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オレンジ11

懐かしいメロディーが聞こえてくる。それは真っ白な雪化粧をまとった山道を奥へ奥へ進んでいくと、そこには草原に一つのお店があった。懐かしいメロディーが聞こえてくるのはその店の方だった。

聞いたことはあるんだけど、なんのメロディーか思い出せない。お店の方へと向かい、ドアノブにはOPENと表示されているプレートを見て、ゆっくりとドアを開けると、そこはお店ではなくせまいホールだった。舞台を見ると姉さんがピアノを弾いていた。

そのメロディーはそう言えば、姉さんが作曲した曲だった。

姉さんが演奏している最中に私をちらりと見て、微笑んだ。

懐かしい曲だ。それは姉さんが九歳の頃に作曲した曲で、子供の頃よく聞いていた。

目覚めてそこは映画館だった。どうやら私は退屈な映画にうんざりして眠ってしまったみたいだ。

隣の席でサユリさんは映画に夢中みたいだ。ハンカチで涙を拭っている。

映画が終わり、サユリさんと私は外に出た。「亜希子ちゃんには退屈な映画だったかな」  

とサユリさんには感動的な物語だったのか、まだ涙が乾いていないみたいだ。

「はい」

と私はせっかく誘ってもらったのに申し訳なさそうに言った。

「私は感動してしまったなあ」

言われなくても私には分かる。

なんて会話をして、駅まで行くと、サユリさんが、

「何か鳴き声が聞こえない?赤ん坊のような」

「え?」

と私は耳を澄ました。

聞こえる。おぎゃあおぎゃあと連呼する赤ん坊の声が、駅には私とサユリさんしかいない。

「あっちのロッカーの方からだ」

とサユリさんは駅に設置されているロッカーを指さした。

急いでロッカーに向かい二人でくまなく探したところサユリさんが、

「いた」

と言って、ゆっくりと赤ん坊を抱き上げた。

「何捨て子?」

と私は眉を寄せて言った。

「そうみたいだね」

と抱き上げる赤ん坊に視線を合わせてサユリさんが言った。

その赤ん坊は母性本能を持った女性なら誰でも愛しくさせてしまうほどかわいかった。でも、

「何かこの子顔赤いよ」

と私が心配していったら、サユリさんがおでこに手を当てて、

「すごい熱。おむつもびしょびしょ」

「どうします?サユリさん。救急車呼ばないと」

「待って亜希子ちゃん」

「はい」

「亜希子ちゃん。コンビニで冷えぴたくーるとおむつ買ってきて」

「分かりました」

と言ってコンビニまで走って冷えぴたクールとおむつを買ってサユリさんの元へ。

サユリさんはコートを脱いで赤ん坊の全身を包み込んでいた。

「買ってきましたよサユリさん」

「ありがとう」

と言ってサユリさんは地べたにコートをひいて、赤ん坊のおむつを取って、女の子みたいだ。取り替えて、冷えぴたクールをおでこに張って赤ん坊の体を包み込んだ。

すると一安心。赤ん坊は泣くのをやめ静かに眠りについた。

「これで一安心ですね」

「ええ、でも誰だろうね、こんなかわいい子を寒い中置き去りにするなんて」

悲しそうな面もちで言うサユリさん。私も同感だ。

「この子どうします?」

「とりあえず身元が分かるまで私たちが面倒見ましょうか」

「私たちって・・・」

また勝手なことを言うサユリさんに腹を立てたが、改めて赤ちゃんの顔を見つめたら、私の母性本能か?ほっとけなくて賛成することにした。

「亜希子ちゃんも抱いてみる?」

「はい」

喜んでと言わんばかりに抱かしてもらった。

なんてかわいいのだろう。思わずほうずりをしてしまう私だった。まるでお母さんになった感じだ。

今日はサユリさんと私は休日なので映画に見に行ったのだけども、まあ私にとってつまらない映画だったけど、サユリさんは泣いてしまうほどの内容だ。その帰りにまさか捨て子の赤ちゃんを拾ってしまうとは思っても見なかった。生後一年くらいの女の子の赤ちゃんだ。名前は私とサユリさんであづさとひらがなで名付けた。

