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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第3章
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タピオカカフェ

 追いかけて来た実行委員は、

「この後の『部活対抗・仮装のど自慢』の審査員やって下さい!」

断れない空気に包まれ、気が付くと審査員席に座っていた。審査員長席には、委員長が夏休みのコスプレイベントで着た、ピンクちゃんになって座って、美術部の部長は石膏像、合唱部の部長は、ショパンかベートーベンか解らないが、毛先が、ロールしたカツラだった。放送部は、お天気お姉さん。天気予報の人気キャラを腹話術人形みたいに抱いていた。教頭先生は、ヒゲを描いて男装。日本史の先生は『戦後の女性』と言って、ヨレヨレで汚れてツギをあてた着物にモンペ、普段はバッチリメイクなのにスッピンで、フワフワの巻髪も引っつめていた。時代考証をしっかりしているのだろうな。あと先生が3人、あまりヤル気が無かったようで、夢の国で定番のネズミ耳のカチューシャ、去年のハロウィンで取っておいたんだねって感じのデビル角、慌てて百均に走ったと思われる被り物。ちょっと温度差が感じられた。

 対抗戦に参加するのは、部活展示とかのない体育会系の部活で、アイドルユニットの完コピや、芸人さんのモノマネ、アニメキャラやゆるキャラ等、観ても聴いても楽しめるものばかりだった。上位の部には賞金が出る。遠征費等ほとんど自腹らしいので、僅かながらでも足しにしたいと各部、本気モードだった。

 優勝は、硬式テニス部。人気のプロテニスプレイヤーのモノマネで、キレてラケットに八つ当たりしたり、カタコトの日本語でのインタビューが大ウケ。審判の台が壊れ、修理は来年度の予算まで待たされる筈だった所、賞金だけでは足りないみたいだけど、なんとか着手出来るようだ。

 表彰式のプレゼンターに選ばれ、目録を持ってステージに上がると、『桃姫』の衣装を制作した手芸部員が、デザインの説明や制作秘話等を披露。すっかり僕のためのステージみたいになり、『ピーチ姫』、『桃ちゃん』なんて声援が飛び交った。主役の筈のプロテニスプレイヤーが霞んでしまい、これでいいのかな?なんて思いながらも、盛りがってるからいいのかな?不安になって、審査員長席に視線を送ると、ピンクちゃんが親指を立てて返事をくれたので一安心、大喝采で初日を終えた。


 ようやく解放され『桃姫』の衣装を脱ごうと、器具室に行った。AAAの大道具さん達が、片付けをしていた。お互いに労って、少し手伝って、着替えるスペースを作った。着替えを始めると、

「あ、あああっ、俺達、外で待ってるから、終わったら教えて!」

ゾロゾロと出ていった。引き留めるのもおかしいかな?まあ、サッサと着替えて、片付けを手伝っていると、いろはが呼びに来て、タピオカカフェの仕上げに借り出された。大道具さんは他のクラスなんだけど、当たり前のように、手伝ってくれて、カフェが仕上がった。

「レシピちゃんと覚えた?」

振り返ると桐が、レシピを突き出していた。

「えっ?劇やったのに、コレもするの?」

「ホールの方が、良かったかしら?一応希望を聞いてあげようと思って、衣装は用意してあるわよ!」

「いえいえ!是非ともキッチンで働かせて頂きます!」

試作品を評価してもらい、なんとか合格して、学校祭の初日を終えた。


 家に帰ると、学校で話せていなかったカレンと美月がAAAの劇、特に僕の演技を高く評価してくれた。主演女優賞だと大絶賛だが、男の僕がお婆さん役ってやっぱり女優なのかな?かなり微妙だけど、まあいっか。雨は観たかったと残念な様子だったが、動画にしてあると聞いて、喜んでいた。

明日の最終確認。ホール担当のいろは、カレン、美月はメイド服の試着をして、姉達は割烹着。この流れだと、僕も割烹着だよね。案の定、僕の分も用意されていた。まあ、表舞台じゃ無いから気にしないでおこう。いろはのメイド服を堪能する間もなく、割烹着の試着をさせられた。三角巾を被ると、そっくり四ツ子になってしまった。

