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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第6章
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初日の出

 ゲーム機の充電が切れしばらく廃人のようだったゲーマーはクリスマスの探検を機に積極的になっていた。早朝から釣りに出かけ、初水揚げだったイシダイみたいな大物ではないが、毎晩のメインディッシュが魚料理になるくらいの釣果を上げている。午後は山菜採りか、元畑だった所の野生化した野菜の収穫。ゲーマーが動くと美白と潔癖も協力的になり、テント周りの整備や食料調達に参加。嬉しい誤算は美白がキノコヲタクで今までスルーしていた群生地に案内すると、半々程度が食用可、結構なレア物もあり、早速収穫した。


 迎えた大晦日。特に変わったこともなく過ごし、夜はいつものサバイバル飯にカップ麺の蕎麦で、年越し蕎麦。皆んなデビュー当初はガンガン売れていたので、今夜の国民的歌謡番組に出場経験はあるが、今年はここにいるし、当然出るはずもない。気にしていたら不味いので、その話題には触れずにいだが、

「また、出たいね!」

ポンコツか明るく言い放った。他の3人は微妙な反応で、会話は続かなかった。


「よし!カウントダウンだ!」

ゲーマーは腕時計を睨みつつ、

「5・4・3・2・1・HAPPY NEW YEAR!」

ハイタッチで新年を迎え、元旦に開ける封筒を開いた。

 入っていたのは、地図が1枚。上陸した桟橋から今いるテント付近のモノで端っこに二重丸。早速そこを調べると、1時間足らずで発見。見つけてしまえば、今まで気付かなかったのが不思議な位に、明らかに埋戻した跡があった。慎重に掘り返すと、ブルーシートに包まれた箱が出て来て、中身はもう1枚の地図と懐中電灯。地図にはまた二重丸。

「今度こそお宝だよ、直ぐに冒険に行こう!」

ポンコツがサバイバルナイフを振り翳した。

「この地図って、上が北かな?」

ゲーマーは地図の左端を指して、

「初日の出を撮れって事じゃないか?暗いうちに、移動するように、ライトを支給してくれたんだよ、きっと!」

ゲームのイベント攻略のスキルが発動したようだ。


 早速、山登り。日の出には充分間に合いそうだが、道なき道を懐中電灯の灯りで進むので、余裕をもって出発。

 3時間程で二重丸の地点に到着。周りの地形がよく見えないが、海が見渡せる絶景ポイントで、ブルーシートに包まれた箱が置いてあった。シートも剝すとクーラーボックスで、中身はワインとグラス4つ、それとグレープジュース。