その次の日である。

あづさちゃんは熱が下がってミルクもぐんぐん飲んで元気を取り戻したのである。

「はーいあづさちゃん」

と愛嬌を込めて言ってはいはいさせた。するとあづさちゃんは立ち上がって、歩いて私のところに向かってくる。

「すごいねあづさちゃん」

抱き寄せて、頬ずりをした。

あづさちゃんは笑っている。

「ねえ、サユリさん」

「なあに亜希子ちゃん」

「今日はスクールカウンセリングでしょ」

「うん。だから今日はお店であづさちゃんの面倒見てくれないかなあ」

「喜んで」

と言ってあづさちゃんを肩車した。

今日はチャーハンをお昼に作って、あづさちゃんを私の膝元へ置いてチャーハンを食べさせてあげた。

その光景を見ていたサユリさんは、

「あらあら」

といつもの女神様スマイルで言った。

昼食がすんで、

「じゃあ、亜希子ちゃん。私はスクールカウンセリングに行くから、お店とあづさちゃんよろしくね」

と車を止めてサユリさんは私に言った。

「はい」

とまかせてと言わんばかりのセリフをかねて返事をした。

私は今日まで、あの幽霊のおばあちゃん以外にお客がこないことをいいことにあづさちゃんと戯れていた。

「はーいこっちこっち」

と手をたたいてあづさちゃんを歩かせた。あづさちゃんはにこにこと笑いながら、私の方まで歩いてきたので抱き上げた。

「すごいでちゅうねえ」

と私は再び頬ずりをしてしまった。

それはやばいと言わんばかりのかわいさだ。今日から私の娘にしよう。



「亜希子ちゃん。亜希子ちゃん」

と私を呼びかけるのはゆっくりと目を開けるとサユリさんだ。

「サユリさん」

と私はあづさちゃんを抱きしめながら気づかないうちに眠ってしまったようだ。

「今日はお疲れさま」

と言って、あづさちゃんを私の手元から奪うように抱き上げるサユリさん。だから私は、「今日は私が家で面倒見ますよ」

「ダメよ。亜希子ちゃんのお母さんびっくりするでしょ」

「大丈夫ですよ」

「でもおむつ変えたり、お風呂に入らせたりいろいろ大変よ」

「二人で育てようと言ったじゃないですか」

と言って、サユリさんの手元から奪い取る私。

「本当に大変よ」

「大丈夫ですよ」

といろいろとサユリさんと話し合って今日は私が引き取ることにした。



「ただいま」

と母さんに言いかける私。

「おかえり」

と言って、玄関までエプロン姿で来る母さん。

あずさちゃんを見て目を丸くする母さん。私は笑いながら、

「これにはちょっと事情があるんだ」

と言った。

「どうしたのその子」

「ロッカーで拾ったの。私とサユリさんで」

「あんた子猫や子犬とは違うんだよ。警察に届けた方がいいんじゃないの?」

「いや、それはかわいそうだよ」

「そう」

と母さんはどうやら理解してくれたみたいだ。



「はーい。あづさちゃん。しっかりご飯を食べましょうね」

と言って、夕食をスプーンで食べさした。それを見ていた母さんは、

「亜希子。私にも貸して」

と目を輝かせながら言った。

「ダメだよ母さん。この子は私が育てるんだから」

「いいじゃない少しぐらい」

「だめ」

と言った。

あづさちゃんは突然泣き出したので、

「どうちたんでちゃかあづさちゃん」

と赤ちゃん言葉で言う私。

「おむつよ」

と母さんは言った。

「そうか」

と言って、おむつをはずしたらびしょびしょだった。

「ほら、亜希子。母さんに任せなさいよ」

と母さんは割り込んできた。

「私がやるからいいよ」

「いいからいいから、まかせなさい」

と言って、手際よくおむつを交換する母さん。さすがだ。

「じゃあ、次にお風呂に入りましょうか」

「ダメよ亜希子。赤ちゃんの肌はとても繊細なんだから」

「じゃあ、どうすればいいの?」

「体を拭いてあげるのよ」

私は母さんの言われたとおりにしてあげた。

母さんは私や姉さんの赤ちゃんの時使っていた衣類を押入から出して着せた。

すると、あづさちゃんは気持ちよさそうに眠りについた。

