隠蔽
地元バーガーショップは、結晶郭の近くにもあって、昼はそこで、常識的なサイズのハンバーガーを食べた。猛者達は、昨日苦戦した非常識なサイズをオーダー、ペロリと平らげていた。
修道院に向かう電車を降り、
「お手洗い借りてから行くね!」
コンビニに寄ろうとすると、
「観光地だから、おトイレくらいあるわよ。」
桐はガイドマップを見せてくれるが、
「なんか、修道院の中の女子トイレ入るのって、他より罪深い感じしない?」
桐が吹き出して、
「他は良くて、修道院だけは不味いって訳ね?」
意地悪にツッコんで来た。先生も笑うと、
「えっ遥さん、今、笑う所って解るんですね?」
桜がすかさずツッコむと、2人別々に囲まれて尋問を受けた。
こうなってしまうと、下手に隠した方がダメージが大きいので、全て包み隠さずに証言する。尋問を担当する桐は、視線を確かめながら淡々と聞き出して言った。暫くすると先生を担当していた芒が交代、桐と同じような事を繰り返し質問した。
「ココは審議ね!」
どうやら先生は、隠せる事は隠しておこうと頑張っている様子だった。2人の証言に食い違いのある部分を桜が追求。先生は白旗を上げ、昨夜の出来事を白状し始めた。今朝、深くは聞かなかった新事実も明らかになる。
「アルコール度数間違えて、強いカクテル呑んで、潰れちゃったの。あっ桐のオススメ、お母さんが好きだって言うカクテル!」
桐は聞こえない振りで、先生の話しが続いた。
「ベッド迄、運んで貰って、」
「どんな風に?」
「・・・お姫様抱っこで。それから夜中に目が覚めておトイレ、戻った時に確かめたくなったの・・・」
「何を?」
「もみじちゃんが、松太郎君の女装じゃないかって・・・」
「どうやって?」
「・・・ペロンって。」
「ペロン?」
「お布団捲ったら、ショーツだったからね、安心してちょっと脱がせて見たの、そうしたら・・・、松太郎君だったの!慌てて戻そうとしたら、寝返りを打って、上手く出来なくてね、夢だと自分に言い聞かせてベッドに潜っのよね。」
「どっちのベッド?」
「自分のベッドのつもりだったけど、朝目覚めたら、松・・・もみじちゃんのベッドだったのよね。」
「夢だと思ったんですね?」
先生が頷くと、
「他にはどんな夢を見ましたか?」
「も、もみじちゃんにキスする夢、見ました。」
「では、夢だと思っていたけど、実際にキスしていたと言う事ですね?」
先生がモジモジすると小雪は、
「裁判長!誘導尋問です!」
「では、質問を変えます。先生の恋愛対象は、男性ですが?女性ですが?」
「だ、男性です。」
「それでは夢の中でキスした相手がもみじと言うのは不自然ですね?」
先生は真っ赤になって陥落。スキー学習以来の葛藤を語り始めた。スキーの時は、ただ純粋に教え方が上手いと教師として興味深く思ったそうだ。ホットチョコレートの缶も、何も考えていなかったけど、美月のツッコミで異性として気にしているのかも知れないと同様。桜の耳うち『義妹が年上でも気にしませんよ』で、すっかり自分の気持を理解したとの事。バスで会った時から疑っていたが、あまりにも普通に女子の振る舞いだし、一緒の部屋を勧める位だから、もみじなんだろうと思い込む事にしていたそうだ。
「ギルティー!」
桜が判決を下す。皆んなが頷くと、先生はしょんぼり。
「今、正直に話してくれた事が罰って事で良いわね?」
また皆んな頷いて一件落着?
「さあ、またライバルが増えたわ!」
カレンが先生に握手を求めると、
「宣戦布告?」
先生はニッコリ握り返した。
「いえ、いろはの独走を阻止する同胞です!宜しくお願いしますね!」
急拵えの裁判が終わり、修道院を訪ねた。これからキレイになるはずの庭を眺め、集合写真のスポットを借りて写真を取り、お土産屋さんを物色した。
地元の新聞社に務めた事があると言う、有名な歌人の公園に行ったり、聖地巡礼で、モデルの実在が確認できていない、カフェを探したりしながら夜行バスの時間まで散策を楽しんだ。
猛者達を見送り、ホテルに戻る。
「もみじに決まってるでしょ?コロコロ人が変わったらホテルの人だって迷惑じゃない!」
先生の部屋に泊まるのを交代すると思っていたら、桐にシャットアウトされてしまった。
「もみじちゃんですから、気にしませんよ!」
先生は、そう答えるしか無い雰囲気に流されていた。
「お風呂行って来るね。」
部屋に二人きりになるのを嫌ったのか、部屋に入った途端に浴衣に着替えていた。慌ててトイレに駆け込んで見ない様にしたけど、先生なりの『もみじ扱い』アピールなのかもしれない。
「行って来ます!」
の声と、ドアが閉まった音を確かめてから、トイレからでた。少し荷物を整理してからシャワーを浴びて、ベッドで伸びると、沢山歩いて、沢山遊んで沢山ドキドキしたお陰で、また一瞬で眠りについたらしい。
カーテンの隙間から朝日が差し、目が覚めた。視界に入った隣のベッドは無人で、ベッドメイクから乱れた所は無く、先生のバッグが乗っていた。実は、見て確かめ無くても、頬と手の平に感じる柔らかさで、先生が自分の下にいる事が判っていた。
起きてるのかな?そっと離れようと思ったら、ムックリ起きた先生が逆転して
馬乗りになった。
「私、自首して学校辞めるわ。」
「えっ?自首って?」
「だって、コレって淫行罪よね?君が18才未満なのは勿論知っているし!」
「酔っ払って、ベッド間違えた位セーフでしょ?」
「昨夜はわざとここで寝たの。」
「その格好で?」
「ううん、下着着けて浴衣着てたわ。今朝、君が脱がしたんでしょ?」
「えっ!そうなの?じゃあ先生の方が被害者じゃない?ごめんなさい!」
「法的に私がアウトなの、君には迷惑掛けないようにするわ。」
「誰も困って無いし、騒ぎにしたらさ、ウチの同居とかも問題になりそうだし、第一、学校が困るでしょ?」
隠蔽に気持がシフトした先生に、
「絶対、大丈夫!チェックインの時も『桜』で署名してるからね!」
まあ、姉達に説得を任せたら、心配する事も無いんだけどね、一応、するべき事はしておいた方が良いよね?取り敢えず、交番に駆け込んだりはしない雰囲気で身支度を始めた。




