オンエアー
GBAの活動が始まり、学校を取り巻く野次馬やパパラッチ、それとファンらしき人達がドンドン増えていった。自宅周辺も結構な人が押し寄せている。
開けっ放しだった門は電動化して、防犯カメラが付いて警備会社に繋がっている。秋野の家も警報設備が付いて、連絡通路は外からは見えない様に工夫して、何とかプライベートを確保しているが、近所から苦情が来るのは避けられないだろう。
メンバーの皆んなは、マイクロバスで登校して、放課後はまたマイクロバスで劇場。帰りもマイクロバス。松太郎として通学して、夕方もみじになって人目を忍んで花田の家に侵入して、食事の支度をして皆んなを待つ。帰ってきたら、一緒にごはんを食べて、朝食とお弁当の下ごしらえをして秋野の家に帰る。必要な食材や日用品はいろはにメモを渡しておくとスタッフの人が買って、送迎の際に届けてくれる。各自の部屋は自分達で掃除とかしているし、お風呂は終い湯の人が掃除するルールは健在なので、掃除するエリアが限られ少しラクになってるかな?
私より大変なのは雨だよね。朝はマイクロバスに同乗していくが、帰りは警備会社の人が、車で迎えに来る。かなり不自由な生活だろう。家で
ひとりで過ごす時間が増え、秋野の家に来ている時間が少しずつ増えていた。
学校祭は感染症対策で中止、他の行事も『なんとなく一応やった?』程度で8月、9月を消化した。生徒会の役員選挙はGBAの活動を言い訳に姉達は回避したが、無傷では済まず、僕が会長職に着いてしまった。皆んなは劇場で忙しくなるので、まぁ気にしないでおこう。
10月には修学旅行が予定されている。感染症対策で中止の可能性が高かったが、厳しい規制は9月一杯なので、行けるかも知れないと少しだけ期待してるが、これまでの経緯を考えるとやっぱ中止かな?
9月末ギリギリで、10月からの規制解除が発表され、ほぼほぼ諦めていた修学旅行に行ける事になった。例年は海外に行っていたようだが、感染症の影響で国内になっていて、今年は京都・奈良の予定。旅行の準備は然程問題無いし、もみじの仕度が要らない分、何時もより荷物も気使いも少なくて済んでいる。問題は旅先で何を見聞するのかを決めて、事前に提出し、帰ってきたらそれについての研究発表をしなくてはならない。試験の過去問みたいに残っている物がないか調べたが、生徒会室に残っていたものは、20年前位、21世紀になってからの物で、行き先は全て海外だった。
金曜の夕食の後、食器を片付けながら相談してみると、
「京都と言えば新選組でしょ?」
カレンは『困っているのが不思議?』って言う感じで、一度部屋に戻って何やらプラスティックのケースを持って来た。
「京都が舞台になったアニメの資料だよ、麻幌の学校祭で貰ったパンフも、コレ!」
沢山貼られた付箋には見慣れない筆跡でビッシリ埋まっていた。
「遥先生のお友達がね、時代考証とか、歴史的に間違えてないかチェックしてくれたの!」
雪像作りの時に来ていた、新選組が好きで日本史の先生になった人だね?京都が初めてのカレンがノリノリなので、新選組のアニメと聖地巡礼が面白いかな、周りの皆んなも乗り気で、早速アニメ鑑賞で、修学旅行の予習を始めた。
YUMEのオンエアーの前日、撮ってあったバラエティ番組の放送があり、自分の姿を映像で観る。ホームビデオとか、スマホの動画何かとはちょっと違う感覚と、ホントに芸能人達、それもかなり売れている人達に囲まれていて、改めて緊張した。上手く編集してくれていて、『素人にしちゃ、まぁまぁ?』って程度に仕上がっていた。その日にもう一本、オンエアー当日にも2本流れ、段々と麻痺して来た所で、YUMEの放送が始まった。
ガチガチに緊張して来たが、シアタールームの最前列の真ん中に、拉致に近い状態で座っていた。出来上がった映像は、実際に撮られていた時に思っていたより違和感無く、異世界から来て、右も左も分からない程の不安な状況を、上手く不安を感じているように演技しているようにも見えて、知らない人がみたらが名演技に映るかもしれないな。
問題のラストシーン、キスバージョンかハグバージョンのどちらが採用されたのかは知らされていない。周りの皆んな迄緊張しているのか、お喋りも無く画面を見つめる。
「ずっとコッチに居るよ。」
元の世界には戻らない事が決定すると、ジュンは夢に駆け寄った。
「アドリブ入れたら付いて来れそう?」
ラストシーンの直前に杏美に言われた言葉を思い出した。驚いて酷い表情になってたりしないかな?イヤ、ハグバージョンだった方が色々と平和かな?まぁ今更何を考えても仕方が無いか。
夢はジュンを抱き寄せ、唇を重ねた。結構長く感じてはいたけど、実際に観るとかなり長く、1分はラクに超え、お互いに吸い合っている感じとか、離れる瞬間、舌が入っていたのも映像で確認出来て、その直後はお互いの涎が糸を引いて繋がっていた。自然な表情だったので、まぁ合格かな?あとは皆んなの冷やかしに耐えれば一件落着だろう。
放送が終わると、杏美のインタビューが流れた。
「共演した、花田松太郎クンのクラスメイトが24グループの新ユニットとしてデビューするんですよ、創成市に新しい劇場も出来るんです!グループのサイトからパフォーマンスの映像が観られます、是非ご覧下さい!」
色々質問に答え、
「松太郎クン、芸能活動はこれで最後って言うんですよ、勿体ないと思いません?」
キスシーンについては、
「台本ではハグだったんです、24グループのルールに気を使ってくれたんだと思うんですよね。あのシーン、どうしてもキスしたくって堪らない気持ち悪いになっちゃって、松太郎クンもアドリブに合せてくれたんでNG出さずに済みました。」
ペロっと舌を出して笑うと、それ以上突っ込めない雰囲気を醸し出し、自分達のグループの活動や、メンバーが出演するドラマのPRで締め括っていた。
今週は何とか頑張れました!




