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花田種苗の5人姉弟妹  作者: グレープヒヤシンス
第4章
101/139

17歳

 最終日も有名な観光スポットや聖地巡礼。目も舌も胃袋も満足して夜行バスの時間まで遊び尽くした。

 先生の自首騒動は、姉達の説得で何もなかったように、初日と変わらない雰囲気で旅を堪能した。バスで一段落すると、

「私、この格好で帰るの?って、もう着替えるチャンス無いわね。」

 アイドルアニメのコスプレ制服でずっと過ごしていた先生が、現実世界に引き戻された。

「似合ってるからいいでしょ?」

カレンは隣の席でニッコリ。なんか盛り上がっていたが、バスの発車が判らない位に爆睡して、気が付くと既に日は昇りバスターミナルまで信号3つ位しか無かった。雨が絡みついて、やや不自由な事以外は気持ちの良い寝起きだった。


 先生は、単独で誰かに遭遇する事を恐れ、花田の家まで同行し、着替えてから帰る事になった。創成に着いてもめちゃ早い時間で、人通りは少ないから、一気に帰る方が安全な気もするが、桐の提案でそう決まったようだ。

 JR一本で最寄り駅。夏休みならラジオ体操を終えた子供達が遊んでいる時間だけど、犬と散歩している人がチラホラいるくらいで、世間の目に怯える先生は、誰の目にも止まらずに花田の家に到着した。


 小雪が先生を自分の部屋に案内。もう引っ越しの支度は済んでいるので、梱包済みのダンボール位しかない。

「収納タップリで住みやすいし、何よりゴハンが美味しいんですよ、立退きになるんでしたら、ここオススメですよ!」

住んでいるアパートが、再開発の区域に引っ掛かってしまったそうだ。敷金は帰ってくるし、引っ越し費用も市で負担してくれるらしい。普通の私服に着替えた先生は、元気の無い表情で

「ボールパーク誘致が失敗してとばっちりなのよね。」

花田種苗としては、美味しい事ばかりの移転だったが、そうでも無い人も居ると思うとちょっと心苦しい。

「いかがでした?」

桐は、空き部屋にしない積もりで先生を誘ったらしい。

「そうね、今のお部屋は、バス・トイレ付きだけどね、狭いし、寒いのよね。いっそない方が便利かも!バスタブが無いのかあたりまえだったから、初めは珍しくて使ったけど、シャワーしか使わなくなったし。」

収納とか比べて、かなり乗り気の様子だった。

「ランチ食べて考えてみては?」

桐の視線は、もみじを捉えていた。

「海鮮三昧だったからイタリアンなんかが嬉しいわ!」

一般的に聞くと、ちょっとした一言だが、どう考えても『ピザを焼け!』としか聞こえないので、もみじは窯の支度に取り掛かった。

「良かったら一緒に作りませんか?薪を燃やす所からスタートです!」

窯が安定する迄の間に生地を捏ねて、ストックしている具材を解凍、

「ここのキッチンって、どれも業務用じゃ無い?」

「ええ、一応入居者の胃袋を預かってますからね!」

ニッコリと調理を進めると、

「器具よりも貴方のウデの方が業務用ね!私、アレやってみたかったの!クルクルってやつ!」

すっかりピザ作りにハマった先生を見た桐は、

「満室確定ね!」

しめしめと、焼き上がったピザを堪能していた。

 午後は、Hシスターズの練習を見学。シアタールームがある程度防音になっているので、そこを使っていたらしい。予餞会の準備の時は秋野の家にいる事が多かったし、自分の役(ももひめ)の事で一杯だったので、バンドの練習なんて思いもしていなかった。

先生は、ギターをちょっと鳴らして、

「三線なら少し弾けるわよ!」

すっかり馴染んでいた。

 結局晩ごはんも食べ、もみじ(・・・)の部屋にお泊り。部屋を出る小雪と入れ替わりで暮らすことになった。


 翌朝、秋野の家で目を覚まし、もみじになってから、花田の家で朝ごはんの支度と思ったら、

「いろはが行けなくなったから、もみじちゃんが行ってくれるんでしょ?」

秋野の母さんのお買い物のお供に行く事になっていた(らしい)。

 母さんの運転する軽四で、ちょっと遠出してお買い物。何を買うって感じじゃなく、何となくウロウロしてランチ。サラダバーで草食動物になって見た。松太郎でいる時はステーキとか、ガッツリ系を勧めでくれるんだけど、もみじだからかな?美容と健康に気を使ってくれたみたい。

