球技大会・初日
球技大会の週。それまではまたキャッチボールと素振りくらいしか出来なかったが、意外なことに、楓とこころがピッチング練習を初めていた。カレンのコーチングのお陰もあるけど、二人とも結構な速球を身に着けていた。コントロールは怪しいが、ど真ん中を狙って適当なコースに散る感じだった。
いよいよ当日。各学年5クラスと先生チームで計16チーム。決勝まで戦えば4試合。初日は一回戦の8試合。グランドの対角線上で同時に2試合行われる。外野を守っていると、後ろからボールが飛んでくる恐れはあるが、今まで事故は無いそうだ。
いきなり第1試合に登場した1の1は、3の2と対戦。先発のこころは、フォアボールを連発したが、被安打1、2失点でからチェンジ。裏の攻撃で12点奪いコールド勝ち。1日応援に回ることになった。因みに、男子は人数が少な過ぎるので正式な試合はなく、希望者にテニスコートが解放されているが、殆どが応援に励んでいた。
空っぽのコートに彩花が誘ってくれた。
「3年になったら、正式種目になるかもしれないから、練習しておいたら?」
テニスの特訓が始まった。練習している僕等を観ている『ななゆき』コスプレユニフォームの姉達を観にギャラリーが集まり、正式種目の観戦者が疎らになってしまい、放送で応援を促すハメになっていた。ちょっと盛り上がりの妨げになっちゃったので、テニスコートから撤退した。
バスケの試合を応援しに体育館へ。花田シスターズが本職のバスケ部に圧勝していたのは有名なので、どのクラスもバスケには力を入れていないようだった。どう見ても、体育会系じゃないコが多かった。ウチのクラスは、運動能力でソフトボールの次のランクだったので、楽勝で2回戦に進んだ。
格技場の卓球は、クラスの中でいわゆる運痴が集まっていたので、期待はしていなかったけど、相手も同じ感じだったようで、低レベルながら競り勝っていた。3種目とも残るのは、1年では珍しく、今年はウチだけだったそうだ。
早く終わり過ぎて気が抜けた感じの初日を終えた。出番の無かったカレンと楓は余計そんな感じだった。またウチで合宿して気合を入れ直すそうだ。自宅でも松太郎でいられるのはちょっと嬉しいな。
合宿と言っても、特別な練習をする訳ではなく、この数日の日課のようになっていたキャッチボールと素振りくらい。練習しているうちに、雨に手伝って貰って晩ごはんの支度。大皿にナポリタンとカルボナーラ、それとサラダ。一度に焼けないピザは、胃袋の様子を伺いながら、焼き上がりを提供する。練習後、お風呂経由でダイニングに選手達が集まって来た。リビングに別れるより立食がいいかと思ったメニューがなかなか好評で焼き上がるピザは皿に留まる事なく消えて行った。皆んなの胃袋にオーブンの能力が追いつかず、用意していたパスタとサラダでなんとか間を繋いでオーブンに頑張って貰った。皆んな明日の活力だと喜んでくれたようだった。
いろはを実家に送ってからお風呂。掃除をして、またキッチン。片付けは琴音と美羽が殆ど済ませていたそっちは任せ、朝ごはんとお弁当の下拵え。と言っても簡単に済ませるつもりなので、鮭の切り身を解凍して、お米を研いで炊飯器にセットするくらい。ササッと熟すと、
「ねえ、ホントに松太郎君よね?」
琴音は、僕の胸に手を当てた。
「あら?Pね!ごめんね、私達先週までは、もみじが松太郎君の女装姿だと思っていたの。スーパー銭湯でその疑いは晴れたんだけど、もしかしたら、松太郎君が男装したもみじじゃないかと思ったのよね。雰囲気とかもそうだけど、料理の腕前、なかなか真似出来るレベルじゃないでしょ?」
申し訳無さそうに謝る琴音に比べ、美羽は、
「何処かに男・女の切替スイッチ付いてないかしら?」
襟足の髪をかき分けてスイッチを探していた。
「花田種苗って植物の品種改良とかの会社よね?ホントは人間の品種改良してるんじゃない?三姉妹はもちろんだけど、雨ちゃん、もみじ、松太郎君、皆んな美形で賢くて!」
「いや、普通に野菜とか、お花の研究だよ!」
「疑っていたのは私だけじゃ無いのね?」
パジャマ姿の彩花と、中等部の頃のジャージを着た楓とこころが乱入。
「伊東殿が確かめた所で、解決であろう、銭湯での姿は圧巻であった。おなごの某でも目の保養になったでござる。」
琴音と楓はクリアかな?こころが楓に近付くと、
「なるほど!名案でござる、松太郎殿と、もみじ殿が同時に会ってくれれば解決でござる。」
こころはドヤ顔だった。
「もみじも最近たまたま来てるけど、そんなに頻繁に来てる訳じゃないんだ、そのうち一緒に会えると思うよ。麦茶でも飲む?」
ひとまず、キッチンを追い出し一息付いた、トレーにグラスを並べ、楓の分は氷無し、こころには、ガムシロを付けた。リビングに運ぶと、ソファーに座った彩花のパジャマが
上しか着ていないのに気付いた。スラリと伸びた脚の日焼けしていない部分がしっかり見えてその上を覆ったフリルの付いた小さい布がチラリ。トランクスとパジャマのズボンでは、中の反応が見え見えだと焦ったけど、幸い?特に反応せずに済んだ。あっそれに下着じゃなくアンスコじゃん。彩花の事だから、僕の反応を観察してるんだろうな。
麦茶を配ると彩花は、
「楓の氷無しと、こころのガムシロってどうして知ってるの?」
あっ不味い、もみじでいる時のお喋りで話したんだった。
「ん、あ、ああ、もみじに聞いたんだったな確か。うん。」
疑惑の火に油注いじゃったかな?
