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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第1章
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テロ

一昨年の暮、俺が中2の年に、父の住むニューヨークに遊びに行った。植物学者で、いまはそこで研究している。母とは、雨が生まれて直ぐに離婚していた。その父が再婚する事になり、姉弟妹でお祝いを兼ねて、ニューヨークの年越しを楽しみに来た。新しい奥さんは、母とも面識のある日本人でやはり、植物関係の研究をされているそうだ。ハーフのお嬢さん、カレンが一緒だそうだ。俺達とと同い年と言うことで、(一応義妹になるのか?)彼女の案内でニューヨークを散策した。せっかくのお出掛けだったが、かなりのローテンションだった。航空会社の手違いで俺の荷物だけ行方不明になっている。

着替えがない。別に着ていたままで良かったのに、カレンの洋服を借りて着替えさせられた。姉達の悪ノリをカレンも気に入ったようで、全身コーデにメイク、ウィッグで完璧な6姉妹を完成させた。中学生向けのイベントがあったので、時差ぼけが酷い雨を残し5人で出掛けた。

駅から会場へ向かう送迎バスに乗っていた。9割強がたぶん、女子中学生だった。信号で止まると、銃声が響き、バスの表示番が撃ち抜かれた。覆面の男達が乗り込み、運転手が撃たれた。数人しかいない男子を引き摺り出しバスから放り出し射殺した。覆面達は銃口で牽制しながら、バスを進めた。

覆面達はスペイン語を話していたらしく、何を言っているのか解らなかったがカレンが理解出来、南米の売春組織に売り飛ばす為に拉致されたそうだ。

スキを見て逃げようと様子を見ていたが、覆面達の銃口がそれを許さなかった。チャンスが無いまま、船に乗せられた。身売りされるぐらいなら死んだ方がましだと、数人が船から身をなげた。極寒の海では助かる訳もない。

いつもは、強気の姉達も絶望し、身を投げるといって聞かない。俺は男だとバレたら即殺されるだろう。なんとか姉達だけでも助かって欲しかったのに、身投げなんてされたら、助かるものも助からない。「僕は、バレたら殺されるはずだから、姉ちゃん達だけでも生きて!もし僕が生きてたら一生何でも言うこと聞くから絶対生きて!」なんとか身投げは思いとどまってくれた。

しばらくして、港に着いた。陸に上がるかと思ったら、銃撃戦が始まった。覆面達は全滅。流れ弾を受けた女の子たちが何人も亡くなった。

別の覆面が乗り込んで来て、港には降りず出港した。

後から乗って来た覆面達は、アンチテロ集団でテロ集団を潰す非合法組織らしい。合法的な救出であれば、犠牲者を出さないよう、こんな滅茶苦茶な攻めは出来ないだろう。犠牲は出ても、犯人は殲滅、出来るだけ多くの被害者を救出するのが彼等のやり方だ。アメリカにすんなり返すルートが無いため、外交ルートがあるイタリア領の島に下ろしてくれるとのこと。港から離れきる前にまた銃撃戦が始まった。俺達を受けとるはずの組織が奪い返しに来た。アンチテロのメンバーの女性は船を出し、別の港に向かった。

更に運が悪い事に、天気が崩れて操縦していたアンチテロの女性は銃傷に加え、嵐によって壁や天井に打ち付けられ意識を失っていた。拉致被害者から漂流者に変わったが、生命の危機には変わりは無い。

翌日、海は凪いだが、船は航行できる状態では無かった。無線機も使えない。スマホは、バスジャックの時に取り上げられてしまっていた。

幸い、非常食が大量にあり、少なくなった生存者で分けても、数週間は持ちそうだった。

3週間経過し、水が足りなくなった。瀕死だったアンチテロの女性が復活し、サバイバルの指導をしていたので、細々と生きていたが、勝手に救命ボートで脱出を試みた人、悲観して身を投げた人、亡くなった人と、だんだん生存者が少なくなっていた。後に、無人の救命ボートを見かけたのであの時逃げた人は、亡くなったと思われる。

しばらくして、メキシコ政府に保護された。と思ったら逮捕だった。一週間の勾留の後、アメリカに引き渡された。かなり衰弱していたので、ロスの病院に入院、ニューヨークに戻ったのは2月28日だった。もう三学期も終わりそうだ。


日本に戻ると、もう春休みだった。俺達は補習でなんとか進級、卒業を果たした。俺はそのまま中学三年生になったが、姉達は高校受験をしていなかったので浪人する事になった。特例で受験させてくれると言われたそうだが断り、あんな事になったにも関わらず、ニューヨークの父の所で短期留学する事になった。カレンが恐怖のあまり、心の病を患っているようで、一緒に暮らして応援してみるそうだ。


日本に残った俺は、暫くの間マスコミに追われることもあったが、ほぼ平凡に暮らした。姉達は体験談のインタビューで有名になり、ニューヨークでアイドル並みの人気だった。ドキュメンタリー番組の再現VTRに本人役で出演、元気になったカレンも一緒に出たそうだ。俺の役を演じたのが日系人のニューハーフコメディアンだったそうでアメリカでは俺がニューハーフって事になっているらしい。まあ、そんなに浸透する訳も無いだろうし、アメリカに行く事もそうそう無いので別に問題は無いか。その後めでたく帰国。高校を俺と一緒に受験した。


カレンは、日本留学を希望しているようだ。日本語もちょっとイントネーションが怪しい程度で問題無いので、留学も可能だろう。近くの学校ならまた会えるかな?姉達が連絡とるはずなので楽しみだな。あの苦労を分かち合った同志だ。


結局、あのテロは、俺達の冬休み、三学期、春休みを奪い、姉達に『一生何でも言うことを聞く』約束をする事にさせた。無事帰って来れたので、文句を言うとバチが当たるかもしれないが、いつものように、俺だけ貧乏クジをひかされてしまったようだ。まあ、姉達のワルふざけで女装していたお陰で生きていられたのも事実なので、感謝した方がいいんだろうな。

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