2年生
クラス替え発表での渋滞を予測して早めに登校。生徒玄関に貼り出された新しいクラス名簿で自分の名前を探そうと、混んでいる1組を避け5組からチェックしていると、
「しょう君も1組よ!」
カレンかと思う位のハグでいろはが教えてくれた。反対からで最後まで見つから無い所だった。偶然なのか、何かのパワーが働いたのか、花田の家の住人は全員1組だった。担任はサプライズらしく、教室に言って『2年1組』の札の下には、先生の木札が掛かる釘には何も掛かっていなかった。
皆んな一緒なのは変わらなかったけど、大きく変わったのは、学年の男子全員が1組に集中。1組に限っては一般的な共学のようになった。5組を探した時、男子が居なかったのを不思議に思っていたけど、そう言う事だった。
チャイムが鳴って、体育館に向かった。校長先生と生徒会長の挨拶でスッと終了。担任の発表があると思っていたら、まだお預けだった。
席に着いて先生を待った。耳を澄まして聞いた足音は、パンプスやローファーじゃ無く、キュッキュッと言うスニーカーらしい。ガラッと扉が開いて登場したのは上原先生だった。
前の席に座っている桜の様子からは『知ってたよ!』か『やっぱりね!』って感じが読み取れた。先生はポーカーフェイスを貫いていたが、ちょっとやりにくい様子に思えた。
簡単に自己紹介、女子は殆ど中学から4年の間で知らない人は居ない位で、少数派の男子は、結構な確率で覚えれているし、男子同士はAAAの劇で顔見知りだから、男子が新しく同じクラスになった女子を覚えるのが少し大変なだけなので、サクサクと済ませてしまった。まぁ、劇の準備の時に聞こえて来たお喋りなんかでは、何組の誰が可愛いとか、スカートの丈がどうだとか凄い情報量だったので、それ程のハードルではないのかも知れないな。
連絡とか配布物とかてバタバタしてクラスの委員とか、明日の入学式のお手伝いとかを決めた。明日は、お手伝いが無ければ登校しなくていいので希望者は少なかった。芒が背中を突く。立候補すれば良いんだね?家にいても忙しいからどっちでもいいんだよね。僕が手を上げると、いろは、カレン、美月、彩花、美羽、琴音、楓、こころが参加を希望した。
あと2人になると鈴木君、佐藤君が慌てて参加表明。明日の予定のプリントを貰ってホームルーム終了でまだ1時間目。
2時間目から6時間目迄はミニテスト。範囲が1年生の全部なので、ミニってイメージは全く無い。過去問も殆ど役に立たないが、基本的な問題ばかりだと言うのが例年の傾向なので、その情報だけで、楓のソフトで予想問題は作って、ボチボチ対応。春休み、勉強したかどうかのチェックだと思うので、そんなに気合いは入っていない。周りの人も勉強するポイントとか、ヤマを掛ける所が絞れずギヤを上げるどころかアイドリングやエンジンが掛かっていない感じも多かった。
まぁまぁの感触でテストを終えた。芒が魔法でも使ったみたいに調整して、全員が役に着かずに済んでいたので、のんびり放課後を楽しめる。晩ごはんのメニューを考えていると、
「コレどういう意味?」
血相を変えた鈴木君は、お菓子作りの本を開いていた。マーカーやメモで一杯のページに更にまた書き込んでいた。付箋の付いたページを3箇所繰り返し質問攻めにして、満足したのかサッサと家に帰った。僕らが外靴に履き替える頃にはきっと帰宅しているだろうな。
「実はね、ウチの姉ちゃんがさ、製菓の専門学校に行ったんだ・・・。」
「ああ、真紀さんね!クッキー絶品だもんね!」
「うん、でね、鈴木君が一緒の学校行くんだって張り切ってるんだけどさあ。」
「えっ?専門学校って2年じゃない?鈴木君が入学する前に真紀さん卒業じゃん!」
「そうなんだけどさ、なんか言いそびれて。帰りに寄って話そうと思うんだけど一緒に来てくれないかな?」
「スポンジくらい焼けるようになるまでは暴走させておけば?三日坊主かもしれないわよ!」
楽しそうに姉達が笑っていた。
「いえ、姉ちゃんの学校決まったのを教えたのって2月末だったから、もうひと月以上あんな感じみたいなんです。春休み期間中会ってなかったから、まだ続いていてビックリなんですよ。」
そんなに長い間、専門学校ではすれ違う事を気付かない訳が無い筈と、放って置けば良いと姉達はクールなんだけど、一応寄ってみる事にして佐藤君と靴を履き替えた。
マンションのインターフォンを押すと、
「お、おう、すぐ開けるけどまだ味見するモノ無いぞ!」
ピザ教室の時迄はレンジ機能しか使っていなかったのに、取説をメーカーから取り寄せてオーブン機能を使い熟すようになっていた。
マドレーヌの生地が出来た所で、オーブンの予熱も準備万端、これから焼き上げるようだった。
「さっき花田君に教えて貰って、謎が解けたんだ!上手く焼けたら学校に持って行くつもりだったんだけど、折角だから、ホントに味見してみてよ!」
オーブンが唸る間、専門学校が2年しかない事を告げると、
「?」
無言で固まってしまった。2年しかない事は知っていたけど、真紀さんが卒業しちゃう事は思考から抜け落ちていたらしい。かなりの落胆だが、趣味として楽しくなって来た所なので、お菓子作りは続けるとの事。
焼き上がったマドレーヌは、ちょっと焦げたり、クレーターだらけの月面仕様だけど、味はなかなかの出来だった。
「材料はまだあるから、花田君が作るところ見せてくれないかな?」
レシピを見せて貰って、トライしてみる。鈴木君の視線が気になるけど、なるべく気にしない。
出来上がりは、満月の様にキレイに仕上がっていた。
「俺のは満月は満月でも、望遠鏡で見た月面だったな!うん、もっと頑張って見るよ!」
新しい趣味を見つけた鈴木君はとてもアクティブだった。
「僕もなんか始めようかな?」
佐藤君も、変身願望がある様だった。追加で焼いた分は、1つずつ食べて、残りは佐藤君がお土産にした。ウチの人口だと、もう一回焼いても足りないから自然の成り行きだよね。
『コキコキ!』
スマホが鳴った。花田の家の住人のグループトークだった。
【芒】
この時間で帰って来ないって事は、新米パティシエさん頑張っているようね!
【カレン】
何作ったの?
【もみじ】
マドレーヌだよ!
【美月】
味見、協力してあげても良いわよ。
【もみじ】
週末に作るよ。
【楓】
待てないでござる!
【雨】
卵・砂糖・はちみつ・薄力粉・ベーキングパウダー・バター・レモン、在庫確認しました。オールオッケーだよ!
「なんか、家でも焼くことになったみたい。」
「俺のせいで仕事、増やしちまったな。」
「いや、皆んな喜ぶと思うし、それなりに楽しいからね!」
急いで家に帰った。




