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オレンジ12

あづさちゃんが高熱を出してしまった。救急車を呼んだのだが外は台風でなかなか来れないらしい。

仕方がない。あづさちゃんを抱えて病院まで走るしかない。

台風であづさちゃんが濡れないように走っているといつの間にか地面は沼になって走れない。

どうしたって言うんだこんな非常時に早く病院に行かないと、あづさちゃんが大変なことになってしまう。

もがけばもがくほど、私は沈んでいってしまう。

「ハッ」

と驚いて目を覚ましたところ私はベットの上だった。隣に寝かして置いたあづさちゃんがいない。私は息を荒くしたまま、居間に行くと母さんがあづさちゃんを背負って、朝食の準備をしていた。

あづさちゃんのかわいらしい寝顔を見て私は安堵の吐息を吹きながら、私は母さんに、

「ちょっとあづさちゃんを勝手に持ち出さないでよ」

「いいじゃない。私も亜希子に協力してあげたいんだって」

と幸せそうにあづさちゃんは笑っている。

まあいい。そんなあづさちゃんを見ていると私まで幸せになってしまう。

「今日も平和な一日でありますように」

と私は一人でつぶやくのだった。

ホットイップクで私はあづさちゃんを歩かせた。

「すごいすごい」

と興奮して叫ぶのは私だけじゃない。サユリさんも、

「すごいねーあづさちゃん」

と手をたたく。

そして私の目を見つめるサユリさん。だから私は、

「どうしたんですかサユリさん。私の目を見つめちゃって」

と言った。

「今さあ、おもしろい物があるのよ」

「何ですかおもしろい物って?」

私は歩いているあづさちゃんを抱きかかえていった。

「これ」

と言って、オレンジ色のボールを私に見せた。

「何それ?」

ってまさか、またとんでもない不思議があるんじゃないかって内心少しワクワクしていた。

「いい見てて」

と言ってサユリさんは女神様スマイルで私を見つめた。

サユリさんは何かを念じるように目を閉じた。すると玉は光り出して、私が目を背ける。再びサユリさんの方を見ると、私の姿がそこにいた。にっこりと笑いながら。

私はびっくりして、

「これってどういうことですか?」

「これはねえ、念じた人の姿になれる不思議なボールよ」

「ヘェー」

と思った通りで、また私の前で不思議な事を見せつけるサユリさんだった。

「亜希子ちゃんもやってみる?」

と私の姿のまま、ボールを差し出すサユリさん。私はちょっと嫌な予感がしたので「いいです」と言って断った。でもサユリさんは、

「やって見ようよ」

といつもの女神様スマイルに嫌な予感は遠退いて、一回やってみることにした。

抱き上げているあづさちゃんを私に扮したサユリさんに渡し、ボールを受け取った。

私は何になろうかと考えて、私はあこがれの女神様スマイルを放つサユリさんになることに決めた。

ボールを握ってサユリさんを念じると体中が暑くなり、ゆっくりと目を開けると、あら不思議、私はサユリさんの姿になってしまった。

「すごいですね、これ」

とボールを見つめながら言う私。

私の姿でにっこりと笑顔を放つサユリさん。

なんだろう。自分でも思うのは何だが、私って案外輝いていると嬉しく思ってしまう。いやそれはサユリさんであって私ではないからだ。

私は一つ心配なことが思い浮かぶのだ。それをサユリさんに聞くことにする。

「で、戻るときはどうするんですか?」

「・・・」

にっこりと笑い込んで黙っている私に扮したサユリさん。だから私は、

「サユリさん」

と再び声をかける私だったが、サユリさんは無言だ。

そんなサユリさんを見て私は嫌な予感がした。もう一度私は、

「サユリさんサユリさん」

「このボールの効果はねえ、一日すぎないと消えないのよ」

「はあああああああああ?」

と憤り混じりで叫ぶ私だった。

「で、今日のプログラムは、私が亜希子ちゃんの一日を過ごして、亜希子ちゃんが私の一日を過ごすのよ」

と私に扮した姿で女神様スマイルのサユリさん。

「そんなの勝手に決めないで下さいよ」

ふと窓に映るサユリさん姿の私はすごい形相をしている。こんな怒っているサユリさんを見るのは初めてだ。それに私の姿でいるサユリさんは何か笑顔で輝いている。

笑顔というのは心の底から、出さないと輝かないと言うのを私の姿でいるサユリさんを見て初めて思った。

「これは私にとっても亜希子ちゃんにとってもいい経験になると思うのよ」

あづさちゃんをあやしながら言う私に扮したサユリさん。

「あのさあ・・・」

と私は呆れてしまい、もう怒るのも面倒に思った私はサユリさんになんて言えばいいのかわからなかった。

「亜希子ちゃん」

「はい」

気の抜けたような声で言った私は、もうどうでも良いって感じのオーラを放っていた。

「そんな投げやりにならないでよ」

「別になっていませんよ。それにスクールカウンセリングは私の姿のままでやるんですか?」

「いいえ」

「じゃあどうするんですか?」

「亜希子ちゃんがやるんだよ」

「はあ?出来るわけないじゃないですか」

「出来るわよ」

と手をたたいて言う私に扮したサユリさん。

「何を根拠にそんなことを言っているんですか?」

「それはねえ、私はいつも亜希子ちゃんの輝かしい笑顔を見ているからね」

「訳わかんないよ。それにサユリさんは無責任ですよ」

「どうして?」

「だって、スクールカウンセリングってサユリさんに悩み事を相談したいって人たちが来るんでしょ。それなのにサユリさんは私の姿になって、それを放棄しようとしているんですよ」

