表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第5章
115/139

ロケ

 撮影は順調に進んだ、最初はドキドキしてどう接して良いのか解らなかったが、何となく距離感を掴め、困る事が少なくなって来た、杏美のサポートが大きいが、担任教師役の安原さんがとても面倒見が良く、芝居の事や、楽屋での立ち位置等、役者の初歩をしっかり教えてくれた。

 難しいのは、猛と隼人が積極的にアプローチして来ても、全く気づかない設定なんだけと、明らかにハートのビームを最大火力で放つイケメン2人をスルーして顔に出さないのは中々大変だった。

「ソコは男同士だから、ラクにスルーだよね!」

監督さんは気楽に言うが、そうも行かない。まぁ、NGも頻発とまでは行かない程度で乗り切った。

「もみじ、大丈夫?女の子の役にドップリで、男の子を好きになったりしてない?ねぇ、秀悟と聖人どっちがタイプ?」

返答に困っていると、

「冗談よ!なに?顔、赤いわよ!」

「えっ?」

「それも冗談!ふふっ!」

楽しそうに手を引いて、マイクロバスに乗り込んだ。


 問題のシーン。先に候補に上がっていた女優さん達がNGで役が決まらなかったシーンだ。

 登山遠足で大雨に遭遇、雨宿りの小屋ごと滑落し、谷底で救出を待つ。幸い、目立った怪我もなく、小屋の残骸で雨露は取り敢えずは凌げていた。直ぐに命が危険に晒される状態では無いが、食料はそれぞれのリュックにおやつがあるだけで、スマホは圏外だった。GPSは機能していて、平面で見ると、沢伝いに降りれば、10キロ程で一般道に出られそうだ。一先ず、雨が止むのを待ち、バッテリー温存の為、電源オフ。

 小降りになって少し落ち着くと新たな問題が発生。尿意に襲われてしまった。用を足しに行こうとする、猛と隼人に夢は、

「危険だから、無理に遠くに行かなくて良いよ、覗いたりしないから!」

「夢って、時々俺達の事をレディ扱いするよね!大丈夫、用心するよ。」

2人が戻って夢はジュンと薮に向かった。

「傘差して居るからお先にどうぞ!」

ジュンは一応周りを確認してしゃがんだ。

《ああ、大きい方だったのね。》

声に出さず終わるのを待ち、気まずい雰囲気で傘を交代した。

「えっ?な、なんで?」

立ったままの放尿を見たジュンは、傘を飛ばされても、未動き出来無かった。膝のバウンドで、残りの雫を始末すると、ジュンの悲鳴で猛と隼人が飛び出て来た。急いでスカートを直すと、

「ゴメン、見ちゃった。夢って男の子だったの?」

「えっ?女の子だよ、今、見たって言ったじゃない?」

「まぁ、落ち着こうぜ、小屋に戻るぞ」

猛が二人の手を引いた。隼人は、飛ばされた傘を拾って小屋に戻った。

 色々情報交換すると、元の世界とコッチの世界では、男女の観念がズレているようだった。話し合った事を纏めると、

「じゃあ、生殖器官が反対に付いてるって事ね?コッチの世界では、女の子が子供を産むのね?」

なんとなくホッとした様な男子2名と、ガッツリ壁を作ったジュンでぎこち無い会話だったが、何とか事情を把握出来た。

 沈黙が辛くなっていると、レスキュー隊が救助に到着した。沢伝いに登る(・・)と、直ぐに登山道に戻れて、GPSを頼りに下っていたら遭難必須だったらしい。


 ちょっとハードなロケは無事終了。あとは、また学校のシーンを撮るそうだ。ジュンと夢の距離感を撮ると言われるが、そんな演技が出来ているのか判らないが、どんどん撮影は続けられた。役としての夢も、どうなっているのか解らない状態なので、演技が解らない松太郎がちょうど良いらしい。アンアンは登山遠足前の『親友モード』から、『男の娘嫌悪』モード、そこから新しい関係を構築していく微妙な過程を演じていた。

 秀悟と聖人も、恋愛感情から友情に変化、下山の時に既にスイッチした猛と、徐々に変わって行く隼人の違いも面白く描かれ、しっかり演じられていた。二人共別の仕事が有って、2、3日に一度来て、纏めて撮る。一緒に来ることもあれば、バラバラの時もあり、いろんなシーンを時系列に合わない細切れで撮るので、ストーリーの確認や、今、どの位の時間経過なのか把握に苦労した。


 何とかクランクアップ。タイトルは『YUME』。編集には関わらないので、封切りを待つだけになった。打ち上げが開かれたが、多くの役者さんは、先にアップしていて、態々打ち上げの為に、感染症の不安を押して飛行機に乗ろうとする人は居なかった。ビデオメッセージを何人分もみて、アクリル板越しに共演者とスタッフの皆さんに挨拶、ご馳走を食べて皆んなと別れた。杏美は次の仕事で早退のように居なくなっていて、秀悟と聖人はスマホのメッセージだけだった。


 大人達は当然のように二次会らしい。通常時の場合、朝まで飲むのがスタンダードとの事。感染症対策でお目当ての店は臨時休業らしくバタバタと落ち着き無くタクシーに分乗して歓楽街に繰り出して行った。

 残ったのは茂木さんだけかと思ったら、担任役だった安原さんも居て、

「お茶でもいかがですか?」

2週間家を開けていたので、色々気になる事もあったし、ちょうど雨にカエルコールしたばかりなので断わってバスターミナルに向かうと、

「親御さんにお届けする(ff)約ですから!」

契約をフォルテシモで言って、安原さんのセリフをシャットアウトして、茂木さんも一緒に付いて来た。ネットニュースとかにも出ていない情報で、ロリコン疑惑があるらしい。とは言え、松太郎の正体を知っているので、そういう対象にはならないと思うが、沢山の芸能人を見て来た茂木さんの判断を信じ、さっさと乗り場に向かった。


 久しぶりに花田の家に帰り、広々の湯船で思い切りノビをした。茂木さんは、上原先生の部屋に、折り畳みの簡易ベッドを持ち込んでいて、撮影中もホテルに居なかった時は、東京に戻って働いていたり、ここで皆んなのデビューの準備をしていたそうだ。

 風呂上がり、冷蔵庫を開けると、普段はドリップしたコーヒーを冷しているが、ペットボトルのコーヒーが冷えていた。

「頑張って見たけど、もみじのレベルにならないの、買った方が美味しいのよね。」

彩香が恥ずかしそうにカミングアウト。

「デザートもお預けでござる。」

楓のリクエストで白玉を捏ねた。


 普通の夏休みに戻り、溜まっていた宿題を片付け、皆んなのリクエストに応えて料理を振る舞った。種苗会社のバイトや、庭の手入れなんかでハードな夏休み後半を過ごした。


 夢愛と小雪が帰省。と言いつつ、実家では無く花田の家って、ちょっと『帰省』の解釈ズレている気がする。まぁ気にせずに喜びそうなメニューを作ると、

「もみじって、お母さんみたいって思ってたけど、偶に帰って来る(・・・・・)と、なんかお婆ちゃんちに来たみたいね!」

皆んな頷いているので、そんなものなのかな?


「ウォッ!」

スマホを弄っていた楓が唸った、

「俳優の安原、逮捕でござる!麻薬と淫行!」

皆んなは大画面に走った。キリの良いところで鍋の火を止め、テレビを観に行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