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【昔話】ひとりぼっちの金貸し

作者: くーよん

 昔々、ある所に金貸しの男がいました。

その金貸しはお金を稼ぐことが大好き。

いくらでも貸すけれど、とんでもなく高いお金を要求するので、

友達はいませんでした。

でも、金貸しはとにかくお金が好きでしたので、

「お金があれば、ひとりぼっちでもかまわんわい」

いつもそう言っていました。



 そのうちに金貸しも歳を取り、

お金を数えるのも大変になりましました。

そんなある日、街の広場で、

南の国から来た旅の音楽隊と出会いました。

街から出たことのなかった金貸しは尋ねます。

「君達はお金もないのに楽しそうじゃな」

音楽家は笑顔で言いました。

「僕達には音楽があり、血は繋がってなくても家族がいます

それで十分幸せなんですよ」


金貸しはとにかくお金が好きでしたが、

お金を稼ぐこと以外は考えたことがありませんでした。

金貸しは楽器のひとつも持っていませんでしたし、

家族もいませんでした。

「お金があれば、ひとりぼっちでもかまわんわい」

金貸しはそう言って家に帰ります。


しかし、音楽家があまりに幸せそうな顔をしているので、

金貸しはなんだかとても羨ましくなりました。

なので仕事を辞めて、音楽隊がやって来た南の国で

ゆっくり暮らそうと考えました。


 お金がたくさん入った重い荷物を背負って、金貸しは言います。

「ふぅ。貯めたはいいが持ち運ぶのも大変じゃ。

でもこれ位の重さなら、ひとりぼっちでもかまわんわい」

お金の重さで、どしんどしんと足音を鳴らしながら金貸しは旅に出ました。



 どしんどしん。

 どしんどしん。

 ひとつめの街につきました。



 金貸しは、その町一番おいしいと評判のパン屋さんを見つけました。

折角なので食べてみたいと思い、パン屋さんに入りましたが、

お店には何も置いていません。

パン屋さんは悲しそうに言いました。

「お金がなくて小麦粉を買うこともできないのです」

「それは困った、わしはこの店のパンが食べたいんだ」

仕事をやめても、たっぷりとお金を持っている金貸しは、

パン屋さんにもお金を貸してあげました。

パン屋さんは大喜びで小麦粉を買って、

すぐに美味しいパンを焼いてくれました。


 しかし、数日後、お金を返しに来たパン屋さんに金貸しは言いました。

「これくらいじゃ足りないわい、もっと返すんだね」

パン屋さんは金貸しの言葉にびっくりぎょうてん。

あまりに高くて返せそうもないのです。

困ったパン屋さんは、自分が大事にしていたギターを

お金の代わりに差し出しました。

金貸しは、本当はお金がほしかったのですが、

旅の音楽家の笑顔を思い出しましたので、

「うむ、お金の代わりにこれで許してやろう」

そう言って、それを受け取りました。


「ほっほっほ、これはいい。ギターがあれば、ひとりぼっちでも構わんわい」

ギターをポロロンと鳴らしながら、金貸しは少し軽くなった荷物をもって、

のしのしと足音を鳴らしながらまた旅に出ました。



 のしのし、ポロロン。

 のしのし、ポロロン。

 ふたつめの街につきました。



 金貸しが泊まった宿は、踊り子の踊りが名物。

見事な踊りを楽しんで金貸しは満足して寝ようとしました。

しかし、隣の部屋からしくしく泣き声が聞こえてきます。

「こんな夜に泣いてるのは誰だ」

「申し訳ありません、この宿の踊り子でございます」

話を聞くと、宿に泊まる人が少なくなって食べていけなくなったので、

明日の朝には人買いに買われて行かなければならないと、

踊り子はぽろぽろ涙をこぼしながら話します。


そこで金貸しは、お金を貸してあげました。

「でも、お返しできるお金がありません」

「それではお嬢さんが腰につけてる笛と鈴をもらおう」

踊り子は喜んで笛と鈴を渡しました。


「ほっほっほ、これはいい。これがあれば、ひとりぼっちでも構わんわい」

笛をピーヒャラ鳴らしたり、鈴をリンリン鳴らしたり。

金貸しは楽器を楽しみながら、また旅に出ました。

背負ったお金は減りましたが、歩く足音はてくてくと軽やかです。



 てくてく、ポロロン。ピーヒャラ、リンリン。

 てくてく、ポロロン。ピーヒャラ、リンリン。

 そして、金貸しは南の国につきました。



 金貸しが家の前で荷物を下ろすと、

すぐ近くの家の前で立ち尽くしている兄弟を見つけました。

兄弟はぼろぼろの服を着て、やせっぽっち。

金貸しはどうしたのかと尋ねました。

「お金が無くて、今日食べるパンも買えないんです」

「お父さんやお母さんはどうしたんじゃ?」

「お金だけ置いて居なくなっちゃった」

お兄さんが答えました。

「そのお金はどうしたんじゃ?」

「盗まれちゃった」

弟が答えました。


 それを聞いた金貸しは、兄弟を可哀そうだと思いました。

でも、何も持っていない兄弟にはお金を貸せません。

金貸しが悩んでいると、お兄さんが尋ねました。

「お爺さんは音楽家さんなの?」

「なんでかね」

「だって、1人なのに何個も楽器を持ってるなんておかしいや」

そう言われて、金貸しは思わず笑い出してしまいました。

「そうじゃな、確かにおかしい。わしの腕は2本しかないものな」

金貸しはそう言って、笛をお兄さんに、鈴を弟に渡しました。

「それでは、一緒に演奏しておくれ」

金貸しがギターをボロロンポンと弾けば、お兄さんが笛を吹いてピーヒャララ。

弟が鈴をシャンシャンシャンと鳴らすと、街の人が集まってきて、

どしんどしんと足踏みを始めます。



 ポロロンポン、ピーヒャララ。シャンシャンシャン、どしんどしん。

 ポロロンポン、ピーヒャララ。シャンシャンシャン、どしんどしん。



 金貸しは兄弟に言いました。

「いくつ楽器を持っていても、独りぼっちじゃ一緒に演奏できないわい。

 わしとこれからも演奏してくれるかい」

兄弟は、笑顔で頷きました。



 そうして、ひとりぼっちだった金貸しは、

新しい家族と3人で仲良く暮らしましたとさ。



 めでたしめでたし。

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