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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第2章
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桐の悪戯

朝食を食べに行くと、メニューが夜と違うバイキングで、みんなはパンケーキに並んだが、カレンは納豆ご飯を食べていた。

「本番の納豆、最高!」

金髪碧眼で上手は箸使いで納豆ご飯をかっ込む姿は、他のお客さんには新鮮なようで、釘付けになっていた。


帰りは、少し近い五輪公園駅までバスで、そこから地下鉄を乗り継ぐ。初日に水族館や科学館に行った新創成からバスか徒歩。今日は、歩く事にした。

宿を出てバス停迄歩く。8人同じ(なんちゃって)制服で歩くと、かなり目立つようで、『どこの制服?』、『修学旅行かな?』、『柵○中じゃない?』なんて声が聞こえて来た。


今日は、桐がいろはを捕まえているので、バスの隣はカレンだった。長身でスラリと伸びた手は、バスの座席の距離では、アメリカ育ちのオーバーアクションには足りな過ぎる。一言一言でボディータッチ、会話がヒートアップするとハグ。後ろの席のいろはの顔色が気になって会話が頭に入って来なかった。やっと地下鉄の駅に着いて、ホームに昇った。

「地下鉄?サブウェイだよね?地下じゃないの?」

カレンは、自分の日本語力を疑ったが、ここの路線は南端だけ地上をモノレールのように走る。とりあえず納得してもらい、車輌に乗り込んだ。始発なので、席は選び放題だが、いろははまた、桐とセット。雨のディフェンスを掻い潜った夢愛とカレンに挟まれて座った。それぞれ近くの席に座ったが、桐は席を立って俺の前に立った。どうやら夢愛とカレンのオフェンス力を考慮して、会話のバランスを調整しているようだ。小、中学校は隣の学校で2学年違っても、結構共通の話題があり、夢愛のアドバンテージ状態を作ると、桐は元の席に戻って行った。ポールラインから、オーロララインに乗り換える。今度はかなり混んでいて、座席は空いていないし、纏まって立っているスペースも無かった。終点まで乗る事はみんな知っているので、まあそれなのに場所で問題無いだろう。


人垣に分断され夢愛さんと二人になった。吊革に届かず、手摺もない夢愛さん心配したが、鍛え上げた足腰でしっかり立っていた。次の駅で少し余裕が出来ると、桐が合流し夢愛さんにまた何か耳打ちした。真っ赤になっているので、何か余計な事を吹き込んだんだろう。次の駅からは降りる人ばかりで少しずつ席が空いて、バラバラ座って行った。ちょうど3人分くらいのスペースが出来たので、桐、夢愛、俺の順で座った。桐は、柔道部の話しになるよう誘導して話しを繋いでくれた。女子柔道部は、本来廃部になる筈の人数しかいないが、夢愛さんが、インターハイ出場候補で特例的に存続しているそうだ。1、2年の部員はいないので、卒業と共に廃部になるそうだ。ちょっと寂しそうに話してくれた。小、中学校が隣の学校だったが、いつも立ち読みに行く本屋が一緒だったり、共通の有名人を知ってたりなかなか盛り上がった。


『新そうせい』駅に着いて、『1世紀の塔』を目指す。地下鉄の出口の階段を昇ろうとすると、ちょこちょこと、可愛らしい女の子が降りてきた。

「小雪先輩!」

桐が声を掛けた。自治委員長兼生徒会長代行の後藤小雪先輩。

「スカート短いよ!校則違反!」

確かに短いよね。委員長の言う通り?

「制服っぽいけど、私服だからセーフだと思うんですけど!」

いろはが主張する。桐は、結論を避けて、

「小雪先輩もお揃いでいかがですか?」

委員長は陥落。コスプレショップに寄って、一緒に行動する事になった。


委員長も着替えると、ショップのお客さんさんがざわめいた。コスプレ集団がお客さんじゃなく、イベントか何かと思ったようで、握手と2ショット写真の行列が出来てしまった。一時間弱で列は捌けてやっと帰れると思ったら店長さんが出て来て、委員長の制服をプレゼントしてくれた。さらにフードコートで使えるお食事券をくれた。