私も今日は疲れたので、ベットにあづさちゃんを隣に寝かせた。私はじっと、あずさちゃんのやばいほどかわいい寝顔に唇を重ねてしまった。

次の日。

私はどうやら今日は夢を見なかった。そう言えば私は・・・あれ、あづさちゃんがいない。

耳を澄ますと居間から母さんの子守歌が聞こえた。すかさず居間に行ったら、母さんがあづさちゃんをおんぶして朝食を作っている。

「あら亜希子おはよう」

とさわやかな笑顔で母さんは言った。

あづさちゃんを勝手に持ち出した母さんに憤りを感じて、

「何勝手にあづさちゃんを持ち出してるの?」

と大声で言ったら、眠っていたあづさちゃんは目を覚まし泣き出してしまった。

「亜希子。あづさちゃんの前では大声禁止」

と調子よく言う母さんに私は呆れて、黙っているしかないのだ。

「ほら、貸してよ私のあづさちゃんを」

と私の言葉を無視して、泣いているあづさちゃんを慰めようとする母さん。ため息が止まらない。

朝食の支度がすんで、私は母さんに、

「ほら、私のあづさちゃん返してよ」

とあづさちゃんに食事を与えている母さんに言った。

「ダメよ。今は食事を与えているんだから、亜希子がこの子を生んだ訳じゃないんでしょ」

と母さんは言う。

「それはそうだけどさあ・・・」

と私は言葉をなくしてしまう。

そんなこんなで食事がすんで母さんは、

「じゃあこの子、母さんの職場までつれて行くね」

「ダメだよそれはそんなことしたらサユリさんに怒られちゃうよ」

「冗談よ冗談」

と母さんが背負うあづさちゃんを母さんは渡してくれた。

「じゃあ私もサユリさんのところに行くから」

「そう。じゃあサユリさんによろしくね」

と言って母さんは会社に行った。

私はあづさちゃんを改めて抱くと幸せを感じてしまったのだ。

「さて、私たちも出かけましょうかあづさちゃん」 

と顔を見ると気持ちよさそうに眠っている。



「おはようございますサユリさん」

と今日も一日あづさちゃんと一緒にファイトって感じの笑顔で言った。

「あらあら亜希子ちゃん。あづさちゃんの調子はどう?」

「今、気持ちよさそうに眠っています」

「でも今日でお別れした方がいいわ」

と別れを惜しむサユリさんの笑顔はそこにはあった。

納得のいかない私は、

「エッ」

と不服の感情を込めて言葉を漏らした。

「今日あたりお店に来るのよ。あづさちゃんのお母さんが」

「どういうこと?」

「あのお店はねえ、誰かを心から望むとその人が来るのよ。だからあづさちゃんは言葉には出さないのだろうけど、きっとお母さんを心の底から呼んでいると思うんだ」

とまた私に不可解なことを言っているけど、それはきっと本当のことなのだろう。だから私は、

「嫌だよ。だって、ロッカーの中に置き去りにするなんて母親のやることじゃないよ。私返したくはない。この子は私が育てるよ」

「亜希子ちゃん」

とサユリさんは私の目をマジマジと見つめて、お願いだから理解してと言うまなざしで訴えかけている。

しばらく会話が途切れ、私の心は大きな振り子のように大きく揺れた。

でも私はどちらも保留と言うことであづさちゃんのお母さんに会うだけあってみるかと言うことで、

「わかりました」

と言った。

「そう」

納得してくれた私に対して、にっこりと女神様スマイルで言うサユリさん。

「でも、私はあうだけですよ。もしその母親がロッカーに置き去りにしたことを反省の色を見せなかったら、私は渡しませんよ」

「うん。そうだね。今日のお昼何食べたい?」

今は食べるという気分ではなかったがあづさちゃんがお腹をすかせるので離乳食と言った。

お昼がすんで、サユリさんはスクールカウンセリングを休み、私とお店であづさちゃんのお母さんを待った。

実を言うと私は不機嫌オーラをサユリさんに放つほど、不機嫌だった。

だってこんなかわいい子をロッカーに捨てて、今頃、そのお母さんが迎えに来るなんて。

私の胸元にはあづさちゃん。

「高い高い」

と言って、あづさちゃんはかわいらしく笑う。

