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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第5章
114/139

ワリカン

 出掛けるに当たり、何を着て行くのかで何故か、大討論会。松太郎の私服で行くつもりでいたが、いろは以外全員が、もみじで行く事を勧めた。討論と言うより、皆んなに説得されるカタチになっていて、気付くと『もみじ』なのは決定事項で、何を着て行くのかが議題に変わっていた。結果、コミックの主人に近いワンピを美月から借りて、ニーハイとスニーカーを合わせた。バッグは彩花が持っている物が1番近いのでそれも借りて、役名の『夢』が完成した。


 バスで行くつもりでいたけど、アンアンが一緒では何かあった時に大変だと、茂木さんがタクシーを呼んでくれた。ホテルに着いて、顔合わせの会場に入った。立食パーティーの会場になっていて、フェイスシールドが配られた。マスク越しでも誰か判る超有名人が透明のシールドだけになると、思いっきり緊張してしまった。素人は僕だけなので、皆んな気を使ってくれて、何とか一通り挨拶が出来た。

「ホントは男なんだよね?」

歴代、正統派男性アイドルを世に送り続けている、J事務所のイチオシプリンス・秀悟(しゅうご)が目をパチクリさせると、超人気ダンスヴォーカルグループの若手パフォーマー・聖人(まさと)も、

「どう見ても美少女にしか見えないな、役作り?」

「い、一応、そんな感じですかね?」

更にガチガチになると、アンアンが助け舟を出してくれた。

 緊張でクタクタになって、ようやくお開きの時間。明日からの撮影日程を確認して、各自ホテルの部屋に引き上げて行った。皆んなを見送り、自宅に帰ろうと思ったら、

「あなたの部屋も取ってあるわよ!」

茂木さんに引き留められ、チェックインして、結構高層の部屋に泊めてもらった。創成の街が見える方は夜景が素晴らしい筈だが、反対側だったのでまぁまぁの夜景を楽しんだ。


 ストーリーを再確認。異世界から紛れ込んだ『夢』を、幼なじみの三人『ジュン(杏美)』、『(たけし)(秀悟)』、『隼人(はやと)(聖人)』が助ける。お淑やかな夢を美少女と思い込んだ、猛と隼人との三角関係に発展するが、夢の居た世界とは、男女が逆転していて、夢はコチラの世界で言う男子で二人を異性だと認識していた。どちらにも恋愛感情は無かったが、二人の熱烈アプローチに心が動き掛けた時、性認識の違いに気づく。ずっと同性だと思い、相談に乗って貰い、親友と思っていたジュンは、コチラの世界で言うの『女装男子』を嫌悪していたので、関係がギクシャクするが、猛と隼人のサポートもあって徐々に関係を回復していく。ノベル版では曖昧な関係が続いて、夢はムコウの世界に帰ったのか、消えてしまう。コミック版は、クライマックスに差し掛かった所で、原作とストーリーを変えて来ている。エンディングの台本はまだ渡されていない。コミック版の発売とかに影響されているのかな?

 もう一度夜景を眺めてからカーテンを閉めた。


 翌朝、内線が鳴って、

「朝ご飯いこっ!」

アンアンの声だった。もう起きていたので、直ぐにオーケーして電話を切った。受話器を置いた途端またベルが鳴り、出てみると秀悟で、やはり朝食のお誘いだった。杏美と行く事を告げると、少し間を置いて、

