無人島
創成劇場は大盛況で幕が上がった。初めての観客入りのステージに併せ、CDが発売された。握手会の抽選券が入ったCDは記録的な売れ行きで、一気に売れっ子になったGBA24は先輩グループの打ち立てた記録を次々に塗替えた。
上京しての仕事を避け、単発のバイト的な仕事だけの僕は、パパラッチに追われることも無くなり、松太郎で通学可能になった。
給料制なので、ほとんど働かない月もキチンと振り込まれているので、少し後ろめたい気持ちもある。東京の芸能コースのある高校に転校して仕事を増やすと言う案も勧められたが、高校生のうちは、学校を優先させたいと断っている。
大きな出来事も無く、冬休みがやって来た。終業式を終えると、校門には茂木さんが車で待機していた。空港に直行して、羽田経由でロケ地に向かう。今回のロケは、無人島でのサバイバル。他に4人いて、冬休み丸々そこで過ごす事になる。
飛行機の乗り継ぎからカメラが回った。他の4人は都内なので、出発時間に合わせて来る予定らしい。感染症の影響で減便していて、丁度良い便がなく、出発ロビーで2時間程余分に待たされる。勿論、最初から解っていたので、冬休みの宿題を潰していく。楓のアプリでカンニングしたい所だが、カメラが回っているので、自力で解いていった。期末の後から、宿題の内容が解っていた教科は、既に済ませてあるので、撮影の合間で間に合わせる予定ではある。
搭乗時間が迫ると、共演者がポツポツやって来た。現れたのは、秀悟の事務所の先輩で最近あまり見掛けないジャミーズ事務所の人達。それぞれ別のグループだが、過去バラエティー番組で観た記憶では、サバイバルに向かない人の代表って感じだった。
「じゃあ、一応自己紹介ね!」
ディレクターさんの仕切りで会話がスタート。皆んな当然イケメンで人気もそれなりに有る筈だが、他のメンバーがピンで活躍していて、グループ以外で仕事をしていないのでメディア露出が極端に減っているらい。
ネット上では有名で、本名と同じ位知れ渡ったあだ名がある
最年長は『ゲーマー』
仕事以外は、自宅から一歩も出す、ひたすらゲームをしている。電気も電波も無いところで生きられるのだろうか?
生粋の王子キャラは『美白』
スキンケアに命を掛ける美肌の持ち主、冬とは言え、南の孤島の紫外線に耐えられるのだろうか?
神経質っぽい『潔癖』
全身消毒してから家に入るそうだ。絶対にキャンプなんてしたこと無いだろう。
最年少は『ポンコツ』
容姿以外は全てダメダメで、メンバーがフォローしていた頃は、ボケ役でそれなりに面白かったが、ピンでは誰も噛み合わず、最近はほとんどテレビに出ていなかった。
お互いの呼び方を決める時、ポンコツの提案で、ネット上のあだ名で呼び合う事になった。因みに僕はもみじ。ダメ元でアウトドアの経験を聞いて見ると、ポンコツだけ、何度かキャンプに参加しているそうだが、焚き火でテントを燃やしちゃった話とか、食材を砂にブチ撒けた話とか、そっち方面の武勇伝が幾つも幾つも。現場にはカメラマンさんもほかのスタッフさんも同行無し。撮影に必要な機材と、それを稼働させるソーラーパネルは搬入済みとの事、機材の扱いのレクチャーを受けながら搭乗、機内でも資料とにらめっこ。まぁなんとかなりそうだな。
空港の有る島に飛んで一泊、8時の連絡船で2時間。そこからは定期航路も無いので、漁船で送って貰った。獲ったさかなを入れる部分にスペースを充てているせいか、船長さんと僕ら5人で一杯って感じだった。ここからはディレクターさんも居なくなってカメラはゲーマーが回していた。また2時間掛かってやっと到着。思っていたよりずっと大きく、山2つに挟まれた狭い平地に以前は集落が有ったそうだ。猛獣や毒蛇なんかは居ない筈。人が住んでいたので、飲水はなんとかなるだろう。
観光地の遊覧船の桟橋位かな?サイズ的には。ただ違うのは木製でかなりくたびれている。船を降りると、最近補修した、と言ってもコンパネ(コンクリートを流し込む型に使う分厚い合板)を敷いただけの桟橋を恐る恐る歩く。コンパネを辿ってなんとか上陸。補強していない部分は、穴だらけだった。
まずは、撮影機材とソーラーパネルを見つけて使える様にする。桟橋から直ぐの所にブルーシートで包まれた大きな箱がいくつも有った。
「ソーラーだから、日陰にならない所ぎ良いね。」
夕方だったので、夕陽を西に見て、南に障害物がない場所をピックアップ、高波を被っても不味いので海から離れた小高い所を選んだ。
説明書を読みながら、小さな物置きを組み立てた。工具はまぁまぁ揃っているが電ドラは無いので手で締める。組み上がった所に、蓄電装置を設置、充電された状態だったので、映像を記録するストレージや、撮影機器の充電器を繋いでランプを確認、多分正常だろう。ソーラーパネルは設置のフレームだけ組み上げ、日没コールド。置いてあった食料で夕食を済ませた。移動だけだったけど、クタクタであっという間に爆睡したようだった。
翌朝、雨水の浸水で目を覚ました。機材の場所は気を使ったけど、テントはポンコツに任せていたので、仕方がない。水に浸かってない所に引越し。荷物も濡れたけど、乾かせば大丈夫だろう。
なんとか落ち着きを取り戻し、朝食。カンパンと缶詰め、なんとか胃袋は満たされたが、どう見ても数日分しか無い、米はまあまあの量が有るが、水をどうにかしなければどうしょうもない。底をつく前に自給自足出来るようにしなければならない。
置いてあった機材には、ソーラーパネル、蓄電装置、撮影機材と、撮影したデータを保管するストレージ、救急箱、食料とペットボトルの水、それと空のポリタンク。後、手提げ金庫があり、『撮影中断時に解錠 5・3』数字はダイヤルだろう。照明すらカメラに搭載されたものだけ、電源はあっても、家電も便利にグッズも何も無い。それぞれの持ち物も着替えの他は、何かひとつ。
「あ、俺?コレだよ!」
ゲーマーはポータブルゲーム機を見せた。美白は日焼け止め、潔癖は消毒スプレー、納得のチョイス。
「ボクはコレ!サバイバルって言えばこれでしょ!」
ポンコツはベルトに装着したサバイバルナイフ抜いて見せた。僕が選んだのは、ジッポライターとオイル。早速、焚き火で活躍。雨で濡れた荷物を乾かした。
食後はソーラーパネルを組み立てる。昨夜は協力的だったゲーマー、美白はテントに籠もった。ゲーム機はあっても充電器が無いので、何もする気が起きないらしい。美白はソーラーパネルが稼動すれば便利になると思ったが、そうじゃ無かったので、昼間は外に出ないそうだ。因みに潔癖は昨日から何も働いて居ない。なんとか潔癖にカメラを回して貰って、ポンコツを助手にソーラーパネルを組み上げた。蓄電装置に繋いで、『充電中』を確認、ミッションをひとつクリアした。