 家に帰って午後の2時。

「そろそろ大丈夫かな?おウチ帰ってもいいわよ。松太郎君で行くと良いって。」

ん?そう言うって事は、今まで帰っちゃダメだったんだよね?松太郎に着替えてから庭の近道で裏口に行くと鍵が掛かっていて、鍵を開けると、チェーンも掛かっていた。玄関に回ると、

「キッチリ予定時刻でござる、いろは殿の几帳面な性格は母君譲りであろうか?」

楓はそう言って、アイマスクとヘッドフォンを渡し。当然それを装着するんだよね?何を企んでるのか判らないけど素直に従うと、手を引いて玄関を通過した。

 たぶんダイニングだろう。椅子に座って少しすると、大音量の音楽が止んで、

「もう外していいよ!」

いろはの声で、アイマスクを外すと、大きなケーキと、色んなご馳走がテーブルを埋め尽くしていた。ハッピーバースデーのコーラス、クラッカーの爆発音、さてロウソクを吹き消す段階で、ケーキを確認すると、

『HappyBirthday 桜・桐・芒・雨』

もみじも、松太郎も書かれていなかった。

「こう言うのをお探しですの?」

美月が追加したプレートには

『HBD Eve もみじ・松太郎』

と書かれていて、もう一度クラッカーが鳴り響いた。5人でロウソクを吹き消し、パーティーがスタートした。去年は姉弟妹といろはだけで祝ったんだよね、(この小説も始まって無かったし)皆んなとも知り合って無かったからね。

「誕生日を過ぎてからここに来た子が多かったから、お祝いは2年になってからって事にしてたのよ。」

大小、2つの箱を持ったいろはが、お誕生日パーティーのルールを説明してくれた。2つの箱は勿論プレゼントだけど、雀のお宿形式?そうだったら、小さい方を選ぶのがセオリーだよね?姉達は貰う側だから、面倒は入れ知恵はして無いと思うし。でもココは大きい方がウケるかな?

「じゃあ、こっち!」

ズッシリ重い箱を開けると、以前から欲しかったミンサーが入っていた。挽き肉を作る装置で、粗挽きとかも出来る、高機能なモノだった。

「うわっコレ高かったでしょ?」

皆んなのニヤニヤがちょっと気になったが、同封のカードを読むと、

『お誕生日おめでとう!

また美味しい物をご馳走してね。

菖蒲・牡丹』

母と祖母からのプレゼントは、雨に相談して決めたそうで、5人宛のプレゼントとの事。

「こっちは皆んなから!」

姉弟妹オソロの化粧ポーチでもみじのだけ、中身が入っていた。微妙な嬉しさだけど、何時もは誰かにして貰っていたビューラーを試してみた。化粧品らしき物も入っていたが、黙っていてもそのうち誰かが教えてくれるだろう。


 先生と小雪、夢愛の歓送迎会も兼ねて、楽しく盛りあがった。遅くまで騒いで、秋野の家に帰る時、

「私()実家に泊まるわ!」

誰もツッ込まず、二人でパーティーを抜け出した。


「今日はパパとママ、おばあちゃんちだから、安心してね!」

ベッドの側には、見覚えのある紙袋。飲む薬、塗る薬とゴム製品が入っている筈だ。最近、同じような紙袋を見ると、その中身を妄想してしまい困っている。妄想の域を突破するチャンスをくれているのは間違い無い(筈)。どうしよう?


 結局、明日の尋問を考えると、紙袋に手は伸びなかった。幸い、いろはも同じ様に考えていたらしく、何も起きず、何も起こさずに朝を迎えた。朝、寝惚けての事は、『何も無い』とは言い難いかも知れないが、まぁそう言うことで、もみじになって花田の家のキッチンに直行した。


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