「桃姫で女装のイメージが付いたり、こうやって、そっくりなのが知れ渡ったら、変装して替え玉って出来なくなるよね!」

姉達はそこに気付いてガッカリするかと思ったけど、別にそんな感じも無かった。髪を切ってまで、変装しやすくしたのにどういった風の吹きまわし?まあ突っ込んでも仕方がないので放っておこう。


 晩ごはんを食べて、終い湯に入ろうと思ったら、委員長が帰って来た。住人じゃないから、帰って(・・・)は、おかしいか?自宅よりここの方が学校に近いので、きっと泊まりに来ると思っていたが、色々忙しくて、やっと片付いたそうだ。脱衣所に直行、

「もみじ、一緒に入ろ!」

「委員長、ご飯は?」

「ポテチとかでなんとか生き長らえていたよ、忙し過ぎて、空腹センサー狂ってるみたい。」

「じゃあ、お茶漬け作るから、先お風呂どうぞ!」

お風呂のお誘いは、無事回避してお茶漬けを用意した。

 委員長にお茶漬けを出して、ザブンと風呂を済ませ、掃除をして上がると、また、大富豪のスタート待ちだった。私が加わり、本番スタート。結果は桜が大富豪、私もいろはもド貧民を逃れたので、いろはと2人で落ち着いて眠れるかと思ったら、

「ルールだから、よろしくね!」

空いた桜のベッドに委員長が泊まるらしい。いろんな人が泊まるので、姉なんてちっとも同様しなくなっていた。3人はちょっと狭いけど、私にとってはかなりの大舞台を終えた後なので、ゆっくり眠れそうだ。あんまりにも平然としているのを、桜は不愉快なようで、私を挟んでいろはとガールズトーク。動揺を誘う様な恋バナや、下着の話をしていたが、直ぐに寝オチしていたようだ。

 

 翌朝、桜の機嫌が心配だったが、意外と普通でホッとした。2日目の今日は、生徒の家族と、中等部の生徒限定で解放になる。雨は、

「私は両方だからVIPかな?」

「多分、ウチのクラスに来たら、そうなると思うよ、3姉妹(・・・)の妹ちゃんだって!」

ちょっと自虐っぽく言うと、

「クラスのコは、雨のお兄ちゃんが見たいって結構人気者だよ!入学式の時、目立ったからね!」

ご機嫌な雨を残して、早い登校。タピオカミルクティーの製造に取り掛かる。昨日水に浸しておいたタピオカを茹でる。開店までに冷ましておかなきゃならないので、キッチン担当は朝からハードスケジュール。

レンタルした巨大な容器から、並べた鍋に移し、茹で上がりを水切り。結構な力仕事だが、あと2人いる筈の男子は、配属されていなかった。メイド服着る様なキャラじゃないし、自分で言うのもおかしいけど、着ても大丈夫なのは僕くらいだからね。まあなんとか手は足りているから気にしないでおこう。

 一段落して、ホール組が到着。何故か一緒に委員長。

「びっしり仕事が詰まっているから、先に、味見に来たよ!」

本日の一杯目を献上すると、カップを両手で持って、ストローに吸い付いた。

「So Cute!」

カレンが叫んだ。ちょっと大きめサイズのカップと委員長のサイズ感が、殊更幼く見えた。皆んな,喉まで出掛かっていた言葉をカレンが代表してくれた形になった。委員長はスルーして、タピオカミルクティーを絶賛。学校祭にしては高い価格設定も納得と太鼓判を押してくれた。通常、4〜500円程度のコーヒーや紅茶を100円で出すのが相場の所、1000円はしない程度なのに、500円は高過ぎかとも思っていたが、売れ過ぎ無いように、意識しての設定だった。

 さあ、開店!メイド服に身を包んだホール組がお客様を迎える。ん?黒服に蝶ネクタイの男子が2人混ざっている。文句を言おうとすると、桐が、

「ホールとキッチン、どっちがいいか自分で選んだよね?」

満面の笑みでキッチンに戻った。

落ち着いて考えると僕があんな衣装で人前に出たら、姉達の男装だと思われて、人垣で仕事にならなかったかもしれないな。結果オーライ、キッチンで良かった気がしてきた。女子達に、キャーキャー取り囲まれるのが、迷惑としか思えないのは、高校生男子として正しい反応なのだろうか?姉達の身代わりだから、有り難みを感じないのかな?松太郎としてモテたら嬉しいんだろうか?どうでもいいことを考えながら、追加のタピオカを茹でた。

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