「亜希子ちゃん」

と急に改まった声だから私もつい、

「はい」

と私も改まって聞く体制になってしまった。

「亜希子ちゃんにはさあ、誰にもまねの出来ない経験をさせて、亜希子ちゃんだけの夢を持たせてあげたいの。だから今日だけ、スクールカウンセリングの仕事をお願い」

とウインクをして私に扮したサユリさんは言う。

まあそこまで言うなら別に構わないが、私がサユリさんを装って悩み事を相談してくる生徒になんて言えばいいのかわからないし不安だ。

そんなことを考えながら、時は時々刻々とすぎていって、お昼は出前を取った。

私はチャーハン一人前で、私に扮したサユリさんはラーメン特盛りとチャーハンの特盛り。あわせて六人前位はあるだろうと、私に扮したサユリさんは良い食べっぷり。

食べ終わったサユリさんに扮した私と私に扮したサユリさんはそれぞれの場所へ。

「じゃあ今日は私は亜希子ちゃんの姿だから車は運転できないから、それぞれ歩いていきましょうか?」

「はい。それとあづさちゃんは?」

「今日は私がお店で預かるよ」

「はい」

とサユリさんと別れて、不安を抱きながら学校へと行くのだ。以前、私は一度だけサユリさんがスクールカウンセリングの仕事をするのを見ていた。

そう言えば名前は忘れたが、夫婦ゲンカに悩む生徒に直接家まで行ってあげて止めにいったんだっけな。

そんな仕事私には出来るわけがないと思うのだがこれも経験だ。やってみるしかない。よし、今日と言う日をサユリさんの姿でがんばってやる。

学校に到着して、カウンセリング室に入っていった。

そろそろ授業が終わる時間だ。

私は緊張していた。深呼吸して、この緊張を抑えようとするのだが、私の緊張は心の底から無限とわき出てくる。どうにかしたいのだが、頭はパニックだ。

コンコンとドアの音が聞こえた。

「ははは、はい。どどど、どうぞ」

と緊張で訥々としたしゃべり方になってしまう。

「失礼します」

と礼儀正しく入ってきたのがいかにも優等生っぽく、誠実な顔立ちに男の子だ。

「どうぞ」

と言って、席に誘導した。

「ありがとうございます」

と言って座る男の子。

「おおお、お茶とジュースどっちが良い?」

私の緊張は止まらない。

「いえ、おかまいなく」

「そう」

と言ってお茶をもてなした。

「ありがとうございます」

と言って相変わらずに礼儀の良い男の子。

「おおお、お名前は?」

「エッ」

と眉間にしわを寄せて、

「サユリ先生。俺のこと忘れたの?」

なんて言われて、サユリさんに扮した私はあたふたとパニックに陥って、どうしようか考えた。だから、

「ごめんちゃい」

なんて、笑ってごまかしてしまうサユリさんに扮した私。

「池田圭ですよ」

「あー池田君ね」

思い出したふりをするサユリさんに扮した私。

「嫌だなあ、サユリ先生俺はいつも来ているじゃないですか。冗談はそれくらいにしてくださいよ」