「広い席選んでくれよ、後で合流する!じゃっ!」

ガチャンと切れた。

 チャイムが鳴ってドアスコープを覗くと杏美が迎えに来ていた。

「おはよ!今日も『夢』なのね?」

「泊まるつもりじゃ無かったから、着替え持って来て無いの。」

「下着も?」

そこはツッコまれたく無かったが、ウソ吐いても仕方が無いので頷くと、

「私の貸そうか?」

えっ?っとフリーズすると、

「冗談よ!ゴハン行こ、美味しい物有りそうよね!」

エレベーターに乗って31階に昇る。次の階で停まると、秀悟と聖人が乗ってきた。

 展望台の様なレストランで豪華なビュッフェ形式。超有名芸能人に囲まれた緊張が少し和らいだ。他愛の無い雑談も、緊張を解してくれているのかもしれない。


 近くの高校を借りて、学校シーンのロケ。秋の設定なので、制服が暑かった。衣装の制服は、ブレザータイプで、チェックのプリーツはトランクス程度しか覆ってくれない。その中身も衣装なんだけど、中身が溢れないギリギリの面積しかなく、

「出ちゃいますね!」

スタッフの女性は、当たり前の様に下着を降ろして、シェーバーを当てていた。幸い、無駄に反応しないので、支障無く撮影が開始された。

 驚きの連続だったが、撮影は奇跡的にNGを出す事なく初日の撮影を終えた。

 ホテルに戻ると、大人たちは夜の街に繰り出した。ただ感染症対策で近所の居酒屋で精一杯らしい。

「ひと昔前なら、一緒に行って、コッソリ飲んだりしたんだけどな!」

監督さんは残念そうに出掛けて行った。


「もみじ、地元なんでしょ?晩ごはん連れてって!」

「えっ?ファミレス位しか入った事無いよ。」

「うん、じゃあソコ行こ!」

「アンアンだとバレたらパニックになっちゃう!」

「大丈夫よマスクしてるし!」

「そうだな、俺もデビュー以来行って無いし!」

えっ1人でも躊躇うのに聖人迄?ってか、秀悟も当然一緒って感じだった。開き直って、普段も行っているファミレスに行った。割と空いていて直ぐに席に案内された。三人ともほぼ初めてのファミレスで勝手が解らない様子だったので、代表してオーダー、ドリンクバーの説明をして料理を待った。サラダを取り分けたり、ピザを切ったり、ついいつも通りに振る舞っていると、普通に友達と食事をしている感覚になって来た。逆に、普通じゃ無くなったのは杏美で、

「じょ、女子力高過ぎ!」

男性陣は職業柄、プライベートで女子と食事をする機会は皆無なので、役としてのデートシーンと比べ、違和感が無さ過ぎと驚いていた。三人の話は、他に漏れては面倒なので、他愛もない話だけど凄く楽しそうにしていた。通信アプリのアドレスを交換したりしてテーブルが、空の皿だけになった。

 レジでバレないよう三人を先に出してお会計。普段より贅沢してデザート迄食べたので、5千円を少しオーバー。1人千円を超えることは殆ど無いのでちょっとびっくり。逃げるようにホテルに帰った。

「いくらだった?」

「5千ちょいだから・・・」

言い終わる前に三人とも万札を手にしていた。

「細かいのあんまり無くて・・・」

「1人5千円じゃ無いよ、全部で5千ね!だから、1人千2百円くらい。」

「えっ!それだけ?」

声は秀悟だが、他の二人も同じ位に驚いていた。秀悟と聖人は自分が払うと言い出したが、杏美が、

「普通の高校生っぽくワリカンにしましょ!」

三人が千円札2枚差出し、杏美からだけ1枚受け取って終了させた。


 部屋に入ると直ぐに、杏美からのメッセージが入った。

『夜景、こっちは街の方よ、観に来て!』

『うん、直ぐ行く!』

ルームキーを確認して廊下に出た。部屋番号を確認してチャイムを押す。直ぐにドアが開き、窓から創成の街明かりが飛び込んで来た。

 感染症対策で、歓楽街の多くのお店が閉まっているにも関わらず、中心部は煌々と輝いていた。興奮気味に窓に貼り付いていたが、ふと我に返ると、女性アイドルの部屋に入り込んでいる非日常に気付いてしまった。杏美も女子同士のノリだと思うので、彼女が気付く前にさっさと部屋に帰る事にした。

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