 ワインは20年物で

「僕が生まれた年のワインだ!」

よく見ると、メッセージとサイン、

『祐也、おめでとう20歳。カッコいい大人になれよ。 ジャミー』

ジャミー社長からだった。

「僕、誕生日明日だよ、ジャミーさん間違ったのかな?」

「いや、誕生日(・・・)じゃなく、20歳(・・・)のお祝いでしょ?法律では、誕生日の前の日に1歳歳をとるんです。だから、今日からお酒解禁ですよ!」

「何でそんな面倒いルール?」

ポンコツは理解出来ていないようだった。

「誕生日当日に歳をとるとすると、2月29日生まれの人、4年に1歳しか増えないでしょ?前の日ならみんな毎年増えるから、こうなんですって。」

「物知りだね!」

ポンコツが尊敬の眼差、

「いえ、僕、四つ子の4番目で、姉達は4月1日に生まれたんですけど、僕だけ日が変わって2日なんです。それで一学年違うから不思議に思って調べたんですよ。」

皆んな納得で、日の出とともに乾杯しようと、日の出の方角を予想したり、カメラを置ける場所を工夫したりして、時が過ぎるのを待った。

「グラスもう一個位入れててくれりゃ良いのにな、もみじだけジュースの瓶ってなんか可哀想じゃん。」

美白はもう一度、クーラーボックスを開けて、5つ目が無いのを確認していた。

「多分、僕がジュースだってアピールになるからじゃないですかね?飲酒疑惑で炎上しかねないでしょ?」

「いやぁ、ホントに高校生?そんなことにまで気が回るんだね。」

潔癖は、褒めるのを通り越して、呆れたような口調だった。


 真っ黒だった海と空が、インディゴになってきた。判らなかった海と空の境目が暖かくなり、待ちに待った初日の出。

「日の出って、出た瞬間?丸々出た時?」

潔癖の質問に、

「出た瞬間ですよ、この前、クイズ番組でやってました。」

ん?テレビで観た?対策問題だったかも?まぁいいか。

 一番明るい所にカメラの向きを調整して、ワインとジュースをスタンバイ。初日の出をバックに、新年と、ポンコツのハタチをお祝いした。

 山菜やキノコを採りながらテントに戻った。入口付近が急勾配なので、ずっとパスしていたが、入ってしまえば、他と大差無い。今まで手付かずの分豊作で、群生地を地図にメモって温存したくらいだった。


 支給された米、缶詰め、レトルト食品はなんとか最終日まで足りそうだし、現地調達の山菜、キノコ、野生化した野菜も充分。魚は毎日釣れているので、食べる心配が無くなると、改めて、電気も電波もない生活が退屈に思えて来た。

 ゲーマーは、流木を拾って来て、マンガやアニメに出てくる『魔法使いの杖』を作っている、丸眼鏡の少年じゃなく、長い髭のお爺さんっぽいヤツ。それっぽい木を丁度良い感じで切って、磨いているだけなんだけど、めちゃクオリティーが高く、ゲームなら、ラスボス戦の必須アイテムってデキだった。

 美白は、蔦と葉っぱで日除けを作っていた。井戸から剥ぎ取った蔦が大量にあったので、水汲みのロープの控えとしてとって置いたけど、最初に作った物が、まだまだ現役なので、2セット分を残して日除けの材料に使ってもらった。夏なら優先順位を上げて作って貰いたい一品に仕上がっていた。

 潔癖は、温泉に通っていた。毎回、ずいぶんな長風呂だと思っていたが、洗い場に石を敷き詰めたり、近くの小川の水を引いて、温度調節が出来るように改良していた。

 ポンコツは、いろんな事に興味を示し、山に行ったり海に行ったりして、何か頑張っていたようだが、特に成果はなく、ほぼカメラ担当になっていた。

 僕は食料調達と料理かメインで、カメラを交代したり、潔癖の温泉整備を手伝ったりして過ごしていた。


 無人島暮らしも20日間を過ぎ、残すところ1日になった。計画的に消費した食料はあと1日分は余分に残してあるし、キノコや山菜の収穫ポイントは押さえてあるし釣果もコンスタント。安心して朝食の仕度をして居ると、いつもは騒がしいポンコツが俯いていた。口数も少なく、顔面蒼白だった。

「腹が痛い。」

絞り出した声は、重症を感じさせた。

 直ぐにシートに寝かせ、抑えていた下腹部を押してみた。

「#@#&#%!」

文字表記不能な叫びを上げて震えだした。

「盲腸だと思います。痛いのは今朝から?」

「・・・み、3日前、か、ら。」

「そりゃ不味い、早くお医者さんに看て貰わないと!腹膜炎とかも心配だし、衛生状態も栄養状態も良くないから、合併症も心配です!」

「そんな事まで解るんだな?医者になれるんじゃないか?」

「いえ、たまたま同じような症状で保健室に付き添ったら、保健の先生がそうしてたんで、試しただけです。素人判断なんで、大袈裟かも知れないんですけどね。」

「よし、リタイアだ!」

ゲーマーが手提げ金庫を取ってきて、しせんで皆んなに同意を求めた。美白も潔癖も直ぐに頷いて、金庫を開いた。

ラストまであと3話です。

ハッピーエンドかな?

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