なんて、笑って言う池田君。

こんな時、私は帳尻を合わせて苦笑いをするしかないのだ。サユリさんも軽率だ。スクールカウンセリングにサユリさんに扮した私が行っても、悩みはおろか、名前さえも知らないのだ。いっそのこと、私とサユリさんの事情を説明した方がいいんじゃないかって思うのだが、そんな不可解なことを唐突に言っても信じてもらえず、困惑して、帰ってしまうだけだろう。

そんなことになったら、サユリさんの立場が悪くなるだけだ。

一度深呼吸をして気持ちを整えた私は、

「今日は何かなあ?」

と笑顔で答えるサユリさんに扮した私。

「俺、好きな人が出来たんです」

頭をボリボリとかきながら照れ臭そうに笑いながら言う池田君。

私はその手の話題がたまらずに好きで、

「誰?誰?」

と興奮して言うサユリさんに扮した私だった。

「いやーそれはちょっと」

池田君の顔が、タコのように赤くなっている。

「私が相談に乗ってあげるよ」

とサユリさんに扮した私でも恋の相談なら得意だ。過去に私が学校に通っていた頃、そんな相談を持ち上げられ、何度か、いろいろな子をラブラブにした記憶がよみがえる。

「いやーでも、こんなこと言ってもサユリ先生に迷惑かもしれないよ」

「大丈夫だって、その子に勇気を持って、映画でも誘ってごらんなさいよ。池田君ルックス良いから声をかけられた女性は誰でも喜ぶと思うよ」

「本当ですか」

なんて嬉しそうに立ち上がり、目を丸くしている。

「本当に本当だよ」

とにっこりと笑うサユリさんに扮した私。

「じゃあ言います」

「うんうん」

私のことではないのに内心ドキドキしてきた。思えば、池田君の相談を受けたサユリさんに扮した私は緊張などどこか遠くの彼方まで飛んでいった。

「実は俺、サユリ先生のことが好きなんです」

「ヘッ?」

「だから俺、サユリ先生のことが」

「エー」

と大声で、サプライズの表現をする私。

断りもなく、サユリさんに扮した私の手を握ってくる池田君。

「離しなさいよ」

と言って、手を引っ込めるサユリさんに扮した私。

私はこのようなとき、どうして良いのか頭がパニックになった。さらに池田君は、

「先生。俺はもう止められないんです」

「何が止められないの?」

「先生のこと思うと夜も眠れないんです」

「い、池田君にはきっと私何かより、もっといい人が現れるから大丈夫よ」

「いや、先生以外にいないんです」

とマジマジとサユリさんに扮した私はまともに目が合わせられなかった。

「ねえ先生」

と再び手を握る池田君。

「やめなさい」

と言って、つい池田君の横っ面をビンタしてしまった。

すると池田君は、

「どうしてもダメですか?」

と半べそ状態で頬に手を当てている。

「だから池田君には私何かよりいい人が見つかるって」

困惑しながら、サユリさんに扮した私は言う。きっとオリジナルのサユリさんも同じ事をするだろうか?

