読書感想文
JRで創成駅へ向かう。途中から空港線と並走するが、ダイヤの関係で、必ず追い抜かれる。まあ、急ぐ旅ではないがちょっと悔しいな。
創成駅に着くと早速カレンの撮影が始まった。夢愛と雨も、遊び方のツボを抑えたようで、スマホで巡礼サイトを確かめながら、同じアングルを探していた。
創成駅は、いろんなアニメで登場していて、聖地巡礼では外せないスポットらしい。秋の連休で遠征するかもしれない農業高校アニメでも登場するそうだ。
煉瓦造りの旧県庁舎や、時計小屋、電波塔公園等、ベタな観光スポットがそのまま聖地になっているので、普通に観光しているのとあまり変わりないのかな?
狐小路でランチをして薄ヶ原の歓楽街を覗いみた。流石の『関東以北最大の歓楽街』も、午後の早い時間は、酔っぱらいも客引きもいなかった。
路面電車に乗って、地下鉄のオーロララインに乗り継ぐ。西に向かって、宮の山公園へ。大きな神社や、動物園、野球場、陸上競技場等が詰まった巨大な公園だ。
先ずはお参りをして、境内の撮影。賽銭箱の向こうから、参拝している所が撮りたいとカレンは無茶を言い出したが、なんとかなだめて、動物園に向かった。
カレンは、看板を見つけて
「これ、『お花見の期間を除いては、公園内での火気の使用禁止』って事は、お花見の時、バーベキューが出来るの?」
カレンのイメージのお花見は、色とりどりのお弁当を広げた飲み会らしい。ほとんどの日本人と共通な認識なので本来は正解なのだが、この辺りでは、お花見と言えば、ジンギスカン。説明すると、春の予定が決定した。平和が丘の梅も決まっているから、来春は、お花三昧かな?
動物園では、まだ日本の高校に編入していないカレンが生徒手帳を持っていないので、大人料金かな?って話をしていたら、係のお兄さんが
「全員、中高生料金でいいよ!」
例の制服だったので、いろはが見せた生徒手帳で、全員が中高生と認めて貰えた。俺の生徒手帳は、当然『松太郎』の写真なので、忘れた事にして、大人料金で入るしかないかと思っていたので、ちょっと得した気分だった。
「えっ?そんなの、お姉ちゃん達の誰かから借りてくれば良かったでしょ?」
心配していた事を雨に話すと、あっさり回避策を授けてくれた。
「これで、もみじ姉ちゃんとどこでもお出掛け出来るね!」
こんな姿の兄と出掛けて、何が楽しんだろう?まあ、嫌われるよりはいいんだけどね。
動物園も巡礼スポットになっていて、カレンは、サクサクと巡礼を進めたが、夢愛と雨は、シロクマに魅了され、釘付けになっていた。水中のアクリル板のトンネルから見上げるシロクマは、巨大なぬいぐるみのようだった。たまたま空いていたので、じっくり観ていられるが、混雑時は、立ち止まり禁止になるそうだ。動くぬいぐるみを堪能して、カレンと合流した。幾つかのカットでモデルを務め、地下鉄で新そうせいに向かった。
ホームで待っていると、スマホが短く震えた。千葉からのメッセージだった。
『ヘルプ!読書感想文忘れていた!』
夢愛に見せると、全学年共通の宿題で、選択する本が数作に絞られていているそうだ。夢愛は、自分が本を探した時にスマホに一覧を入れていたので、リストを見せてくれた。桐にメッセージを送ると家にいたので、千葉が家に来る事を伝えた。千葉には、取り敢えずうちに来るように伝えて、作戦を考えた。
リストを見ると、昔映画化されたモノが多かった。知らないのもあるので、もしかしたら全部映画化されたものかも知れない。バスに揺られながら、夢愛の情報を確かめると、国語のおじさん先生が数人、昔のアイドルファンで30年位前の人気アイドルが主演したものばかりだそうだ。
「よし、本を読んでいる時間がないから、DVD見せて、その感想文にしよう!」
レンタル店で、DVDを借りて、古本屋で文庫本を買った。
家に帰ると、千葉だけじゃなくインターハイで活躍した猛者達が、お預けを命じられた大型犬みたいにソファーで縮こまっていた。山岸さんも斉藤さんもまだだったようだった。
早速作戦を伝えて、映画鑑賞会。選んだ作品は『リンドウの墓』たまたま見つけただけだったが、桐の調べでは、選択肢の中で、1番ページ数が少ない作品らしい。芒は、先生達の年齢を確かめ、50代半ばと聞くと、