「あのー、大変図々しいとは、思うんですけど、僕も一緒に写真撮って貰ってもいいですか?」

店長を真ん中にみんなで写ると、修学旅行の生徒と引率の先生みたいだった。バイトの時給よりは高価なプレゼントを貰って、腹ごしらえ。ハンバーガーセットを食べて改めて、『1世紀の塔』に向かった。


「これ、ファミレスアニメに出ていた塔だよ!」

思わぬ出会いに大興奮のカレン。塔の周りは公園になっていて、デジカメで撮りまくっていた。塔に昇ろうとしたが、今は解放されておらず、外から観るしか出来ない。代わりに、この地を開拓した頃の史料館があり、そこに立ち寄ると、先住民の民族衣装を見つけ、また別のアニメのタイトルを叫んだ。どうやら、聖地巡礼の目的地を増やしたようだ。近場にいると、なかなか行く事も無いので、カレンがいるうちにあちこち巡るのも楽しいだろうな。それにしても、カレンは日本のアニメいっぱい知ってるな。アニメで日本語覚えたって言うのは本当だったんだね。


塔の公園を出た国道は、うちに帰るバス停が丁度ある。時刻表を見ると、丁度行ったばかり。直ぐ近くのファストファッションの店に寄る事にした。桜は、近々行く予定だったので丁度いいと喜んで、カレンと俺の手を引いて浴衣コーナーに向かった。簡単に結べる帯や草履がセットでそれだけで準備完了のセット。他のみんなは持っているので、カレンと俺の分を選んでくれた。みんなは好きなお洋服を物色して楽しんでいるようだったので、もう1本遅らせたバスで帰る事にした。

夢愛さんは、次のバス停が自宅の目の前だとそのまま乗っていて、先に降りたみんなは、全力で手を振って見送った。委員長は久しぶりにお泊まり。会長の事件以来、学校では沈痛な表情で激務に追われていた。久しぶりに明るい笑顔が見れたので誘って見た。着替えは、さっきの店で調達済み。


今日のメニューはジンギスカン。くたくたになって帰って来るのを見越して、ラム肉は冷凍庫から冷蔵庫に移し、野菜類は切るだけになっている。ごはんはレンジで解凍すればいい。ノンアルコールビールで乾杯。いろはは、雰囲気だけで酔った気になると言って、麦茶にしていた。


カレンは初めてのジンギスカンだったので、ちょっと心配していたが、美味しそうにモリモリ食べていた。元々彼女のリクエストなので大丈夫な筈だよね。

昨日からはしゃぎっぱのカレンは早々にダウン。委員長は何故か、雨の部屋に泊まるそうで、二人も上がっていった。姉達も上がろうとしたので、

「桐、ちょっとお話したいから、食器片付けるの手伝うか、終わるまで待ってて貰ってもいいかな?」

「いいよ、待ってるね!」

手伝う気はサラサラ無いようだ。


「ねえ、今朝お風呂に入る時に、夢愛さんに耳打ちしたの、なんて言ったの?」

「ああ、巡礼とは違うバスケマンガの有名な先生の有名なセリフを唱えただけだよ!『あきらめたらそこで試合終・・・・』ってね!」

「じゃあ、地下鉄の時は?」

「うん、なんだっけ?」

ちょっと惚けてから

「確か、『揺れたら無理しないで、もみじに掴まったら?』って言ったかな?」

「あとは、委員長はわざと呼んだの?」

「いやいや、あれは偶然!本当に偶然!スマホチェックしていいよ!ただあそこで誘ったのは小雪先輩がいるといろはとくっ付くから、他の二人が有利になるでしょ?」

ニヤリと笑って、

「せっかく、芒が三つ巴の戦いをセッティングしたのに、1ラウンドKOで、いろはの独り勝ちじゃあ面白くないでしょ?」

「桐ちゃん、聞こえてるんですけど!」

頬っぺた、膨らませたいろはが、キッチンから登場したが、目が笑っている。

「勝利者の余裕だね?油断大敵だからね!」

いろはの持って来たお盆から、麦茶のグラスを取って3人で乾杯した。


なんとなく煽られて不思議とも思っていなかったが、今まで以上に二人でいる事が嬉しくなり、物理的な距離も心の距離も一気に縮まった気がした。

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