「失礼しました」

と言って池田君は泣きながら走ってカウンセリング室から出ていった。

私はため息をついて、冷や汗をかいた。

そして天井を見つめながら、こうも思う。サユリさんって大変なんだなあって。

そんな中、再びノックの音がした。

「はーい」

と言って、中に入ってもらった。

次の人は清楚でお嬢様って感じの女の子だ。

「えーと」

と言って、私はこの子の名前を知らないので知っているふりをして、

「今日は何かなあ?」

と言った。

「今日って、私初めてここに来たんですけど」

「あーあーあーそうだったね、じゃあお名前は?」

「林優子です。友達がここならどんな相談でも聞いてくれると言うので来ました」

「で、林さんは今日はどうしたの?」

「はい。私好きな人がいるんです」

今度こそサユリさんではなく別の人だろう。そうじゃなきゃ大変だ。と思い、

「うん。それで?私にどんな相談にしたいの?」

とにっこりと笑って、答えるサユリさんに扮した私。

「私、生徒会長の池田圭君が好きなんです」

林さんの相談を受けて、私の心はオーバーヒートしそうなほど胸が躍っていた。林さんは続けて、

「私彼のことを思うと、夜も眠れないんです」

「そうなんだ」

私はふと思いついた。私が林さんの恋のキューピットになってあげたいと思った私は、

「ちょっと待っててね」

とサユリさんに扮した私は廊下の外に出て、池田君を捜した。

彼を見かけた生徒さん達は屋上に行ったと言っている。

早速屋上に向かった。

屋上で、黄昏に染まった町を一望しながら黙っている。

「池田君」

とにっこりと笑って声をかけた。

「サユリ先生」

「さっきはゴメンね」

「いや、いいよ。俺、先生に無理なこと言った俺が悪いんだよ」

「そう」

「俺は先生のこと、あこがれにとどめることに決めたよ」

「そう。それとさあ、今からカウンセリング室に来ない?」

「何ですか急に?」

「君のこと、好きになった女の子がいるんだよ」

「エッ、本当ですか?」

「うん」

と言って、池田君をカウンセリング室に招いた。



「林さん」

「はい」

と振り向いて、池田君と目があった瞬間、林さんは照れて、すぐに顔を背けた。

「林さん。さあ、ここが正念場よ」

と言って、林さんの肩に手を添えた。

「何ですかいったい?」

とおろおろする林さん。

「さあ、池田君もこっち来て」

と言って、林さんと池田君を向かい合わせた。二人とも照れているのか?顔を俯きあっている。

林さんが私の顔を不安そうに見つめてきたので、頑張れのウインクをした。すると林さんは、

「い、い、池田君は好きな人いるんですか?」

緊張しているのか、素っ頓狂な口調だ。

「いや、いないけど」

「じゃ、じゃあ私とおつきあいしてみませんか?」

林さんは思いきって言ったみたいだ。その証拠に顔が真っ赤だ。

見ている私でさえ、ドキドキしている。

しばらく黙りが続いた。

そんな中、二人の今ある気持ちを探るように、二人をちらっと見た。

林さんは恥ずかしそうに目をつぶって池田君の返答待ちだ。

池田君は何やら言葉を選んでいるみたいだ。そして池田君は、

「まあ、お友達からなら」

「ホントに」

と林さんは目がきらきらと輝いている。すごく嬉しそう。

「じゃあ、池田君もう遅いから一緒に帰りませんか?」

「うん」

と池田君は言った。

二人はサユリさんに扮した私に「ありがと」と言って下校していった。

窓の外を見ると、まぶしい夕焼けに目を細めた。

校庭には池田君と林さんが楽しそうに手をつないで下校する姿が見えた。

そんな光景を見て、私はサユリさんみたいなカウンセラーになりたいと思うのだった。



「ただいま」

と言ってサユリさんが経営するお店のドアを開けると私に扮したサユリさんがあづさちゃんを抱きながら笑って、

「おかえり亜希子ちゃん」

「私は今はサユリさんだよ」

「どうだった?スクールカウンセリングは」

「とても良い経験だったよ」

「そう」

「で、サユリさんはどうだったの?」

「うん。今日はお客さんが三人も来たよ」

「本当に?」 「エエ」

「で、いつもとの姿に戻るんでしたっけ?」

「明日の朝よ」

「ふーん」

もう少しサユリさんの姿でいたかった私は一つ相談したい事があった。それは、

「ねえ、サユリさん」

「なあに?」

「私、サユリさんみたいなスクールカウンセラーになりたい。どうすればなれるのかなあ?」

と私は思いきって言ってみた。そしたらサユリさんは、

「じゃあ、そのことに関してはこれからゆっくりと考えていこう。亜希子ちゃんだったらきっと私ではなく亜希子ちゃん自身のすてきなカウンセラーになれるよ」

「でも、私高校もまともに出ていない」

「大丈夫だよ」

とにっこりと笑う私に扮したサユリさん。

そんな笑顔を見ると、私は安心してしまうのだ。

また今日も不思議な体験をしてしまった。そして夢も見つかった。

私はスクールカウンセラーになりたい。

でも私は何をがんばればなれるのかはわからない。

きっと今は夢の途中なのだろう。

そう自分に言い聞かせ眠りについた。


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