「主演の松口 聖さんって先生達の世代にビンゴだよ!」
桜はメモを取りながら文庫本を読み進めた。
DVDの上映が終わると、桜は、粗筋、登場人物プロフィール、人物相関図を3人に配った。そのまま斉藤さんに、感想を聞くと言うか、アンケートのように質問を始めた。千葉には桐、山岸さんには芒が付いて同じように質問を続け、あっという間にA4ノート見開きがいっぱいになっていた。
「じゃあ、資料を見ながら、このメモを繋いで見てね!」
3人とも30分位で原稿用紙2枚程の感想文を書き上げた。姉達は、赤ペンを入れると、
「言い回しが女子っぽくなっていないかチェックして!」
赤ペンの部分は、形容詞を増やしたり、繋ぎの言葉を増やしたりして、感想のニュアンスが変わらないように、嵩ましと、自然な文章になる程度。3つとも問題無いようなので、本人達に戻した。あとは清書するだけなので、あとはあっという間完成だろう。
「自力でやっていたら、まだ本を読み終えて無いんじゃないかな?」
斉藤が感動して言うと、
「いや、まだ本屋で迷っていたと思うよ!」
山岸さんが笑った。
千葉は、俺にヘルプしたのがファインプレーだったと、ちょっと自慢気だったが、
「感想文のレシピはもう大丈夫でしょ?次からは自分でやるのよ!」
桐に釘を刺されていた。
一応、DVDをもう一度再生しながら晩ごはん。肝心の3人は、画面の中の『たみ子さん(聖さんの役名)』よりも姉達が気になっていたので、流している意味有るのかと思ったけど、まあ、他に見たいテレビも無かったのでいいのかな?
原稿用紙と胃袋を満たした猛者達は、名残惜しそうに席を立った。
「明日も部活終わり、今日ぐらいかしら?」
芒が山岸さんに聞いた。
「宿題の残り、俺たちが極端に少ない部類だから、明日の稽古は午前中だけ。みんなはラストスパートだから早く揚がるんだ!」
読書感想文の他は終わっているのを確認してから、
「じゃあ、明日も遊びに来てくれます?」
山岸さんは即答、斉藤さんと千葉も、自分も誘われているのかを、視線で確かめて、当然来る事になった。
猛者達が帰って一応念のため、自分たちの宿題の漏れは無いか確認してみた。一安心して、今日の巡礼のまとめ。みんなの撮った画像をPCに取り込んで、テレビに繋いで、大画面で巡礼サイトのアニメの画像と比べてみた。現場とは違う感動もあり、新鮮に楽しめた。次の計画は、明日にして、お風呂に入った。夢愛は、今日もカレンの部屋にお泊まりらしく、先にお風呂は済んでいたはずなのに、後に1人で入るつもりが、いろはも含め、4人での入浴になった。風呂掃除が手分け出来るのでラッキーかな?
お風呂でも、視線を他所に持って行く術を覚えたけど、掃除のときは、汚れを確認しなくちゃならないので、つい視界に入ってしまう。カレンは、元々裸でいるお風呂なので、そこで裸でいるのが恥ずかしいと思うのが解らないと言って、夢愛は、一度見せてしまったら、2回目以降は、あまり気にならないそうだ。そうは言っても、こっちの心構えもいることだし、カラダの変化は隠せなかった。さっさと掃除を済ませて部屋に戻った。
「二人でお風呂の時って、最近はもみじのままだよね?カレンと夢愛と入ると、アソコが松太郎になるんだね?」
どんだけ頑張って、平常心を保っているのかを解っているんだろうか?パジャマじゃなく、バスタオルを巻いたいろはがベッドに入って来て、背中にクリンチ。
「安心しないでください・・・!」
耳元で、そう言うとすぐに狸寝入り。背中に密着した柔らかな部分が、いつもより心地良い。意識的な行動かな?二人の時に、反応しないのに、カレンと夢愛がいたときに、反応しちゃった事を怒っているのかな?もしかして焼きもち?いや、そんな自惚れた推測はやめておこう。もう1つ気になるのが『安心しないで』ってなんだ?『安心して』の時がパンツだけだったから、そこから推測というか妄想すると、とんでもない姿を思い浮かべてしまう。久しぶりに眠れそうにないな。不用意に寝返りを打たないように、背中の感触だけでも平常心でいるのは大変なので、他は考えないようにして眠ったふりをした。