そんなときだ。

「ゴメンください」

と言って店に入ってきたのは、こんな寒い中薄手の黒いワンピースを着込んだ女子中学生に間違えられるほどの私より小さな女性だった。

サユリさんの方に目を向け「お母さんが来たの」と言葉には出さずに目で訴える私だった。するとサユリさんは訝しげな顔でお母さんらしき人をじっと見つめている。

「あなたはこの子の母親ですか?」

とあづさちゃんを抱きかかえながら、その人に近づく私。するとサユリさんは、

「亜希子ちゃん。その人にあづさちゃんを渡しちゃダメ」

私に叫ぶ。

それはどういうことなのか「エッ」と疑問の意味を含めながら、私は言った。

「返しなさいよ」

とお母さんは泣きながら叫ぶ。

「亜希子ちゃん。あづさちゃんを抱いて下がって、絶対に渡しちゃダメよ」

と私には訳が分からず言われるままにサユリさんを背後であづさちゃんを抱いたまま下がった。

サユリさんに私は、

「どういうことですか?」

と聞く。

「後で事情は説明するわ」 「返しなさいよ。私の子を」

お母さんらしき人は奇声じみた声で叫んだ。

「あなたは人間じゃない。あなたはこの子を道連れにする気ね」

とサユリさんが言ったら、お母さんらしき人は泣き伏してしまった。

「泣いてもダメ。あなたは母親失格よ」

「もうこうするしか手段はなかったの。私一人では育てるのは無理だから」

そのあづさちゃんの母親はまるで幼い子供のように泣いている。

「あなたはもうこの世の人間じゃないのよ。あるべきところに帰りなさい」

と言って、袋から粉みたいな物を振りまいてあづさちゃんの母親は泣きすくんだまま泡のように消えていった。

唖然としている私はまたとんでもない物を見たと体の心から震えた。

後で話しをサユリさんに聞くと、残念ながらあづさちゃんのお母さんは自殺してしまったらしい。あづさちゃんはあづさちゃんのお母さんを願っていたらしく、その亡霊を連れてきたみたいだ。

あづさちゃんは泣き疲れて眠るまで泣いていた。まるで実の母親が死んだことを知ったかのように。

 いや、言葉には出さないが死んだと言うことは本能的に悟ったのかな?

私とサユリさんはと言うと、あざやかなオレンジ色の夕日に照らされながら遠くを見つめていた。

そんな中、私はある決心をしていた。それを今サユリさんに伝えるのだ。

「サユリさん」

「なあに?亜希子ちゃん」

「この子は私たちで育てましょうよ」

「そうね、立派な大人になるまで私たちが最大限の愛情を捧げていこうよ。だから亜希子ちゃん。これからもよろしくね」

と女神様スマイルでいうサユリさん。握手をアピールしている。

サユリさんと握手をして、なぜだか嬉しくて涙がこぼれた。

「どうして泣いているの?」

不思議そうに言うサユリさん。だから私は、「ちょっと嬉しくて」

「そう」

とサユリさん。

夕日は沈み、一番星が輝いたとき、あづさちゃんを一番星に向け高い高いをしたら、喜んでいるあづさちゃん。

姉さん。私は思うのです。あづさちゃんが笑ってくれると私は幸せです。だからきっとあづさちゃんも幸せだと思うのです。そんな幸せが絶え間なく続けるにはこの子に愛情をもっともっと注げばいいことなのです。でもそれはたやすくはないのですが、弱い心に負けないように愛をはぐくめば幸せは死ぬまで続くと思うのです。どうか姉さん。私を見守りください。


オレンジの日々。


人間は一人では幸せにはなれない。初々しいあづさちゃんを見ていると改めて思います。だから私の側にあづさちゃんがいるのです。そして母さんやサユリさんがいるのです。私自身もっと愛情にはぐくまれ、もっと愛情を誰かにはぐくめば、もっと幸せになれると思うのです。



「ふーう」

ベットの上でため息をついた。

 隣で小さな寝息をたてて、眠っているあづさちゃんがかわいい。私の心の中で一生守ってあげたいと思う。そんな気持ちが私を強くさせるのです。


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