「松太郎殿、先週もみじ殿と取り決めた呼び名で我等を呼んでおられると、真田氏が申しておる。」
そうだった、もみじとしては、仲良くなったけど松太郎が殆どお喋りもしていないクラスメイトを下の名前で呼ぶのって可笑しいよね?
「ゴメン、皆んなそう呼んでるからつい!馴れ馴れしいよね?」
「某、祖父以外の殿方にそう呼ばれた事が無かったので、嬉しいでござる。某もしょう君と呼んでよいであろうか?」
「私も、彩花でいいよ!美月が『美月』なのに、私だけ『田辺さん』は悲しかったのよね。」
こころも頷いている、多分『私も』ってう事だろう。美羽と琴音も賛成した。
「これで、しょう君ともみじが同一人物だった場合、変身しても呼び方気にしなくて楽になったわね!」
まだしっかり疑っている美羽は微妙なツッコミを入れてきた。
ペンダントに加工した謎の金貨から何かを感じた。温かいに近いような、そうでないような不思議な感覚。まさか、今もみじになるの?発動のタイミング悪過ぎでしょ?全身が痺れる感じがして急に眠くなった。次の瞬間、視界がダブった。今見えているリビングにウチの玄関が重なって見えた。玄関のほうが実像に思えてきたころ、チャイムが鳴った。
すっかりリビングの景色が視界から消え、玄関の景色だけになった。扉を開けてくれたのは美羽だった。リビングには、ソファーで爆睡の松太郎?僕?私?気付かれ無いようにトイレに避難して、パーカーの膨らみが本物か詰め物か確かめた。変身した方のもみじだったので、一応下の方も確かめた。同じ結果だった。鏡を覗くと、金貨のペンダントをかけていることに気付いた。きっと二人同時に現れて、同一人物の疑いを回避する魔法だろう。多分都合良く進みそうな気がしてリビングに戻った。
「しょう君寝ちゃってるの?」
「あまりにも急ゆえ、病では無いかと心配していたでござる!」
「大丈夫、たまに張り切り過ぎるとガス欠しちゃうのよね。」
松太郎に膝枕させて、飲みかけの麦茶を飲んでお喋りに参加した。流石に、同一人物を疑う筈無いと、思ったが、
「そこまで疑うでござるか?」
こころは、姉達の誰かが、もみじになりすましているのではと疑っていた。この際なので、スマホで姉達を呼んだ。
「しょう君のスマホ、もみじが、顔認証で使えるの?」
また要らないネタを提供してしまった。まあ、
「お姉ちゃん達と私としょう君は、スマホじゃ区別出来ないみたいなの。」
ってホントの話だから心配いらないかな?降りてきた3人を見てこころも納得。一件落着、同一人物の疑いは晴れた?いや、本来同一人物なので騙し通したって言うのが正しいよね。桐と芒が爆睡の松太郎を部屋に運んだ。グラスを片付けて部屋に戻ろうとすると、
「もみじ殿はこちらで宿泊かな?」
お年頃の従兄妹で同衾は不自然だけど、あの爆睡を放置したく無いし、学校に行くまでには起こさなくちゃならないから、強行突破しちゃいましょう。
「うん、お泊まりの時はだいたいしょう君の部屋だよ。」
「いろは殿は、ご存知なのかな?」
「うん、大丈夫よ!じゃあ、おやすみなさい!」
急いで部屋に入った。
1話投稿が2019年4月25日でしたので、明日で1周年です!読んで頂きましてありがとうございます。来週から5月ですので、1日から5日まで、5人姉弟妹に因んで、毎日投稿します。暇つぶしのお役にでも立ちましたら嬉しいです!
 




