはオバケ出ないわよ!」

「いえ、ちょっと探している所があるんです。この辺りに武道の道場って有りませんか?」

「ああ、ホヅミさんね!ここ真っ直ぐで看板が出てるからすぐ解るわ、『八月朔日道場』って!」

 早速、道場に向かう。インターフォンから聞こえたのは若い女性らしい。白昼夢の話なんか出来ないので、あるラノベの聖地巡礼と言う事にしておいた。英太もエイミーもいなかったし、対応してくれたお姉さんは、エイミーの話に出てきた人物とは思えなかった。道場のパンフレットを貰って、少し武道の説明を聞いてお暇した。

 50年前のエイミーが通ったはずの女子高に行って見ると、共学になっていたり、早朝から売り切れになるというお餅やさんは移転してしまっていた。

「やっぱり、違う世界なんだね、そっくり過ぎてびっくりだけどね。」

全くデートっぽい所に行っていなかったので、大通公園に寄ってお散歩。トウキビワゴンに行こうとすると、

「セキレイのそばのドーナツショップに行くのは如何でござろう?」

グラリと不思議な感じを覚えたセキレイの前の歩道に立って見たけど、何も起きなかった。25年前のエイミーの世界で入ったドーナツショップは同じ位置にあった。あのと同じドーナツを食べて、エイミーやみーくんに聞いた話をすると、楓は興味津々聞き入っていた。

「この金貨で、もみじに変身出来たんだよ!」

あっバラしちゃった!

「やはり、そうであったか。某、口は堅いし、お喋りする様な友人も無いから、心配無用でござる。あっ真田氏にはバレてしまうが!そこはご容赦願いたい!」

楓は怒っていない様だ。毒を喰らわばって事で、金貨の効果を説明すると、

「もしエイミー殿に会えたら、金貨2つ所持していた可能性があったでござろう?もう1つ有れば松太郎殿ともみじ殿が同時に起きていられると言う算段かな?」

「うん、何が起きるか解らないけどね、試す価値あるでしょ?」

収穫は無かったけど、楓が怒っているどころか喜んでいる様子なので、デートとしては及第点ってとこかな?彩花にもカミングアウトしちゃった方がいいのかもしれないな。反応がちょっと怖いけどまあ何とかなるかな?地下鉄とバスを乗り継いで家に帰った。

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